メシアの生涯(36)—罪を赦す権威—

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このメッセージでは...

ユダヤ的視点から、中風の人の癒しについて学びます。

「罪を赦す権威」

§046 マコ2:1~12、マタ9:1~8、ルカ5:17~26

1.はじめに

  (1)2つの癒しの記事が続く。

    ①レプラ患者の癒し(この癒しは、メシア的癒しである)

    ②中風の人の癒し(罪を赦す権威)

③その結果、宗教的指導者層との対立が激しくなる。

    (2)A.T.ロバートソンの調和表

罪を赦す権威(§46)

  マコ2:1~12、マタ9:1~8、ルカ5:17~26

    (3)この箇所は、ユダヤ的視点から読み解く必要がある。

      ①今まで見えなかった新しい視点が見えてくる。

  2.メシア運動の評価のプロセス(3段階)

    (1)観察の段階

      ①メシア運動の可能性があると判断した場合に、評価のプロセスが始まる。

②第1の段階では、沈黙して目の前に起こっている事象を観察するだけ。

③メシア運動ではないと判断した場合は、ここで終わる。

    (2)審問の段階

      ①メシア運動の可能性ありと判断した場合は、第2の段階に進む。

      ②第2の段階では、種々の質問を投げかける。

    (3)評価の段階

      ①最後に、メシア運動であるかどうかを、宣言する。

3.アウトライン(ルカ5:17~26)

  (1)起:イエスと宗教的指導者の対立(17節)

  (2)承:イエスからの挑戦(18~20節)

  (3)転:宗教的指導者たちの反撃(21節)

  (4)結:イエスの勝利(22~26節)

  4.メッセージのゴール

(1)信仰の力

(2)罪と病の関係

(3)赦しの力

このメッセージは、ユダヤ的視点から、中風の人の癒しについて学ぼうとするものである。

Ⅰ.起:イエスと宗教的指導者の対立(17節)

   1.17節a

  「ある日のこと、イエスが教えておられると、パリサイ人と律法の教師たちも、そこにす

わっていた。彼らは、ガリラヤとユダヤとのすべての村々や、エルサレムから来ていた」

   (1)レプラ患者の癒しから、しばらく経った時期である。

    ①この癒しはメシア的癒しであった。

    ②その影響が、ここに見られる。

  (2)場所は、カペナウムのペテロの家であろう。

  「数日たって、イエスがカペナウムにまた来られると、家におられることが知れ渡っ

た」(マコ2:1)

(3)イエスが教えておられる場所に、宗教的指導者たちがいた。

  ①パリサイ人

  ②律法の教師たち(律法学者)

  ③彼らは、「ガリラヤとユダヤとのすべての村々」から来ていた。

  ④また、「エルサレム」からも来ていた。

  ⑤これは、単なる田舎教師の集まりではない。

  ⑥メシア運動の「観察の段階」が始まっていた。

  ⑦彼らは、公式の審問団である。

  2.17節b

  「イエスは、主の御力をもって、病気を直しておられた」

     (1)「主の御力をもって」

      ①「キュリオスから来る癒しの力」である。

      ②これは、聖霊の力とイコールである。

(2)イエスは、ナザレの会堂で、イザ61:1を朗読された。

「わたしの上に主の御霊がおられる。主が、貧しい人々に福音を伝えるようにと、わ

たしに油をそそがれたのだから。主はわたしを遣わされた。捕らわれ人には赦免を、

盲人には目の開かれることを告げるために。しいたげられている人々を自由にし、」

(ルカ4:18)

(3)「病気を直しておられた」

       ①これから起こることのために、読者を準備する言葉である。

  3.この家の中に、不穏な空気が流れていることを見過ごしてはならない。

Ⅱ.承:イエスからの挑戦(18~20節)

