メシアの生涯(12)—羊飼いたちへの告知—

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羊飼いたちへの告知の意味について学ぶ。

「羊飼いたちへの告知」  ルカ2:8~20

1.はじめに

  (1)文脈の確認

①ヨハネとイエスの対比(特にルカの福音書)

②マリアへの告知

③マリアのエリサベツ訪問とマリアの賛歌

④ヨセフへの告知

⑤皇帝アウグストによる人口調査の勅令

⑥ベツレヘム滞在中の出産

    (2)きょうの箇所

  ①クリスマス物語で最もよく知られているところ

      ②羊飼いたちへの告知

  2.アウトライン

(1)羊飼いたちへの告知(8~12節)

(2)天使たちの賛美(13~14節)

  (3)幼子の礼拝(15~20節)

  3.メッセージのゴール

    (1)羊飼いが主役であることの意味

    (2)「きょう」という言葉の意味

(3)イエスの3つのタイトル

このメッセージは、羊飼いたちへの告知の意味について学ぼうとするものである。

Ⅰ.羊飼いたちへの告知(8~12節)

   1.8節

  「さて、この土地に、羊飼いたちが、野宿で夜番をしながら羊の群れを見守っていた」

    (1)「この土地」とは、ベツレヘム近郊のこと。

      ①ダビデの例(1サム17:34~35)

「ダビデはサウルに言った。『しもべは、父のために羊の群れを飼っています。獅

子や、熊が来て、群れの羊を取って行くと、私はそのあとを追って出て、それを

殺し、その口から羊を救い出します。それが私に襲いかかるときは、そのひげを

つかんで打ち殺しています』」

  ②温暖な気候である。

  ③12月でないとは言い切れない。

(2)ベツレヘム近郊の羊飼いたち

  ①神殿で捧げる小羊を飼っていた。

  ②特に、過越の祭りで捧げる小羊であるという学者もいる。

  ③この物語の羊飼いたちがそれなのかどうかは、断言できない。

  ④イエスが誕生した洞窟は、これらの羊飼いたちの所有物である可能性もある。

  2.これまでの2つの告知に似たパターンがある(1:13~20と28~37)。

    (1)天使の出現(9節a)

    「すると、主の使いが彼らのところに来て、主の栄光が回りを照らしたので、」

      ①ここでは天使の名は出ていない。ガブリエルかもしれない。

②主の栄光は「シャカイナグローリー」である。

      ③メシア誕生に伴うシャカイナグローリーである。

      ④預言者エゼキエルの時代に、シャカイナグローリーは神殿から去った。

      ⑤ヘロデが拡張した神殿には、シャカイナグローリーはなかった。

      ⑥約500年ぶりにシャカイナグローリーがイスラエルの民の間に戻ってきた。

      ⑦メシア時代の到来である。

    (2)恐れの反応(9節b)

    「彼らはひどく恐れた」

      ①直訳は、「大いなる恐れを恐れた」となる。

      ②文語訳は、「甚(いた)く懼(おそ)る」となっている。

      ③ザカリヤの例(1:13)とマリアの例(1:30)

    (3)励ましの言葉(10節)

    「御使いは彼らに言った。『恐れることはありません。今、私はこの民全体のためのす

ばらしい喜びを知らせに来たのです』」

  ①「恐れることはない」。ザカリヤもマリアも、同じ言葉を受けている。

  ②その理由は、喜びの知らせを持ってきたということ。

  ③「この民全体」とは誰のことか。

    *「民」とはギリシア語でラオスである。

*ルカは全人類の救いという構想を持っていた(使徒行伝で明らかになる)。

*しかし、ここでは「この民」とはイスラエル人のことである。

*イエスは、第一義的にはユダヤ人のメシアとして来られた。

    (4)神からのメッセージ(11節)

    「きょうダビデの町で、あなたがたのために、救い主がお生まれになりました。この

方こそ主キリストです」

  ①「きょう」

    *メシアによる救いの始まり

②「ダビデの町」

  *ベツレヘム

  *ダビデ契約の成就

③3つのタイトル

  *救い主

  *キリスト

  *主

    (5)しるしの付与(12節)

    「あなたがたは、布にくるまって飼葉おけに寝ておられるみどりごを見つけます。こ

れが、あなたがたのためのしるしです」

  ①布にくるまっている。

  ②飼葉おけに寝ている。

  ③これは極めて稀な状態なので、「しるし」となり得る。

  ④羊飼いたちは、周辺にある洞窟をよく知っていた。

Ⅱ.天使たちの賛美(13~14節)

   1.13節

  「すると、たちまち、その御使いといっしょに、多くの天の軍勢が現れて、神を賛美して

言った」

  (1)「多くの天の軍勢」が参加した。

    ①「軍勢」(スツラティア)は、軍事用語である。

    ②その彼らが、平和を宣言するのである。

  (2)賛美は、被造物に最も自然な行為である。

    ①天使たちもまた、被造物である。

  2.14節

  「いと高き所に、栄光が、神にあるように。地の上に、平和が、御心にかなう人々にある

ように」

  (1)これはヘブル的対句法である。

    ①いと高き所‐地の上

    ②栄光‐平和

    ③神にあるように‐御心にかなう人々にあるように

  (2)「いと高き所」とは、第3の天(神の臨在の場)である。

  (3)「御心にかなう人々」とは、神に信頼を置く人々である。

Ⅲ.幼子の礼拝(15~20節)

  1.15節

  「御使いたちが彼らを離れて天に帰ったとき、羊飼いたちは互いに話し合った。『さあ、ベ

ツレヘムに行って、主が私たちに知らせてくださったこの出来事を見て来よう』」

  (1)彼らは、天使の御告げを神のことばと理解した。

    ①「ダビデの町」をベツレヘムと理解した。

  (2)ただちに行動を起こしている。

    ①マリアがエリサベツを訪問したのと同じ姿勢

    ②エルサレムにいた宗教的指導者たちとは対照的(マタ2:5)

