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使徒の働き(83)―パウロの逮捕―
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第三次伝道旅行について学ぶ。
「パウロの逮捕」
使徒21:27~40
1.はじめに
(1)文脈の確認
①パウロはエルサレムに着き、長老たちと交流した。
②パウロは、異邦人教会からの献金を届けた。
③エルサレムの長老たちはパウロに助言した。
*悪い噂があるので、律法を否定していないことを示す必要がある。
*ナジル人の誓願をしている4人の兄弟たちのために、髪を剃る費用を出す。
④そこでパウロは、それを実行する。
*使21:26
Act 21:26 そこで、パウロはその人たちを引き連れ、翌日、ともに身を清めて宮に入り、清めの期間が終わって、ひとりひとりのために供え物をささげる日時を告げた。
⑤ひとり当たりの供え物(民6章)
*雄の子羊1頭(全焼のいけにえ)
*雌の子羊1頭(罪のためのいけにえ)
*雄羊1頭(和解のいけにえ)
*かご1杯の種なしパン(穀物の捧げ物)
*壺1杯のぶどう酒(注ぎの捧げ物)
⑥大きな犠牲ではあるが、これはパウロの善行(ミツヴァ)と見なされる。
⑦神殿の画像
(2)アウトライン
①神殿内での暴動(27~30節)
②千人隊長の介入(31~36節)
③パウロの危機管理(37~40節)
結論:
1.パウロの危機管理
2.「隔ての壁」
パウロの危機管理から霊的教訓を学ぶ 。
Ⅰ.神殿内での暴動(27~30節)
1.27~28節a
Act 21:27 ところが、その七日がほとんど終わろうとしていたころ、アジヤから来たユダヤ人たちは、パウロが宮にいるのを見ると、全群衆をあおりたて、彼に手をかけて、
Act 21:28a こう叫んだ。
(1)「ところが、その七日がほとんど終わろうとしていたころ、」
①祭りの期間、100万人以上のユダヤ人たちがエルサレムに滞在していた。
②五旬節は終わっていたが、多くの巡礼者たちがエルサレムに留まっていた。
③パウロは、清めのための7日を神殿で過ごした。
④供え物を捧げる時が目前に迫っていた。
(2)ところが、アジヤから来たユダヤ人たちが問題を起こした。
①彼らは、第二次伝道旅行でパウロを迫害したエペソのユダヤ人たちである。
②彼らは不信者であり、熱狂的な律法主義者である。
*ディアスポラの地からエルサレムに上って来ること自体が、熱狂的な証拠。③彼らは、パウロが神殿にいるのを見た。
④そこで群衆を扇動し、パウロに手をかけて、こう叫んだ。
2.28b~29節
Act 21:28b 「イスラエルの人々。手を貸してください。この男は、この民と、律法と、この場所に逆らうことを、至る所ですべての人に教えている者です。そのうえ、ギリシヤ人を宮の中に連れ込んで、この神聖な場所をけがしています。」
Act 21:29 彼らは前にエペソ人トロピモが町でパウロといっしょにいるのを見かけた ので、パウロが彼を宮に連れ込んだのだと思ったのである。
(1)彼らが騒いだ理由は次の2つある。
①パウロは、誤った教えを教えている。
*この民と律法と神殿に逆らうことを、至る所ですべての人に教えている。
*これは、ステパノに対する批判の内容と似ている(使6:13~14)。
*しかしパウロは、律法や神殿を否定したわけではない。
②パウロは、異邦人を神殿の中に連れ込んで神殿を冒涜している。
*異邦人は、異邦人の庭までしか入れなかった。
*神殿に入った異邦人は、死刑に処せられる。
*ローマは、この死刑の権利だけは認めざるを得なかった。
(2)彼らの怒りの原因
①「前にエペソ人トロピモが町でパウロといっしょにいるのを見かけた」
②トロピモは、エペソ教会の代表として献金をエルサレムに運んだ人物である。
③偏見があるので、パウロを見ただけで、トロピモを神殿に連れ込んだと思った。
④つまり、異邦人が「隔ての壁」(隔ての中垣)を超えて聖所に入ったということ。
3.30節