   1.18節

  「するとそこに、男たちが、中風をわずらっている人を、床のままで運んで来た。そして、

何とかして家の中に運び込み、イエスの前に置こうとしていた」

   (1)マコ2:2~3の情報

  「それで多くの人が集まったため、戸口のところまですきまもないほどになった。こ

の人たちに、イエスはみことばを話しておられた。そのとき、ひとりの中風の人が四

人の人にかつがれて、みもとに連れて来られた」

(2)家には人が一杯いた。

  ①この地方で発掘された家のサイズは、最大でも一辺が3間(5.4メートル)。

  ②面積は、9坪(18畳)である。

  ③立った状態で、50人位が最大の収容人数であろう。

(4)中風の人を運んできたのは、4人の男であった。

  ①脳溢血の後遺症で、体の一部、あるいは、全部を動かすことができない状態。

  ②4人は、家族か、友人か。

  2.19節

  「しかし、大ぜい人がいて、どうにも病人を運び込む方法が見つからないので、屋上に上

って屋根の瓦をはがし、そこから彼の寝床を、ちょうど人々の真ん中のイエスの前に、つ

り降ろした」

(1)余りにも混雑しているので、イエスに近づくことができなかった。

  ①普通なら諦めて帰る状況である。

(2)奇抜な発想

  ①「屋上に上って屋根の瓦をはがし」

  「そこから彼の寝床を、ちょうど人々の真ん中のイエスの前に、つり降ろした」

(3)パレスチナの家の構造

  ①平屋建て

  ②屋根の上に人が乗っても平気なくらいに頑丈であった。

  ③屋根の構造

*梁を渡し、その上にいかだ状の木枠を乗せる。

*さらに、木の枝や、木の葉で覆う。

*最後に、藁を混ぜた粘土を乗せ、それを平らに延ばす。

*乾燥すると、強固な屋根になった。

      ④建物の壁に階段が取り付けられおり、そこから屋根に上ることができた。

      ⑤ルカの福音書では、「屋根の瓦」となっている。

        *タイルのことである。

        *当時、異邦人の建築様式の影響を受けた家があった。

  3.20節

  「彼らの信仰を見て、イエスは『友よ。あなたの罪は赦されました』と言われた」(新改

訳)

  「イエスはその人たちの信仰を見て、『人よ、あなたの罪は赦された』と言われた」 (新共

同訳)

「イエスは彼らの信仰を見て、『人よ、あなたの罪はゆるされた』と言われた」 (口語訳)

「イエスはこれほどまでの信仰を見て、病人に、『あなたの罪は赦されました』と宣言な

さいました」 (リビングバイブル)

  (1)マルコとマタイでは、「子よ」という呼びかけになっている。

    ①イエスの親愛な態度が表現されている。

    ②「彼らの信仰を見て」とは、4人と中風の人。

  (2)イエスは、先ず罪の赦しを宣言された。

    ①この順番が重要である。

    ②パリサイ人や律法学者の観察の目を意識してのことである。

    ③イエスは、ご自分には罪を赦す権威があることを示された。

    ④後に、そのことを肉体的な癒しを行うことによって証明される。

Ⅲ.転:宗教的指導者たちの反撃(21節)

