申命記(2)約束の地に入る最初の試み(1)ーシナイ山からの出発ー

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シナイ山からの出発について学ぶ。

申命記2回
「約束の地に入る最初の試み(1)」
―シナイ山からの出発―
申命記1:5~18

 

1.はじめに
(1)モーセは、カナンの地に入国する前のイスラエル人のために五書を書いた。
①彼らは、イスラエルの歴史や出エジプトの歴史を知らない世代である。
②彼らは、正しい世界観と人生観を持つ必要があった。
*自分たちは、どこから来たのか。
*自分たちにカナンの地を与えると約束してくれたのは、誰か。
*カナンの地で生きる目的は何か。

 

(2)申命記のアウトライン(宗主権契約の形式)
①第1の説教:歴史の回顧(1:5~4:43)
②第2の説教:契約に基づく義務(4:44~26:19)
③第3の説教:祝福と呪いの宣言(27:1~29:1)
④第4の説教:契約条項のまとめ(29:2~30:20)

 

(3)1章のアウトライン
①本書の目的(1:5)
②シナイ山からの出発(1:6~8)
③指導者の任命(1:9~18)
④カデシュ・バルネア事件(1:19~33)
⑤不信仰に下る裁き(1:34~46)

 

2.メッセージのアウトライン
(1)本書の目的(1:5)
(2)シナイ山からの出発(1:6~8)
(3)指導者の任命(1:9~18)

 

3.結論:申命記の主要なテーマ
シナイ山からの出発について学ぶ。
Ⅰ.本書の目的(1:5)
1.5節
ヨルダンの川向こう、モアブの地で、モーセは次のように、みおしえの確認を行うことにした。
(1)申命記1:5を見ると、本書の目的がなんであるかが分かる。
①イスラエルの民は、ヨルダン川の東、モアブの地にいた。
②モーセは、約束の地に入ろうとしている新しい世代に律法の解説を行った。

 

(2)訳文の比較
「このみおしえを説明し始めて言った」(新改訳)
「みおしえの確認を行うことにした」(新改訳2017)
「この律法の説き明かしに当たった」(新共同訳)
「みずから、この律法の説明に当った、そして言った」(口語訳)
①モーセは、すでに啓示されていた律法の内容を分かりやすく解説した。
②「バアール」という動詞は、かみ砕いて分かりやすく説明するという意味。
③目的は、イスラエルの民に約束の地での生活の指針を与えるためである。
④「律法」(Law)と訳されている言葉は、ヘブル語で「トーラー」である。
*「トーラー」は、極めて積極的な言葉である。
*命を得るための教えであり、規定である。
*人に対する神の御心を示すのが、「トーラー」である。

 

Ⅱ.シナイ山からの出発(1:6~8)
1.6~7節
私たちの神、【主】はホレブで私たちに告げられた。「あなたがたはこの山に十分長くとどまった。
あなたがたは向きを変えて出発せよ。そしてアモリ人の山地に、またそのすべての近隣の者たちの地、すなわち、アラバ、山地、シェフェラ、ネゲブ、海辺、カナン人の地、レバノン、さらにあの大河ユーフラテス川にまで行け。
(1)申命記は「ものごとの始まりの書」である。
①過去は忘却の彼方に過ぎ去ったものではなく、「未来の始まり」である。
②歴史的文脈を理解せずに、未来を切り拓くことはできない。

 

(2)第一の説教は、ホレブ(シナイ山)出発の場面から始まる。
①本書の中では、シナイ山はホレブと呼ばれている。
②モーセは、実際に起こった順番とは逆に、歴史を回顧して行く。
*シナイ山での金の子牛事件(9~10章)
*出エジプトの出来事(11章)
③モーセは、聴衆にはある程度の知識があることを想定して話している。

 

(3)最初の文は、「私たちの神、【主】」という言葉で始まる。
①「アドナイエロヘヌ」という言葉は、本書に約50回出て来る。
②【主】こそ、モーセの説教の主役である。
*【主】は、イスラエルの歴史の導き手である。
*【主】は、イスラエルと契約を結んだ方である。
③約束の地に向かう理由は、【主】がその地を与えると約束されたからである。
④神の約束が成就すると信じた人は、「向きを変えて出発」する。

 

2.8節
見よ、わたしはその地をあなたがたの手に渡している。行け。その地を所有せよ。これは【主】があなたがたの父祖アブラハム、イサク、ヤコブに対して、彼らとその後の子孫に与えると誓った地である。」
(1)神の視点からは、約束の地はイスラエルの民に渡されている(未来完了形)。
①その約束を信じて行動を起こすのが、信仰である。
②「土地を所有せよ」という命令は、申命記に18回出て来る。
③この命令は、民が【主】の約束を信じるかどうかの試金石である。

 

(2)約束の地の範囲は、アブラハムに約束されたものと同じである。
①創15:18〜19参照
②実に広大な土地で、人間的には征服は不可能に思える。
③ダビデ・ソロモン時代でさえ、ここまで領土を広げることはなかった。
④それが成就するのは、千年王国においてである。

 

(3)モーセは、約束の地の征服は可能だと心から信じている。
①神はアブラハムに土地の約束をされた(創15:18〜21、17:7〜8)。
②イサクとヤコブに再確認された(創26:3〜5、28:13〜15、35:12)。
③「アブラハム、イサク、ヤコブに誓った」は、申命記に7回も出て来る。
④民は、自分がアブラハム契約の継承者であることを認識する必要があった。

