メシアの生涯(98)—神殿税を払うイエス—

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銀貨をくわえた魚の奇跡を、私たちの生活に適用してみる。

「神殿税を払うイエス」

§088 マタ17:24~27

1.はじめに

  (1)文脈の確認

①山頂体験と麓の体験

②2度目の受難予告

③きょうの箇所も、弟子訓練という文脈で読む必要がある。

④ペテロへの個人レッスンである。

⑤時代的、文化的背景を理解し、そこから普遍的教えを抽出する必要がある。

  (2)A.T.ロバートソンの調和表

「メシアであるイエスが、2分の1シェケルの神殿税を払う」(§89)

マタ17:24~27

2.アウトライン

  (1)起:モーセの律法の規定

  (2)承:宮の納入金を集める人たちの登場

  (3)転:イエスの教え

  (4)結:銀貨をくわえた魚の奇跡

  3.結論:

    (1)神の方法と人間の責務

    (2)信者の特権

銀貨をくわえた魚の奇跡を、私たちの生活に適用してみる。

Ⅰ.起:モーセの律法の規定

   1.この記録は、マタイの福音書にのみ出てくる。

    (1)読者はユダヤ人である。

      ①ユダヤ人には大いに関心のある内容である。

      ②異邦人には、興味のない話である。

      ③モーセの律法の規定を知らないと何が起こっているかを理解できない。

    (2)出30:11~15

「【主】はモーセに告げて仰せられた。『あなたがイスラエル人の登録のため、人口調

査をするとき、その登録にあたり、各人は自分自身の贖い金を【主】に納めなければ

ならない。これは、彼らの登録によって、彼らにわざわいが起こらないためである。

登録される者はみな、聖所のシェケルで半シェケルを払わなければならない。一シェ

ケルは二十ゲラであって、おのおの半シェケルを【主】への奉納物とする。二十歳、

またそれ以上の者で登録される者はみな、【主】にこの奉納物を納めなければならない。

あなたがた自身を贖うために、【主】に奉納物を納めるとき、富んだ者も半シェケルよ

り多く払ってはならず、貧しい者もそれより少なく払ってはならない」

      ①人口調査のたびに、半シェケルを支払う。

      ②これは、幕屋と礼拝を維持するための財源となる。

      ③彼らをわざわいから守る「贖い金」である。

      ④これが、納めるための動機となる。

      ⑤富む者も貧しい者も、等しく半シェケルを支払う。

    (3)歴史的展開

      ①バビロン捕囚からの帰還後、神殿税となる。

      「私たちは、私たちの神の宮の礼拝のために、毎年シェケルの三分の一をささげ

るとの命令を自分たちで定めた」(ネヘ10:32)

  *神殿での礼拝維持のために、毎年捧げることを定めた。

*減額されて、3分の1シェケルとされた。

②イエスの時代になると、毎年、過越の祭りの時期に納める神殿税となった。

  *額は、2分の1シェケル。

  *離散の地にいるユダヤ人も、これを支払った。

  *ユダヤ人の民族的連帯の表現でもあった。

  *慈善によって生活している人たち、物乞いたちには、強制しなかった。

  2.律法に対するイエスの姿勢

    (1)モーセの律法は、完ぺきに守られた。

    「まことに、あなたがたに告げます。天地が滅びうせない限り、律法の中の一点一画

でも決してすたれることはありません。全部が成就されます」(マタ5:18)

  ①モーセの律法に違反したなら、その者はメシアとは言えない。

  ②イエスが律法の要求を満たしたので、私たちは律法の責めから解放された。

    (2)しかし、口伝律法は否定された。

      ①パリサイ人との論争は、口伝律法を巡るものであった。

    (3)この年、イエスは神殿税を納めていなかった。

      ①過越の祭り(春)の時期に納税する。

      ②すでに仮庵の祭り(秋)の時期になっている。

      ③約半年、納税が遅れていた。

Ⅱ.承:宮の納入金を集める人たちの登場(24節)

