メシアの生涯(11)—イエスの誕生—

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このメッセージでは...

イエス誕生の意味について学ぶ。

「イエスの誕生」  ルカ2:1~7

1.はじめに

  (1)ヨハネとイエスの対比(特にルカの福音書)

  ①誕生の告知

  ②実際の誕生物語

    ③神の約束が成就し、人々に喜びをもたらす。

  (2)マタイはイエスの誕生を簡単に扱っていた。

  「ヨセフは眠りからさめ、主の使いに命じられたとおりにして、その妻を迎え入れ、

そして、子どもが生まれるまで彼女を知ることがなく、その子どもの名をイエスとつ

けた」(1:24~25)

(3)ルカは、詳細に記している。

  2.アウトライン

(1)住民登録(1~2節)

(2)ミカ書の預言の成就(3~5節)

  (3)イエスの誕生(6~7節)

  3.メッセージのゴール

    (1)この箇所のヘブル的解釈

    (2)世界史の中のイエス誕生

    (3)聖書の歴史観

このメッセージは、イエス誕生の意味について学ぼうとするものである。

Ⅰ.住民登録(1~2節)

   1.1節

  「そのころ、全世界の住民登録をせよという勅令が、皇帝アウグストから出た」

  (1)皇帝アウグスト(在位27B.C.~14A.D.)

    ①オクタヴィアヌスがその名である。

    ②彼は、ユリウス・カエサルの甥に当たる。

    ③カエサルの死後、ローマ帝国初代の皇帝となる。

    ④アウグストとは、称号である。

      *前27年、元老院がこの称号を送る。

      *「崇高なる者」、「大いなる者」の意味。

*8月をAugustという。

*前8年に、それまでの「Sextilis」(ラテン語)から「August」に変わった。

    (2)彼は、徴税のための住民登録を実行した。

  2.2節

  「クレニオがシリヤの総督であったときの最初の住民登録であった」

    (1)ルカの記述は不正確であるとの批判に会ってきた。

①クレニオがシリアの総督であったのは、紀元6年以降である。

②ルカの歴史家としての信憑性に関しては、結論の箇所で論じる。

Ⅱ.ミカ書の預言の成就(3~5節)

  1.3節

  「それで、人々はみな、登録のために、それぞれ自分の町に向かって行った」

    (1)「自分の町」の2つの意味

①ルカ2:39 「自分たちの町であるガリラヤのナザレ」

②先祖の町

    (2)「登録するために」

      ①家族ごとの戸籍が記されたパピルスが、エジプトで発掘されている。

  2.4~5節

  「ヨセフもガリラヤの町ナザレから、ユダヤのベツレヘムというダビデの町へ上って行っ

た。彼は、ダビデの家系であり血筋でもあったので、身重になっているいいなずけの妻マ

リヤもいっしょに登録するためであった」

  (1)ヨセフはダビデの家系に属している。

①ユダヤのベツレヘムに彼の本籍があったと思われる。

②2つのベツレヘム

*ナザレの北西11キロにある村。ゼブルン族の所有(ヨシ19:15)

*ユダヤのベツレヘム。エルサレムの南8キロにある町

    (3)「ダビデの町」

      ①旧約聖書では、エルサレムの南の地区を指す(ダビデが建てたエルサレム)。

      ②ルカの福音書では、ベツレヘムを指す。

    (4)マリアが同行した理由は、いくつか考えられる。

      ①マリアもまたダビデの家系であったので、ベツレヘムで登録する必要があった。

      ②出産の時に、ヨセフがそばにいることを願った。

      ③ナザレでの噂話を避けるため。

      ④ミカ書の預言を意識していた。

      ⑤いずれにしても、ルカはこの背後の摂理が働いているのを見た。

    (5)「いいなずけの妻マリヤ」

      ①実質的な結婚関係はまだ始まっていない。

    (6)ミカ5:2の成就

    「ベツレヘム・エフラテよ。あなたはユダの氏族の中で最も小さいものだが、あなた

のうちから、わたしのために、イスラエルの支配者になる者が出る。その出ることは、

昔から、永遠の昔からの定めである」

Ⅲ.イエスの誕生(6~7節)

  1.6~7節a

  「ところが、彼らがそこにいる間に、マリヤは月が満ちて、男子の初子を産んだ」

    (1)「月が満ちて」

①ベツレヘムについてどれくらいの時間が経過したかは分からない。

      ②ルカ1:57との対比

      「さて月が満ちて、エリサベツは男の子を産んだ」

  2.7節b

  「それで、布にくるんで、飼葉おけに寝かせた。宿屋には彼らのいる場所がなかったから

である」

  (1)「布にくるんで」

    ①当時の習慣である。赤子の両腕が真っ直ぐに伸びるように。

    ②エゼ16:4(エルサレムに関する描写)

    「あなたの生まれは、あなたが生まれた日に、へその緒を切る者もなく、水で洗

ってきよめる者もなく、塩でこする者もなく、布で包んでくれる者もいなかった」

    (2)「飼葉おけに寝かせた」

      ①家畜(ろば、羊、山羊)に餌を与える場所

      ②それが、メシアの揺りかごとなった。

      ③家畜はその周りにはいない。

      ④これらの厳密な描写は、後に登場する羊飼いたちにとって重要な情報となる。

    (3)「宿屋には彼らのいる場所がなかったからである」

      ①「客間には彼らのいる余地がなかったからである」(口語訳)