 

Ⅲ.指導者の任命(1:9~18)
1.9~11節
私はあのとき、あなたがたにこう言った。「私一人であなたがたを負うことはできない。
あなたがたの神、【主】があなたがたを増やされたので、見よ、あなたがたは今日、空の星のように多い。
どうか、あなたがたの父祖の神、【主】があなたがたを今の千倍にも増やしてくださるように。そして、あなたがたに約束されたとおり、あなたがたを祝福してくださるように。
(1)この箇所でモーセは、出18:13〜26に記録された出来事に言及している。
①モーセは、舅イテロの助言に従い、千人の長、百人の長、五十人の長、十人
の長を任命した。
②ただし、物語を記述する順番が異なっている。
*出エジプト記では、指導者の任命の次にシナイ山からの出発が続く。
*申命記では、順序が逆になっている。
③「指導者の任命」は、時間の流れを無視した挿入句である。
*ここでは、「指導者の任命」の重要性が強調されている。

 

(2)モーセは、シナイ山の麓で、神が約束に忠実なお方であることを、イスラエ
ルの民に教えようとした。
①民は、モーセひとりでは指導し切れないほどに数が増えていた。
②これは、神がアブラハムに与えた子孫の約束の成就である。
③主役は、「あなたがたの神、【主】」である。
④また、「あなたがたの父祖の神、【主】」である。
*この言葉は、申命記にたびたび登場する。
*申1:21、4:1、6:3、12:1、27:3参照

 

(3)神は、イスラエルの民が約束の地で増え広がることを期待された。
①約束の地の征服は、信仰による業である。
②その地で、義なる民として生活することもまた、信仰による業である。

 

2.12~13節
どのようにして、私一人であなたがたのもめごとと重荷と争いを負いきれるだろうか。
あなたがたは部族ごとに、知恵があり判断力があり経験に富む人たちを出しなさい。彼らをあなたがたのかしらとして立てよう。」
(1)祝福は、新たな課題を産み出す。
①モーセ一人では、民の争いごとを裁くことができない。
*これは、人口増の結果である。
*さらに、律法が与えられた結果である。
②民の中から、指導者たちを任命する必要がある。

 

4.14~15節
すると、あなたがたは私に答えて、「あなたがしようと言われたことは良いことです」と言った。
そこで私は、あなたがたの部族のかしらで、知恵があり経験に富む人たちを選び取り、彼らをあなたがたの上に立つかしらとし、あなたがたの部族の千人の長、百人の長、五十人の長、十人の長、また、つかさたちとした。
(1)「部族のかしらで、知恵があり経験に富む人たち」を指導者として選ぶ。
①民は、その提案に同意した。

 

(2)モーセは、部族のかしらで、知恵があり経験に富む人たちを選び取った。
①彼らを、千人の長、百人の長、五十人の長、十人の長、また、つかさたち(役
人)とした。
②彼らが行うのは、法律的判断である(裁判官としての使命)。

 

5.16~17節
そのとき、私はあなたがたのさばき人たちに命じた。「あなたがたの同胞相互の言い分をよく聞き、ある人とその同胞との間、また寄留者との間を正しくさばきなさい。
裁判では人を偏って見てはならない。身分の低い人にも高い人にもみな、同じように聞かなければならない。人を恐れてはならない。さばきは神のものだからである。あなたがたにとって難しすぎる事柄は、私のところに持って来なさい。私がそれを聞こう。」
(1)さばき人たちは、約束の地で義なる生活を実現する指導者たちである。
①相互の言い分をよく聞き、ある人とその同胞との間、また寄留者との間を正
しくさばかなければならない。
②人を偏って見てはならない。身分の低い人にも高い人にもみな、同じように
聞かなければならない。
③人を恐れてはならない。

 

(2)難しすぎる案件は、モーセにところに持って来る。
①古代中近東の宗主権契約では、王が最終的な判断を下す。
②申命記では、その役割をモーセが果たしている。

 

6.18節
私はまた、そのとき、あなたがたが行うべきすべてのことを命じた。
(1)エジプトを出たイスラエルの民は、自らの使命がなんであるかを教えられた。
①約束の地を征服し、そこに正義によって統治する聖なる国を作ることが、彼
らに与えられた使命である。
②私たちもまた、神から与えられた使命がなんであるか考える必要がある。

 

結論:申命記の主要なテーマ
1.イスラエルに土地を約束された神は、比類なきお方である。
(1)申6:4
聞け、イスラエルよ。【主】は私たちの神。【主】は唯一である。

 

2.イスラエルは契約の民であり、選びの民である。
(1)申7:6
あなたは、あなたの神、【主】の聖なる民だからである。あなたの神、【主】は地の面のあらゆる民の中からあなたを選んで、ご自分の宝の民とされた。

 

3.神とイスラエルの民の間には、特別な契約関係がある。
(1)申29:13
先に主があなたに約束されたように、またあなたの父祖、アブラハム、イサク、ヤコブに誓われたように、今日あなたを立ててご自分の民とし、またご自分があなたの神となられるためである。

 

4.私たちへの適用
(1)私たちに永遠のいのちを約束された神は、比類ないお方である。
(2)私たちは、天地創造の前から選ばれた選びの民である。
(3)神と私たちの間には、特別な契約関係がある(新しい契約)。

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