Act 21:30 そこで町中が大騒ぎになり、人々は殺到してパウロを捕らえ、宮の外へ引きずり出した。そして、ただちに宮の門が閉じられた。
(1)もし本当にトロピモが神殿に入っていたとするなら、それは死刑に値する。
①町中が大騒ぎになった(誇張法?)。
②人々は殺到して、パウロを捕えた。
③パウロを神殿の外に引きずり出し、宮の門を閉じた。
*神殿内で血を流すことは、冒涜罪に当たる。
*神殿内では、彼らは手加減しながらパウロを打っていた。
*神殿の門を閉じてから、パウロを異邦人の庭で殺そうとしたのである。
Ⅱ.千人隊長の介入(31~36節)
1.31~32節
Act 21:31 彼らがパウロを殺そうとしていたとき、エルサレム中が混乱状態に陥っているという報告が、ローマ軍の千人隊長に届いた。
Act 21:32 彼はただちに、兵士たちと百人隊長たちとを率いて、彼らのところに駆けつけた。 人々は千人隊長と兵士たちを見て、パウロを打つのをやめた。
(1)この騒ぎは、ただちに千人隊長に報告された。
①神殿の北西には、神殿域全体を見下ろせるアントニア要塞がそびえ立っていた。
②祭りの期間、厳重な警備体制が敷かれ、兵士たちが常時神殿の監視に当たった。
*約50年に渡るユダヤ人支配の経験から、このことを学んだ。
③神の民が、ローマ軍の監視下に置かれていることの悲劇について考えてみよう。
*その原因は、ユダヤ人たちの不信仰にあった。
*私たちも、不信仰のゆえに神以外のものに隷属させられることがある。
(2)暴動を静めたのは、クラウデオ・ルシヤ(使23:26)という千人隊長である。
①千人隊長は、兵士たちと百人隊長たちとを率いて、彼らのところに駆けつけた。
②それを見た暴徒たちは、パウロを打つのを止めた。
③暴動を起こす側も、静める側も、命懸けである。
*暴動を起こす者たちは、死刑に処せられる。
*暴動を静めることができない兵士たちも、死刑に処せられる。
2.33~34節
Act 21:33 千人隊長は近づいてパウロを捕らえ、二つの鎖につなぐように命じたうえ、パウロが何者なのか、何をしたのか、と尋ねた。
Act 21:34 しかし、群衆がめいめい勝手なことを叫び続けたので、その騒がしさのために確かなことがわからなかった。そこで千人隊長は、パウロを兵営に連れて行くように命令した。
(1)パウロは、二つの鎖につながれた。
①これは、重大犯人を扱うときの方法である。
②2人の兵士たちと鎖でつながれたのであろう。
(2)千人隊長は、なぜパウロが騒ぎの原因になっているのかを群衆にたずねた。
①しかし、群衆があまりにも混乱していたため確かなことは分からなかった。
②そこで千人隊長は、尋問のためにパウロを要塞の中に連行することにした。
3.35~36節
Act 21:35 パウロが階段にさしかかったときには、群衆の暴行を避けるために、兵士たちが彼をかつぎ上げなければならなかった。
Act 21:36 大ぜいの群衆が「彼を除け」と叫びながら、ついて来たからである。
(1)パウロが連行される途中、群衆は兵士たちに守られるパウロを奪還しようとした。
①兵士たちは、パウロをかつぎ上げた。
(2)使21:36(訳文の比較)
「大ぜいの群衆が『彼を除け』と叫びながら、ついて来たからである」(新改訳)
「大勢の民衆が、『殺してしまえ』と叫びながら、ついて来たからである」(新改2017)
「大勢の民衆が、『その男を殺してしまえ』と叫びながらついて来たからである」
(新共同訳)
「大ぜいの民衆が『あれをやっつけてしまえ』と叫びながら、ついてきたからである」
(口語訳)
①ルカ23:18との類似性
Luk 23:18 しかし彼らは、声をそろえて叫んだ。「この人を除け。バラバを釈放しろ。」
②「その男を殺せ。バラバを釈放しろ」(新改訳2017)
Ⅲ.パウロの危機管理(37~40節)
1.37~38節
Act 21:37 兵営の中に連れ込まれようとしたとき、パウロが千人隊長に、「一言お話ししてもよいでしょうか」と尋ねると、千人隊長は、「あなたはギリシヤ語を知っているのか。