1.21節

「ところが、律法学者、パリサイ人たちは、理屈を言い始めた。『神をけがすことを言う

この人は、いったい何者だ。神のほかに、だれが罪を赦すことができよう』」

   (1)彼らはまだ発言することを許されていない。

    ①マコ2:6

「ところが、その場に律法学者が数人すわっていて、心の中で理屈を言った」

②マタ9:3

「すると、律法学者たちは、心の中で、『この人は神をけがしている』と言った」

  (2)彼らの神学は正しい。

    ①神のほかに、罪を赦すことのできる者はいない。

    ②彼らのイエスに対する認識が間違っている。

2.22~23節

「その理屈を見抜いておられたイエスは、彼らに言われた。『なぜ、心の中でそんな理屈

を言っているのか。『あなたの罪は赦された』と言うのと、『起きて歩け』と言うのと、ど

ちらがやさしいか」

   (1)イエスは、彼らの心の中を見抜いておられた。

    ①彼らの心は怒りで煮えくり返っていた。

  (2)ラビ的教授法:質問には質問で。

    ①生徒に考えさせ、自分で正しい結論を導き出せるように指導する。

  (2)質問の内容

  「あなたの罪は赦された」と言うのと、「起きて歩け」と言うのと、どちらがやさし

いか。

   ①「あなたの罪は赦された」という方が簡単である。言い放題。

  ②「起きて歩け」という方が難しい。結果は明白である。

Ⅳ.結:イエスの勝利(24~26節)

   1.24節

  「『人の子が地上で罪を赦す権威を持っていることを、あなたがたに悟らせるために』と

言って、中風の人に、『あなたに命じる。起きなさい。寝床をたたんで、家に帰りなさい』

と言われた」

(1)ラビ的教授法:Kal Vahomer (Light and heavy) (カル・バ・ホメル)

    ①「軽いものから重いものへ」という意味

    ②より難しいことをすることによって、易しいことを証明する。

    ③ここでの「軽いもの」とは、罪の赦し。

    ④ここでの「重いもの」とは、肉体の癒し。

  (2)イエスは、「寝床をたたんで、家に帰りなさい」と命じた。

    ①より重いものを命じた。

    ②それによって、罪の赦しが本当であることを証明しようとした。

2.25~26節

「すると彼は、たちどころに人々の前で立ち上がり、寝ていた床をたたんで、神をあがめ

ながら自分の家に帰った。人々はみな、ひどく驚き、神をあがめ、恐れに満たされて、『私

たちは、きょう、驚くべきことを見た』と言った」

   (1)イスラエルはイエスをメシアとして受け入れるかどうかの岐路に立たされた。

    ①指導者たちは、エルサレムに戻り、イエスの主張は吟味に値すると報告した。

    ②この時点から、第2の段階(審問の段階)に入って行く。

  (2)§47~60まで、イエスは常にパリサイ人たちの監視下に置かれる。

    ①彼らは常に、イエスに論争を吹きかける。

②§61で、彼らはイエスを拒否する(ベルゼブル論争)。

結論

  1.信仰の力

    (1)信仰とは、愛である。

    (2)愛とは、相手の最善を願うことである。

    (3)信仰とは、困難な状況に直面した時に、斬新なアイデアを産み出す力である。

    (4)4人の男たちは、常識外れの行為をすることを恐れていなかった。

    (5)アイデアは、縛られていない。

  2.罪と病の関係

    (1)罪の赦し、そして、病の癒しという順序が大切。

      ①指導者たちを意識した順序である。

      ②と同時に、イエスは、病の原因に手を置かれたともいえる。

    (2)罪責感が原因となっている病がある。

  3.赦しの力

    (1)「あなたの罪は赦されました」ということばは、イエスの神性を示している。

      ①イエスだけが、罪を赦す権威を持っている。

      ②それは、個人的な関係で、相手に対して、赦しを宣言することとは異なる。

(2)私たちもまた、「汝の罪、赦されたり」と宣言することがある。

      ①私たちの場合は、キリストにあって罪の赦しを宣言するのである。

    (例話)デューク大学心理学部の部長 ビル・ウィルソン

    ベトナム戦争から帰還した兵士に、語りかけた。

    「私には、イエス・キリストを通して、『あなたの罪は赦された』と言う権威がある」

    その日から、彼の回復が始まった。

    (3)誰に向かってでも、罪の赦しを宣言することができる。

      ①それを受け取るかどうかは、その人の信仰にかかっている。

  4.雑感

    (1)日本を支配する強大な権威

      ①中空構造の権威

      ②福音の前に立ちはだかる壁

    (2)クリスチャンの使命

      ①自分がメシア的奇跡となる。

      ②人々の心をキリストに向けさせる。

    (3)人生は終息に向かうが、最後まで使命が与えられている。

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