メシアの生涯(189)—裏切られ逮捕されるイエス—

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イエス逮捕の出来事から、霊的教訓を学ぶ。

「裏切られ逮捕されるイエス」

ヨハ18:2~12

1.はじめに

  (1)文脈の確認

    ①イエスを逮捕しようとする者たちが、ゲツセマネの園にやって来た。

      *金曜日の真夜中過ぎで、夜明けまではまだ時間がある。

    ③ここから、イエスの逮捕、裁判、十字架刑へと進んで行く。

    ④ユダヤ的背景を考慮しないと、ことの進み方を理解することはできない。

      *イエスは、口伝律法を破ったという理由で有罪にされた。

      *しかし、ユダヤ人の指導者自身が22回口伝律法に違反する。

      *ミシュナの中の「the Sanhedrin Tractate」に記された口伝律法である。

    (2)A.T.ロバートソンの調和表(新区分)

      Part XIII  §153 裏切られ逮捕されるイエス

マコ14:43~52、マタ26:47~56、ルカ22:47~53、ヨハ18:2~12

2.アウトライン

  (1)イエスを逮捕するために来た人々(2~3節)

  (2)イエスの対応(4~9節)

  (3)ペテロの対応(10~12節)

  3.結論

    (1)イスカリオテのユダについて

    (2)イエスの神性宣言について

    (3)ユダヤ人指導者たちの混乱について

イエス逮捕の出来事から、霊的教訓を学ぶ。

Ⅰ.イエスを逮捕するために来た人々(2~3節)

   1.2節

Joh 18:2 ところで、イエスを裏切ろうとしていたユダもその場所を知っていた。イエスがたびたび弟子たちとそこで会合されたからである。

     (1)イスカリオテのユダは、イエスを銀貨30枚で売り渡した。

      ①これは、1番目の律法違反である。

      ②賄賂がからんだ逮捕は、律法違反である(出23:8参照)。

    (2)ユダが必要とされた理由

      ①イエスを、群衆から離れた所で逮捕する必要があった。

        *ユダは、イエスがゲツセマネの園で祈る習慣があることを知っていた。

*ユダはイエスがゲツセマネの園にいることを予測し、先導役を果たした。

      ②ユダヤ総督ポンテオ・ピラトの前で、証言する必要があった。

        *この証言がなければ、ローマ兵の派遣はない(ユダによる積極的関与)。

      ③イエスを裁くローマ法廷において証人となる必要があった。

        *その前に、ユダは自殺することになる。

   2.3節

Joh 18:3 そこで、ユダは一隊の兵士と、祭司長、パリサイ人たちから送られた役人たちを引き連れて、ともしびとたいまつと武器を持って、そこに来た。

     (1)一隊の兵士

      ①ギリシア語で「スペイラ」、英語で「cohort」。兵士という言葉はない。

      ②ローマの歩兵隊のことで、通常は400~600人(正式には800人)から成る。

      ③ユダがポンテオ・ピラトの前で証言したことを示している。

      ④ピラトは、祭りの期間はカイザリヤからエルサレムに上ってきていた。

    (2)祭司長、パリサイ人たちから送られた役人たち

       ①ユダヤ人の下役たち

      ②いわば、神殿の治安を維持する警察官である(temple police)。

    (3)ユダは手抜かりなく行動した。

      ①満月であるが、「たいまつ」(ファノス)と「ともしび」(ランパス)を用意した。

      ②これは、2番目の律法違反である。日没後に刑事事件を扱ってはならない。

      ③彼らは、世の光である方を、たいまつとともしびを持って捜しに来た。

Ⅱ.イエスの対応(4~9節)

   1.4節

Joh 18:4 イエスは自分の身に起ころうとするすべてのことを知っておられたので、出て来て、「だれを捜すのか」と彼らに言われた。

     (1)イエスは、事態の進展を支配しておられた。

      ①ヨハ13:1

Joh 13:1 さて、過越の祭りの前に、この世を去って父のみもとに行くべき自分の時が来たことを知られたので、世にいる自分のものを愛されたイエスは、その愛を残るところなく示された。

