メシアの生涯(196)—十字架への道—

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ヴィア・ドロローサでの出来事の意味について考える。

「十字架への道」

マタ27:27~30、ルカ23:26~33

1.はじめに

  (1)文脈の確認

    ①ピラトはイエスに対して死刑判決を下した。

    ②ここから刑場(ゴルゴタ)に向かう行進が始まる。

*午前6時~9時ごろ

    ③ヴィア・ドロローサ(Via Dolorosa)(ラテン語で「苦難の道」の意)

④現在では、14ステーション(留)が定められている(約600メートル)。

  *5つは伝承である。

⑤最後の5つのステーションは、聖墳墓教会の中にある。

    (2)A.T.ロバートソンの調和表

      §162 兵士たちによる嘲り

      マコ15:16~19、マタ27:27~30

§163 十字架途上のイエス

マコ15:20~23、マタ27:31~34、ルカ23:26~33、ヨハ19:16~17

2.アウトライン

  (1)ローマ兵たち(マタ27:27~30)

  (2)クレネ人シモン(ルカ23:26)

  (3)嘆き悲しむ女たち(ルカ23:27~31)

  (4)イエス(マタ27:33~34)

  3.結論

    (1)ゴルゴタ

    (2)クレネ人シモン

ヴィア・ドロローサでの出来事の意味について考える。

Ⅰ.ローマ兵たち(マタ27:27~30)

   1.兵士たちによる嘲り

Mat 27:27 それから、総督の兵士たちは、イエスを官邸の中に連れて行って、イエスの回りに全部隊を集めた。

Mat 27:28 そして、イエスの着物を脱がせて、緋色の上着を着せた。

Mat 27:29 それから、いばらで冠を編み、頭にかぶらせ、右手に葦を持たせた。そして、彼らはイエスの前にひざまずいて、からかって言った。「ユダヤ人の王さま。ばんざい。」

Mat 27:30 また彼らはイエスにつばきをかけ、葦を取り上げてイエスの頭をたたいた。

     (1)死刑判決を受けたイエスは、ローマ兵たちに委ねられた。

①彼らは、イエスを嘲り、肉体的に虐待した。

    (2)ピラトは、この蛮行を阻止することができたはずである。

①彼には、不必要な苦しみをイエスに与えた責任がある。

②阻止しなかったのは、恐れと弱さのゆえである。

    (3)イエスの肉体的状態

      ①すでに鞭打ちを受けている。

      ②イエスの肉体は、ぼろぼろの状態である。

③特に、出血多量で体力がなくなっている。

④罪人は、十字架(横木)を負って刑場まで行進する。

⑤イエスにとっては、その行程はまさに「苦難の道」である。

Ⅱ.クレネ人シモン(ルカ23:26)

Luk 23:26 彼らは、イエスを引いて行く途中、いなかから出て来たシモンというクレネ人をつかまえ、この人に十字架を負わせてイエスのうしろから運ばせた。

  1.イエスの肉体が衰弱していた。

    (1)十字架刑は、長時間苦しめながら死に至らせる見せしめの刑である。

      ①もしイエスが刑場に向かう途中で死ねば、その目的は半分しか達成されない。

      ②第5ステーションから上り坂に入る。

      ③ローマ兵たちは、イエスの代わりに十字架を負う人物を探した。

      ④それによって、イエスは一時的に楽になるが、最後に十字架の死が待っている。

    (2)ローマは、支配下にある民をいつでも徴用することができた。

      ①これが、支配者と被支配者の関係の現実である。

  2.代わりに十字架を負わされたのは、クレネ人シモンである。

    (1)クレネは、北アフリカにあった町

      ①彼は、過越の祭りを祝うためにエルサレムに来ていたユダヤ人である。

      ②祭りの期間の労働は認められないので、彼が労働者として来ているのではない

ことが分かる。

    (2)彼は、十字架を負ってイエスの後を歩いた。

Ⅲ.嘆き悲しむ女たち(ルカ23:27~31)

Luk 23:27 大ぜいの民衆やイエスのことを嘆き悲しむ女たちの群れが、イエスのあとについて行った。

   1.27節

    (1)十字架刑は、見せしめの刑である。

      ①イエスの後について行った人たちの大半が、野次馬であろう。

      ②中には、イエスの教えを聞き、イエスを支持していた人もいたであろう。

    (2)ルカは、特に嘆き悲しむ女たちの群れを取り上げている。

      ①女性に焦点を合わせるのは、ルカの福音書の特徴である。

    (3)この女たちは、誰なのか。

      ①当時は、葬送の列に「泣き女」が同行する習慣があった。

        *刑場まで同行し、十字架にかかる前に鎮痛剤を与えた。

        *ユダヤ人たちは、愛国主義の受刑者に敬意を表した。

        *ローマもこのような行為を許していた。

        *しかし、死後の弔いは禁じられていた。

        *これまでの例では、イエスは泣き女たちの活動を喜んではいなかった。

      ②イエスの死に心を痛めている信仰のある女たち

        *彼女たちは、純粋に心を痛め、悲しみの中にあった。

      ③いずれにしても、女たちは真心から悲しんでいるように見える。

   2.28~30節

Luk 23:28 しかしイエスは、女たちのほうに向いて、こう言われた。「エルサレムの娘たち。わたしのことで泣いてはいけない。むしろ自分自身と、自分の子どもたちのことのために泣きなさい。