   1.24節

  「また、彼らがカペナウムに来たとき、宮の納入金を集める人たちが、ペテロのところに

来て言った。『あなたがたの先生は、宮の納入金を納めないのですか』」

   (1)徴税役の人たちが、イエスの一行がカペナウムに戻るのを待っていた。

    ①その年、イエスとペテロは、神殿税を納入していなかった。

  (2)「あなたがたの先生は、宮の納入金を納めないのですか」

     ①つまり、あなたがたの先生は、律法に違反するのかという意味である。

    ②もしそうなら、イエスはメシアとは言えない。

2.25節a

「彼は『納めます』と言って、家に入ると、」

   (1)ペテロは、「はい」(ギリシア語でナイ)と言った。

    ①強意の「はい」である。「もちろん」という意味。

  (2)彼は戸惑ったことであろう。

    ①モーセの律法の規定なので、違反することは考えられない。

    ②彼自身が、なぜ支払わないのか疑問に思っていたであろう。

    ③貧しい懐具合を考えたことであろう。

    ④イエスの名誉を守るために、とりあえず「もちろん」と答えておいた。

  (3)イエスに対してどう切り出したらよいか考えながら、家に入った。

    ①定冠詞がある。カペナウムの家と言えば、ペテロの家である。

Ⅲ.転:イエスの教え

   1.25節b

  「先にイエスのほうからこう言い出された。『シモン。どう思いますか。世の王たちはだ

れから税や貢を取り立てますか。自分の子どもたちからですか、それともほかの人たちか

らですか』」

  (1)イエスは、すべてを知っておられた。

    ①旧約聖書の預言者たちは、同様の知識を示している。

    ②1サム9:20、1列14:6、2列5:26、6:32

  (2)イエスから先に質問された(ラビ的教授法)。

    「シモン。どう思いますか。世の王たちはだれから税や貢を取り立てますか。自分の

子どもたちからですか、それともほかの人たちからですか」

   ①当時のローマ帝国では、王の子どもたちは納税を免除された。

    *パレスチナにおいては、ローマの市民権を持つ者は、免税された。

      ②ユダヤ教でも、免税という概念は知られていた。

        *祭司たち、神殿で仕える者たちは、それを自分に適用した。

2.26節

「ペテロが『ほかの人たちからです』と言うと、イエスは言われた。『では、子どもたち

にはその義務がないのです』」

   (1)ペテロは、正しく回答した。

    ①王たちは、自分の子どもたち以外の者たちから税を取り立てる。

    ②現代の民主主義社会では、あり得ないことである。

  (2)「では、子どもたちにはその義務がないのです」

     ①子どもたちは、納税を免除される。

    ②イエスの論点

      *神殿は父の家である。

      *イエスは父の息子である。

      *それゆえ、神殿での礼拝維持のために税を納める必要はない。

      *イエスの弟子たちは御国の子どもたちであるので、免税される。

  (3)マタイの福音書の読者たちは、イエスのことばをどのように受け止めたのか。

    ①イエスは、モーセの律法に違反しているのではない。

    ②イエスはユダヤ教の希望であるがゆえに、神殿税を払う必要がない。

Ⅳ.結:銀貨をくわえた魚の奇跡

  1.27節

  「しかし、彼らにつまずきを与えないために、湖に行って釣りをして、最初に釣れた魚を

取りなさい。その口をあけるとスタテル一枚が見つかるから、それを取って、わたしとあ

なたとの分として納めなさい」

   (1)ユダヤ人の指導者たちは、イエスを糾弾する理由を捜していた。

    ①イエスは、このような些細なことで問題を起こしたくはなかった。

    ②相手の要求を呑むことにした。

  (2)ペテロに、大好きなことをするように命じた。

    ①ペテロは、ガリラヤ湖に釣り糸を垂れた。

    ②最初に釣れた魚の口に、銀貨が見つかる。

    ③スタテル銀貨=4ドラクマ(4デナリ)

    ④ひとり分の税は、2デナリ(労働者2日分の賃金)であった。

2.話はここで終わっているが、ペテロがイエスの命令通りにしたことは明白である。

  (1)ちなみに、ペテロの魚と言われている魚は、銀貨を加えることができるほどの大

きさの口を持っている。

  ①しかし、ここに出てくる魚は、ペテロの魚ではない。

  ②恐らくナマズであろう。

結論

  1.神の方法と人間の責務

    (1)イエスの全知

      ①ガリラヤ湖のどの魚が銀貨を加えているかを知っていた。

      ②その魚がどこにいるかを知っていた。

      ③ペテロが最初に釣る魚がそれであることを知っていた。

    (2)イエスは銀貨を直接与えないで、ペテロの働きを要求した。

      ①神は、人を用いて働かれる。

      ②ここでは、ペテロが好きなこと、得意なことを命じている。

  2.信者の特権

    (1)イエスの弟子たちは、天の御国の子どもたちとしての特権を持っていた。

    (2)クリスチャンには、自由がある。

      ①ロマ8:15~16

      「あなたがたは、人を再び恐怖に陥れるような、奴隷の霊を受けたのではなく、

子としてくださる御霊を受けたのです。私たちは御霊によって、『アバ、父』と

呼びます。私たちが神の子どもであることは、御霊ご自身が、私たちの霊ととも

に、あかししてくださいます。もし子どもであるなら、相続人でもあります。私

たちがキリストと、栄光をともに受けるために苦難をともにしているなら、私た

ちは神の相続人であり、キリストとの共同相続人であります」

    (3)しかし、クリスチャンは自由の行使を制限する。

      ①ガラ5:13

「兄弟たち。あなたがたは、自由を与えられるために召されたのです。ただ、そ

の自由を肉の働く機会としないで、愛をもって互いに仕えなさい」

②些細なことで論争する必要はない。

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