      ②彼らに見つかる前に、自ら進んで姿を現された。

        *十字架の死は、自発的なものであることが分かる。

        *とはいえ、ユダやイエスを十字架に付けた人たちに罪がないわけではない。

      ③「だれを捜すのか」という質問は、ゲツセマネの園に来た目的を彼ら自身に言

わせるためのものである。

   2.5~6節

Joh 18:5 彼らは、「ナザレ人イエスを」と答えた。イエスは彼らに「それはわたしです」と言われた。イエスを裏切ろうとしていたユダも彼らといっしょに立っていた。

Joh 18:6 イエスが彼らに、「それはわたしです」と言われたとき、彼らはあとずさりし、そして地に倒れた。

     (1)「ナザレ人イエスを」

      ①彼らは、この方が創造主であり、救い主であることを知らずに、「ナザレ人イエ

ス」を捜していた。

    (2)「それはわたしです」

      ①これは、イエスの神性宣言である。

      ②出3:14、ヨハ8:58

      ③「わたしである」(新共同訳)

      ④ユダもまた、その宣言を聞いていた。

    (3)イエスの神性に触れた彼らは、あとずさりして、地に倒れた。

      ①イエスはすべての状況を支配しておられる。

      ②イエスの了解がなければ、彼らはイエスを逮捕することができない。

   3.7~9節

Joh 18:7 そこで、イエスがもう一度、「だれを捜すのか」と問われると、彼らは「ナザレ人イエスを」と言った。

Joh 18:8 イエスは答えられた。「それはわたしだと、あなたがたに言ったでしょう。もしわたしを捜しているのなら、この人たちはこのままで去らせなさい。」

Joh 18:9 それは、「あなたがわたしに下さった者のうち、ただのひとりをも失いませんでした」とイエスが言われたことばが実現するためであった。

   (1)2度目のやり取りがあった。

    ①彼らは、「わたしである」というイエスの宣言の意味と力を理解しなかった。

    ②2度目の「わたしである」は、「わたしがナザレのイエスである」という意味。

    ③イエスは、弟子たちを去らせよと要求した。

  (2)これは、イエスの預言の成就である。

    ①ヨハ17:12

Joh 17:12 わたしは彼らといっしょにいたとき、あなたがわたしに下さっている御名の中に彼らを保ち、また守りました。彼らのうちだれも滅びた者はなく、ただ滅びの子が滅びました。それは、聖書が成就するためです。

    ②良き羊飼いは、羊のために命を捨てる。

Ⅲ.ペテロの対応(10~12節)

   (1)ルカ22:47~48

Luk 22:47 イエスがまだ話をしておられるとき、群衆がやって来た。十二弟子のひとりで、ユダという者が、先頭に立っていた。ユダはイエスに口づけしようとして、みもとに近づいた。