      ②ホテル(宿屋)に空き部屋がなかったという意味ではない。

      ③知り合い(親戚)の家には、空いている客間がなかったということであろう。

      ④メシアは、人間が住む空間ではなく、家畜が住む空間で誕生された。

      ⑤町の外にある自然の洞窟が、家畜の囲い場になっていた。

結論:

  1.この箇所のヘブル的解釈

    (1)「布にくるんで」

      ①当時は、死者の埋葬はすぐに行われた(腐敗する前に)。

      ②墓は町の外にあった。

      ③墓に行く途中に洞窟があり、そこに埋葬のための亜麻布が貯蔵されていた。

      ④イエスはその亜麻布にくるまれた。

    (2)ピリ2:6~8

「キリストは神の御姿である方なのに、神のあり方を捨てられないとは考えず、ご自

分を無にして、仕える者の姿をとり、人間と同じようになられました。人としての性

質をもって現れ、自分を卑しくし、死にまで従い、実に十字架の死にまでも従われま

した」

①低き者は高くされ、高き者は低くされるという真理の始まりである。

②マリアの賛歌の中で歌われていた。

  2.世界史の中のイエス誕生

    (1)ルカは、イエスの誕生を世界史の中に位置づけようとした。

      ①ユダヤ人の世界(特定の国)からローマ世界(普遍的世界)へ

      ②「クレニオがシリヤの総督であった時に行われた最初の人口調査」

      ③しかし、クレニオがシリアの総督であった時期は、紀元6~7年である。

      ④これでは、イエスの誕生は紀元後になる。

    (2)「ローマ人の物語Ⅵ」(塩野七生)

    「それは、紀元前と後の境界線上にあるこの時期に、イエス・キリストが生まれてい

たはずだからだ。ただし、ローマ皇帝アウグストゥスによる国勢調査のためにヨセフ

とマリアが本籍地にもどる旅の途中で生まれたという美しいエピソードだが、この前

後には国政調査は実施されていないのである。…いずれにしても、この私の素朴な疑

問に納得のいく答えをくれた研究者は、今のところ一人もいない」(p.285~286)

(3)イエスは何年に誕生したのか。

①キリスト紀元は、525年に、ローマの僧ディオニシウス・エクシグウスによっ

て創案された宗教的紀年法である。

②しかし、エクシグウスの計算法には誤差があった。

    (4)4つのヒント

      ①ヘロデ大王が死んだ年は前4年

        *イエスは前4年以前に誕生している。

      ②ルカ2章の「クレニオがシリヤの総督であったとき」という記述

*クレニオは、2度シリアの総督を務めた。

*前10~7年、クレニオはシリヤの軍事担当総督であった(W・M・ラムゼー)。

*この住民登録は、前8年に行なわれたものである。

*パレスチナでの実施は、時期が多少遅れたと思われる。

③ヨセフスと、マタイの福音書の記録から導き出される情報

  *ヘロデ大王は、前5年にエリコに移り、そこで死ぬ。

*天文学者たちのエルサレム訪問は、前5年以前に起こっているという。

④マタイの福音書の記録から導き出される情報

  *天文学者たちがやってきた時、イエスはすでに2歳ぐらいになっていた。

*イエスの誕生は前5年よりもさらに2年弱遡ることになる。

⑤以上のことから、イエスの誕生は前7年~6年のどこかで起こったことになる。

ただし、誕生の月日までは分からない。

⑥12月25日がイエス誕生の日として制度化されたのは、紀元325年のニカイア

公会議以降のことである。ミトラス教の祝日(不滅の太陽の生誕日)である12

月25日が、救い主誕生の日として解釈された。

  3.聖書の歴史観

    (1)歴史を観察する3つのレベル

      ①表層的観察(個々の現象には反応しても、それらの関連性は見ていない)

      ②底流の観察(大原則に基づいて個々の現象を位置づける)

        *西洋を軸に歴史を見るか、東洋を軸に歴史を見るか。

        *これは、大きな問題である。

      ③イスラエルを軸にした観察(異次元の歴史観)

    (2)神は、この世の支配者をご自分の目的のために用いる。

      ①ネブカデネザル(バビロンの王)

        *背信の民イスラエルを裁くための神の器である。

        *しかし、ネブカデネザルもまた、イスラエルを苦しめた罪で裁かれる。

      ②クロス(ペルシヤの王)

        *勅令を出して、イスラエルの民の約束の地への帰還を許可した。

      ③皇帝アウグスト

        *ミカ5:2の成就のために、用いられた。

      ④ヒトラー

        *600万人のユダヤ人が殺された。

        *しかし、イスラエルという国が誕生した。

      ⑤イランやアラブ諸国

        *ユダヤ人を神に向かわせる力となっている。

      ⑥反キリスト

        *大患難時代になると、反キリストはユダヤ人を抹殺しようとする。

        *しかし、最後にユダヤ人は民族的救いを体験するようになる。

    (3)聖書的歴史観を前提に、限られた人生を燃焼させようではないか。

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