メシアの生涯(117)—良きサマリヤ人のたとえ—

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良きサマリヤ人のたとえから、霊的教訓を学ぶ。

「良きサマリヤ人のたとえ」

ルカ10:25~37

1.はじめに

  (1)文脈の確認

①前回に続いて、この箇所はルカだけの記録である。

②良きサマリヤ人のたとえは、ルカの福音書の中で最も有名なたとえ話。

③たとえ話の解釈においては、文脈が非常に重要である。

④前回は、70人の派遣について学んだ。

⑤イエスは幼子たちの信仰を喜ばれ、12弟子たちにこう言われた。

Luk 10:23 それからイエスは、弟子たちのほうに向いて、ひそかに言われた。「あなたがたの見ていることを見る目は幸いです。

Luk 10:24 あなたがたに言いますが、多くの預言者や王たちがあなたがたの見ていることを見たいと願ったのに、見られなかったのです。また、あなたがたの聞いていることを聞きたいと願ったのに、聞けなかったのです。」(ルカ10:23~24)

⑥それを聞いていた律法学者が、イエスを試そうとした。

  (2)A.T.ロバートソンの調和表

「イエスは、良きサマリヤ人のたとえを用いて、律法学者の質問に答えた」(§103)

ルカ10:25~37

  2.アウトライン

  (1)律法学者とイエスの対話(25~28節)

    ①律法学者(25節)

    ②イエス(26節)

    ③律法学者(27節)

    ④イエス(28節)

  (2)良きサマリヤ人のたとえ(29~37節)

    ①たとえ話の背景(29節)

    ②たとえ話の内容(30~35節)

    ③たとえ話の結論(36~37節)

  3.結論:

    (1)第1のレベルの解釈

    (2)第2のレベルの解釈

    (3)永遠のいのち

良きサマリヤ人のたとえから、霊的教訓を学ぶ。

Ⅰ.律法学者とイエスの対話(25~28節)

1.律法学者(25節)

Luk 10:25 すると、ある律法の専門家が立ち上がり、イエスをためそうとして言った。「先生。何をしたら永遠のいのちを自分のものとして受けることができるでしょうか。」

     (1)律法の専門家(ノミコス)=律法学者

      ①モーセの律法の専門家が、立ち上がって質問した。

      ②その動機は、イエスを試すためであった。

      ③イエスはモーセの律法に無知か、モーセの律法を否定するか、そのいずれか。

      ④イエスの評判を落とそうとしている。

    (2)彼の誤解

      ①イエスは、単なる教師のひとりであるという誤解。

*「先生」は「ディダスカロス」である。

      ②永遠のいのちは、業によって獲得できるという誤解。

    (3)質問の内容は、パリサイ的ユダヤ教にとっては典型的な神学的質問である。

      ①マタ19:16~22

      ②ルカ18:18~23

  2.イエス(26節)

Luk 10:26 イエスは言われた。「律法には、何と書いてありますか。あなたはどう読んでいますか。」

    (1)この律法学者との対話を念頭に、今後の話の展開を理解する必要がある。

      ①彼は、イエスを単なる教師としてしか見ていない。

      ②彼は、永遠のいのちは業によって得られると考えている。

    (2)イエスは、質問に対して質問で答えた。

      ①典型的なラビ的教授法である。

②イエスは、2つの質問をした。

  *「律法には、何と書いてありますか」

  *「あなたはどう読んでいますか」(典型的なラビ的質問である)

  3.律法学者(27節)

Luk 10:27 すると彼は答えて言った。「『心を尽くし、思いを尽くし、力を尽くし、知性を尽くして、あなたの神である主を愛せよ』、また『あなたの隣人をあなた自身のように愛せよ』とあります。」

     (1)律法学者は、正しく答えた。

      ①申6:5

      ②レビ19:18

    (2)律法を正しく守るとは、神を愛し、隣人を愛することである。

      ①律法をこの2つの愛に要約することは、他の律法学者もしていた。

      ②イエスも同じことを教えた(マコ12:29~31)。

  4.イエス(28節)

Luk 10:28 イエスは言われた。「そのとおりです。それを実行しなさい。そうすれば、いのちを得ます。」

     (1)「それを実行しなさい」とは、「それを継続して永遠に行いなさい」という意味。

      ①ギリシア語の現在形が用いられている。

    (2)イエスの回答を誤解してはならない。

      ①一見すると、業による救いが可能なように見える。

      ②しかしこれは、仮定の回答である。

    (3)イエスの回答に対する正しい応答とは、以下のようなものである。

      ①人間には、それは不可能である。

      ②私にはそれが実行できない。

      ③それゆえ、神よ、私を憐れんでください。

Ⅱ.良きサマリヤ人のたとえ(29~37節)

  1.たとえ話の背景(29節)

Luk 10:29 しかし彼は、自分の正しさを示そうとしてイエスに言った。「では、私の隣人とは、だれのことですか。」

     (1)これは、責任回避の質問である。

      ①律法学者は、良心の呵責を覚えている。

      ②しかし、自分の行為が不完全であることを認めるのは、プライドが許さない。

      ③そこで、話題をそらす質問をしたのである。

      ④隣人とは、当時の認識では、同胞のユダヤ人のことである。

  2.たとえ話の内容(30~35節)

    (1)30節

Luk 10:30 イエスは答えて言われた。「ある人が、エルサレムからエリコへ下る道で、強盗に襲われた。強盗どもは、その人の着物をはぎ取り、なぐりつけ、半殺しにして逃げて行った。