Act 21:38 するとあなたは、以前暴動を起こして、四千人の刺客を荒野に引き連れて逃げた、あのエジプト人ではないのか」と言った。
(1)アントニア要塞に連行されようとした時、パウロは千人隊長に話しかけた。
①パウロがギリシア語で話しかけたので、千人隊長は非常に驚いた。
(2)千人隊長は、自分の誤解に気づき、こう確かめる。
①「あなたは暴動を起こしたあのエジプト人ではないのか」
②ユダヤ人の歴史家ヨセフスは、このエジプト人についての記録を残している。
「自ら預言者を名乗るエジプト人が、民衆をだまして、オリーブ山に結集するよ
うに扇動した。しかし、その暴徒の一群はローマ総督フェリクスによって弾圧さ
れ、400人が殺され、200人が捕虜となった」
③首謀者であるエジプト人は逃れた。
④千人隊長は、そのエジプト人が戻って来たと思った。
2.39~40節
Act 21:39 パウロは答えた。「私はキリキヤのタルソ出身のユダヤ人で、れっきとした町の市民です。お願いです。この人々に話をさせてください。」
Act 21:40 千人隊長がそれを許したので、パウロは階段の上に立ち、民衆に向かって手を振った。そして、すっかり静かになったとき、彼はヘブル語で次のように話した。
(1)パウロは、自己紹介をした。
①キリキヤのタルソ出身のユダヤ人である。
②その町の市民。つまりローマの市民である。
③自分はローマ市民なので、反ローマ運動とは何の関係もない。
(2)次に、群衆に弁明する機会を千人隊長に求め、千人隊長はそれを許可した。
①パウロはこれを伝道の機会と捉えた。
②神殿からアントニアの要塞に上る階段の上に立ち、民衆に向かって手を振った。
*これは、人々を静めるための動作である。
*パウロが手を振るのを見て、民衆は静まった。
*物音一つしないほどの静寂がやって来た。
③パウロは、今度はヘブル語で話し始めた。
結論:
1.パウロの危機管理
(1)動揺してもおかしくない状況で冷静さを保つのは、容易なことではない。
①しかしパウロは、暴動の渦中に置かれても平安を失わなかった。
(2)危機管理のための2つの武器
①彼は、礼儀正しい態度で千人隊長に接した。
*「一言お話ししてもよいでしょうか」は、丁寧な言葉である。
*礼儀正しい態度が、弁明の機会を得るきっかけとなった。
②彼は、終始冷静さを保った。
*彼の冷静な態度は、大声で叫んでいる群衆の狂気とは好対照をなしている。
*大声ではなく、静かな言葉の中にこそ力がある。
(ILL)1995年のアメリカ映画『アポロ13』
①月面着陸船アポロ13号爆発事故(1970年4月)の実話に基づく作品である。
②3名の宇宙飛行士の物語
2. 隔ての壁(中垣)
(1)当時の神殿には、「隔ての壁」と呼ばれるものがあった。
①異邦人の庭と婦人の庭を仕切る高さ1.2メートルほどの木の柵
②ヨセフスによれば、この柵の中(内庭)に侵入する異邦人は死刑に処せられる
との警告文が掲げられていた。
*写真②
(2)旧約時代には、異邦人は神殿の内庭に入ることができなかった。
①「隔ての壁」が、ユダヤ人と異邦人を分離していたのである。
②その壁は、イエス・キリストの十字架によって取り去られた。
③それどころか、聖所と至聖所の隔ての垂れ幕までも開かれた。
Mat 27:51 すると、見よ。神殿の幕が上から下まで真っ二つに裂けた。そして、地が揺れ動き、岩が裂けた。
④エペソ2:14~16
Eph 2:14 キリストこそ私たちの平和であり、二つのものを一つにし、隔ての壁を打ちこわし、
Eph 2:15 ご自分の肉において、敵意を廃棄された方です。敵意とは、さまざまの規定から成り立っている戒めの律法なのです。このことは、二つのものをご自身において新しいひとりの人に造り上げて、平和を実現するためであり、
Eph 2:16 また、両者を一つのからだとして、十字架によって神と和解させるためなのです。敵意は十字架によって葬り去られました。
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