2.16~18節

「そして急いで行って、マリヤとヨセフと、飼葉おけに寝ておられるみどりごとを捜し当

てた。それを見たとき、羊飼いたちは、この幼子について告げられたことを知らせた。そ

れを聞いた人たちはみな、羊飼いの話したことに驚いた」

  (1)「探し当てた」

    ①発見の前に、捜す行為があった。

    ②「しるし」を知っていたので、発見できた。

  (2)羊飼いたちは、マリアとヨセフ以外の人々にも、自分たちの聞いたことを伝えた。

    ①それを聞いた人たちは、驚いた。

  3.19~20節

  「しかしマリヤは、これらのことをすべて心に納めて、思いを巡らしていた。羊飼いたち

は、見聞きしたことが、全部御使いの話のとおりだったので、神をあがめ、賛美しながら

帰って行った」

  (1)この時点でのマリアの理解度はまだ不十分であった。

    ①天使の告知、エリサベツの出産、羊飼いの言葉などの意味を考えた。

    ②出来事を比較し、その重要性を推し量る。

    ③彼女はこれを継続して行っていた。

    ④メシアの母の大いなる期待と不安がここに見られる。

  (2)羊飼いたちは、天に帰った天使たちの賛美を引き継いで神を賛美した。

    ①羊の群れのところに帰って行った。

結論:

  1.羊飼いが主役であることの意味

    (1)メシア誕生の知らせは、先ず貧しい者たちにもたらされた。

      ①羊飼いの実態(童話的なイメージではない)

      ②律法に無知、嘘つき、罪人、汚れている者

      ③取税人や遊女と同じように、社会的のけ者である。

    (2)逆転の真理がある。

      ①マリア自身が体験したこと

      ②マリアの賛歌に歌われている(1:51~55)。

「主は、御腕をもって力強いわざをなし、心の思いの高ぶっている者を追い散ら

し、権力ある者を王位から引き降ろされます。低い者を高く引き上げ、飢えた者

を良いもので満ち足らせ、富む者を何も持たせないで追い返されました。主はそ

のあわれみをいつまでも忘れないで、そのしもべイスラエルをお助けになりまし

た。私たちの父祖たち、アブラハムとその子孫に語られたとおりです」

  2.「きょう」という言葉の意味(11節)

  「きょうダビデの町で、あなたがたのために、救い主がお生まれになりました。この方こ

そ主キリストです」

    (1)メシアによる救いの時の始まり

      ①歴史の分水嶺

    (2)ルカの福音書の中での「きょう」という言葉の使用例

      ①4:21 ナザレの会堂にて

「イエスは人々にこう言って話し始められた。『きょう、聖書のこのみことばが、

あなたがたが聞いたとおり実現しました』」

②5:26 中風の人の癒し

「人々はみな、ひどく驚き、神をあがめ、恐れに満たされて、『私たちは、きょ

う、驚くべきことを見た』と言った」

③19:5 エリコにて

「イエスは、ちょうどそこに来られて、上を見上げて彼に言われた。『ザアカイ。

急いで降りて来なさい。きょうは、あなたの家に泊まることにしてあるから』」

④19:9 ザアカイの家にて

「イエスは、彼に言われた。『きょう、救いがこの家に来ました。この人もアブ

ラハムの子なのですから』」

⑤22:61 イエスを否んだペテロ

「主が振り向いてペテロを見つめられた。ペテロは、『きょう、鶏が鳴くまでに、

あなたは、三度わたしを知らないと言う』と言われた主のおことばを思い出した」

⑥23:43 十字架上にて

「イエスは、彼に言われた。『まことに、あなたに告げます。あなたはきょう、

わたしとともにパラダイスにいます』」

  3.イエスの3つのタイトル(11節)

  「きょうダビデの町で、あなたがたのために、救い主がお生まれになりました。この方こ

そ主キリストです」

  (1)救い主(ソテイア)

    ①ローマ帝国では、皇帝を「救い主」と呼ぶようになった。

    ②クリスチャンにとっては、それはキリストのことである。

    ③自分は罪人だという認識があって初めて、この方は「救い主」となる。

  (2)キリスト(クリストス)

    ①「油注がれた者」というタイトルである。

    ②ヘブル語では「メシア」である。

    ③このタイトルは、信者にとって最も重要なものとなる。

    ④救い主は、イエス・キリストと呼ばれるようになる。

    ⑤信者は、クリスチャンと呼ばれるようになる(使11:26)。

    ⑥私たちは、キリストにあって救いを得ている。

  (3)主(キュリオス)

    ①旧約聖書のヤハウェである。

  (4)最初にこの啓示を受けた人たちは、その意味を十分に理解していなかった。

    ①羊飼いがそうである。

②マリアもまた同様である。

      *時として彼女の信仰は、揺らいだ(ルカ8:19。母と兄弟たち)。

    ③はっきりするのは、復活後である。

    「ですから、イスラエルのすべての人々は、このことをはっきりと知らなければ

なりません。すなわち、神が、今や主ともキリストともされたこのイエスを、あ

なたがたは十字架につけたのです」(使2:38)

  (5)ピリ3:20

  「けれども、私たちの国籍は天にあります。そこから主イエス・キリストが救い主と

しておいでになるのを、私たちは待ち望んでいます」

  ①「主イエス・キリスト」

  ②英語で、「Lord Jesus Christ」である。

  ③救い主であるイエスは、メシアでありヤハウェである。

  ④この方によって、私たちの国籍は天に登録されている。

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