       ①たとえ話の細部を、比ゆ的に解釈してはならない。

      ②それらの要素は、たとえ話の中心テーマを伝えるために必要な仕掛けである。

      ③ある人とは、ユダヤ人であろう。

      ④エルサレムからエリコまでは、約900メートルの下り(約30キロ)である。

      ⑤強盗が潜む非常に危険な道である。

      ⑥当時、着物は高価なもので、一般人は一着しか持っていなかった。

      ⑦旅人は、半殺しに会った。

    (2)31~32節

Luk 10:31 たまたま、祭司がひとり、その道を下って来たが、彼を見ると、反対側を通り過ぎて行った。

Luk 10:32 同じようにレビ人も、その場所に来て彼を見ると、反対側を通り過ぎて行った。

       ①祭司

        *アロンの家系

        *隣人を愛するはずの人

        *死体に触れることを恐れた。

*パリサイ人たちは、自分の影が死体にかぶさっただけで汚れると教えた。

*彼は、エルサレムから下る旅の途上にある。

*神殿での奉仕ができなくなることを心配する必要はない。

*旅人は半殺しに会っている。

*祭司は、リスクを冒したくないと考えた。

*この役目は、レビ人か一般のユダヤ人に任せるのがよい。

      ②レビ人

        *レビ族であるが、アロンの家系ではない。

    *神殿で祭司の援助をした。

        *汚れに関する教えは、祭司ほど厳しくない。

        *しかし彼も、汚れに触れることを恐れた。

    (3)33~35節

Luk 10:33 ところが、あるサマリヤ人が、旅の途中、そこに来合わせ、彼を見てかわいそうに思い、

Luk 10:34 近寄って傷にオリーブ油とぶどう酒を注いで、ほうたいをし、自分の家畜に乗せて宿屋に連れて行き、介抱してやった。

Luk 10:35 次の日、彼はデナリ二つを取り出し、宿屋の主人に渡して言った。『介抱してあげてください。もっと費用がかかったら、私が帰りに払います。』

       ①サマリヤ人

        *ユダヤ人たちは、サマリヤ人を悪霊の名前としても使っていた。

        *ヨハ8:48でイエスは、サマリヤ人(悪霊つき)と呼ばれた。

Joh 8:48 ユダヤ人たちは答えて、イエスに言った。「私たちが、あなたはサマリヤ人で、悪霊につかれていると言うのは当然ではありませんか。」

     *サマリヤ人は、ユダヤ人とアッシリヤ人の混血である。

    *イエスは、このたとえ話で、ユダヤ人の偏見を批判された。

      ②サマリヤ人は、困難な中に置かれたユダヤ人の隣人となった。

        *憐みの心を抱いた。

        *応急手当を施した。

          ・オリーブ油とぶどう酒を医薬品として使用し、包帯をした。

  ・ロバに乗せて、宿屋に連れて行って介抱した。

        *宿屋の主人に看護を委託した。

          ・ユダヤ人は、異邦人の油やぶどう酒を避けた。

          ・費用の支払いを約束した。

  3.たとえ話の結論(36~37節)

Luk 10:36 この三人の中でだれが、強盗に襲われた者の隣人になったと思いますか。」

Luk 10:37 彼は言った。「その人にあわれみをかけてやった人です。」するとイエスは言われた。「あなたも行って同じようにしなさい。」

     (1)イエスの質問

      ①「この三人の中でだれが、強盗に襲われた者の隣人になったと思いますか」

    (2)律法学者の回答

      ①彼には、答えは分かっている。

      ②しかし、サマリヤ人という言葉は使っていない。

    (3)イエスの教え

①「あなたも行って同じようにしなさい」

②問うべきは、誰が隣人かではなく、私は誰の隣人になれるだろうか、である。

結論:

  1.第1のレベルの解釈

    (1)隣人愛の教え

      ①ユダヤ人たちは、同胞のユダヤ人を隣人と考えていた。

      ②サマリヤ人は、苦難に会っているユダヤ人の隣人となった。

    (2)隣人愛を心に宿す人は、差別や偏見を乗り越えて困っている人を助ける。

      ①神に従う人は、そのような隣人愛を実践すべきである。

  2.第2のレベルの解釈

    (1)当時のユダヤ教の指導者たちは、半殺しになっている人を見捨てた。

      ①罪人を救うことに関しては、律法は無力である。

      ②律法は命じるが、それを実行する力を与えてくれない。

    (2)ユダヤ人たちから拒否されていたサマリヤ人が、隣人愛を示した。

      ①イエスは、ユダヤ人たちから拒否され、サマリヤ人とさえ呼ばれた。

      ②良きサマリヤ人の中に、イエスの姿を見る。

  3.永遠のいのち

    (1)律法によって永遠のいのちを得ることは不可能である。

      ①律法は、恵みによってエジプトを脱出することができた民に与えられた。

      ②律法は、私たちがいかに罪深いかを教えるものである。

    (2)神と隣人に対する完ぺきな愛を実行することは、不可能である。

      ①「何をしたら永遠のいのちが得られるのか」という質問は、的外れである。

      ②隣人愛の実践に心を砕く人に約束されているのは、地上生活での長寿である。

    (3)永遠のいのち

  ①時間的要素よりも、質的要素に強調点がある。

      ②神との平和から来る新しいいのちである。

      ③イエスを信じた時から始まっているが、やがて完成するいのちである。

      ④信仰と恵みによって得るいのちである。

⑤ヨハ3:16

Joh 3:16 神は、実に、そのひとり子をお与えになったほどに、世を愛された。それは御子を信じる者が、ひとりとして滅びることなく、永遠のいのちを持つためである。

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