Luk 22:48 だが、イエスは彼に、「ユダ。口づけで、人の子を裏切ろうとするのか」と言われた。

    ①口づけは、生徒がラビに示す愛と尊敬の行為である。

    ②ユダは、イエスを特定する「しるし」として口づけを用いようとした。

    ③イエスは、ユダがしようとしていることを知っておられた。

   1.10節

Joh 18:10 シモン・ペテロは、剣を持っていたが、それを抜き、大祭司のしもべを撃ち、右の耳を切り落とした。そのしもべの名はマルコスであった。

     (1)ペテロの軽率な行動

      ①彼は、暴力を使用してイエスを救おうとした。

      ②彼は漁師であるが、兵士ではない。

      ③二振りの剣のうちのひとつを使った(ルカ22:38)。

    (2)大祭司のしもべ

      ①マルコスは、大祭司の代理である。

      ②大祭司は、過越の祭りの間、可能な限り汚れに触れることを避けていた。

      ③彼の右の耳が切り落された。

      ④理性的理解に基づかない宗教的熱心は、人を過ちに導く。

   2.11~12節

Joh 18:11 そこで、イエスはペテロに言われた。「剣をさやに収めなさい。父がわたしに下さった杯を、どうして飲まずにいられよう。」

Joh 18:12 そこで、一隊の兵士と千人隊長、それにユダヤ人から送られた役人たちは、イエスを捕らえて縛り、

     (1)イエスの叱責

      ①イエスは、父から与えられた杯を飲もうとしている。

      ②それを剣で妨害することは許されない。

      ③これは、弟子たちへの預言的警告ともなっている。

    (2)ルカ22:51

Luk 22:51 するとイエスは、「やめなさい。それまで」と言われた。そして、耳にさわって彼をいやされた。

      ①敵に対するイエスの愛

      ②ペテロに対する守り

    (3)マタ26:52~53

Mat 26:52 そのとき、イエスは彼に言われた。「剣をもとに納めなさい。剣を取る者はみな剣で滅びます。

Mat 26:53 それとも、わたしが父にお願いして、十二軍団よりも多くの御使いを、今わたしの配下に置いていただくことができないとでも思うのですか。

      ①個人や国としての自衛を否定しているのではない。

      ②霊的戦い(信仰を守る戦い)のために、武器を用いることはできない。

      ③その証拠に、イエスは天の軍勢を呼び寄せようとはしなかった。

       ④罪人がイエスを逮捕し、縛ったのはこれが初めてである。

    (4)ルカ22:52

Luk 22:52 そして押しかけて来た祭司長、宮の守衛長、長老たちに言われた。「まるで強盗にでも向かうように、剣や棒を持ってやって来たのですか。

      ①3番目の違反。

②裁判官やサンヘドリンのメンバーが、逮捕に関わってはならない。

    (5)マコ14:50~52

Mar 14:50 すると、みながイエスを見捨てて、逃げてしまった。

Mar 14:51 ある青年が、素はだに亜麻布を一枚まとったままで、イエスについて行ったところ、人々は彼を捕らえようとした。

Mar 14:52 すると、彼は亜麻布を脱ぎ捨てて、はだかで逃げた。

      ①この青年は、マルコであろう。

結論

  1.イスカリオテのユダについて

    (1)1テモ6:9~10

1Ti 6:9 金持ちになりたがる人たちは、誘惑とわなと、また人を滅びと破滅に投げ入れる、愚かで、有害な多くの欲とに陥ります。

1Ti 6:10 金銭を愛することが、あらゆる悪の根だからです。ある人たちは、金を追い求めたために、信仰から迷い出て、非常な苦痛をもって自分を刺し通しました。

    (2)ユダは特別な悪人ではなく、私たちのような普通の人であろう。

      ①彼は、貪欲の奴隷となり、悪魔に利用された。

(例話)ハンナ・アーレント(1906~75年)

  ①ドイツ出身のユダヤ人でアメリカ合衆国に亡命した哲学者、思想家。

②全体主義を生みだす大衆社会の分析で有名。

③1963年にニューヨーカー誌に『イエルサレムのアイヒマン-悪の陳腐さについ

ての報告』を発表し、大論争を巻き起こした。

④アイヒマンは極悪人でなく、極普通の小心者で取るに足らない役人に過ぎなか

った。

⑤原爆を投下したアメリカが裁かれないことも批判している。

  2.イエスの神性宣言について

    (1)聖書では、神の臨在に触れた者は、ひれ伏している(前に倒れる)。

    (2)近年、聖霊に打たれた人が後ろに倒れる現象が起こっている。

      ①英語で、「being slain in the spirit」という。

      ②このような現象を、聖書的にどう説明すべきか。

  3.ユダヤ人指導者たちの混乱について

    (1)真夜中過ぎの逮捕から翌朝のピラトによる有罪宣言まで、大混乱が続く。

    (2)ユダヤ人の指導者たちは、神の計画に沿ってではなく、自分たちの計画に沿って

動こうとしているからである。

  ①当初の予定では、祭りが終わってからイエスを逮捕することになっていた。

  ②イエスは、過越の食事の席で、ユダを促した。

(3)祝福の時も、試練の時も、神の計画に従って生き抜きたいものである。

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