Luk 23:29 なぜなら人々が、『不妊の女、子を産んだことのない胎、飲ませたことのない乳房は、幸いだ』と言う日が来るのですから。

Luk 23:30 そのとき、人々は山に向かって、『われわれの上に倒れかかってくれ』と言い、丘に向かって、『われわれをおおってくれ』と言い始めます。

     (1)イエスは、群衆の中の女たちに特に声をかけた。

      ①イエスは、肉体的な苦痛の中でも奉仕を続けておられる。

      ②「エルサレムの娘たち」と呼びかけた。

        *彼女たちのほとんどがエルサレムの住民であった。

    (2)イエスのことばは、エルサレム崩壊の預言である。

      ①イエスのことよりも、自分自身と自分の子どもたちのために嘆き悲しむべきで

ある。

②その理由は、彼らに悲惨なことが起こるからである。

③エルサレム崩壊まで期間(40年間)を生かすようにという勧めである。

   3.31節

Luk 23:31 彼らが生木にこのようなことをするのなら、枯れ木には、いったい、何が起こるでしょう。」

     (1)「生木」と「枯れ木」の意味

      ①生木とは、イエスのことである。

        *聖なるイエスがこのような仕打ちを受けている。

      ②枯れ木とは、罪人たちのことである。

        *ましてや、罪人がさらに激しい苦難に会わないはずがない。

    (2)この慣用句の背景は、エゼ20:46~47である。

Eze 20:46 「人の子よ。顔を右のほうに向け、南に向かって語りかけ、ネゲブの野の森に向かって預言し、

Eze 20:47 ネゲブの森に言え。『【主】のことばを聞け。神である主はこう仰せられる。見よ。わたしはおまえのうちに火をつける。その火はおまえのうち、すべての緑の木と、すべての枯れ木を焼き尽くす。その燃える炎は消されず、ネゲブから北まですべての地面は焼かれてしまう。

①イエスのこの預言は、紀元70年に成就した。

Ⅳ.イエス(マタ27:33~34)

Mat 27:33 ゴルゴタという所(「どくろ」と言われている場所)に来てから、

Mat 27:34 彼らはイエスに、苦みを混ぜたぶどう酒を飲ませようとした。イエスはそれをなめただけで、飲もうとはされなかった。

   1.刑場は、ゴルゴタと呼ばれた。

    (1)その意味は、「どくろの場」である。

  2.苦みを混ぜたぶどう酒

    (1)ぶどう酒に、没薬や雄牛の胆汁などを混ぜたもの

      ①受刑者の痛みを和らげるための麻酔薬、あるいは、鎮痛剤である。

      ②これを飲むと、意識がもうろうとする。

    (2)イエスはそれを拒否された。

      ①十字架上で意識を鮮明に保つため

      ②その結果、イエスは十字架刑の痛みをすべて体験された。

      ③意識を保った状態で、十字架上のことば(祈り)を発する必要があった。

      ④これは、旧約聖書の預言を成就するためでもあった。

結論

  1.ゴルゴタ

    (1)種々の用語

①アラム語でゴルゴタ

②ギリシア語でクラニオン

③ラテン語でカルバリ

    (2)その意味は、「どくろの場」である。

      ①地形が、どくろの形に似ているということではない。

      ②刑場なので「どくろの場」と呼ばれていた。

    (3)エルサレムにある「園の墓」には、「ゴードンのカルバリ」がある。

      ①1880年代、英国人のゴードン将軍(聖書学者)が、ここがカルバリだと確信。

      ②非常に美しい場所であるが、考古学的には疑問が残る。

    (4)ゴルゴタは、聖墳墓教会の中にある。

      ①当時の名残は残っていないが、ここが本来のゴルゴタの位置である。

      ②誤解が生じた理由は、聖墳墓教会が城壁の内側にあること。

      ③この城壁は、1500年にトルコによって建設されたものである。

    (5)注目すべきは、イエスの十字架の死は歴史上の事実だということである。

  2.クレネ人シモン

    (1)クレネは、現在の北アフリカのリビアに位置する。

      ①クレネは、北アフリカで栄えていた5つの町(ペンタポリス)のひとつである。

      ②ギリシア・ローマ時代を通じて、ギリシア語を話すユダヤ人の大きな共同体が

あった。

③最盛期には、10万人の人口を擁した。

④紀元115年にユダヤ人の反乱が起こり、町は衰退した。

⑤そして、5世紀には廃墟となった。

    (2)シモンは、ユダヤ人の一般的な名前である。

      ①彼は、巡礼祭でエルサレムに来ていたユダヤ人である。

      ②彼のことを黒人と考える人もいるが、そうではない。

        *クレネにはディアスポラのユダヤ人たちが多く住んでいた。

      ③シモンに関する情報は少ない。

    (3)マコ15:21

Mar 15:21 そこへ、アレキサンデルとルポスとの父で、シモンというクレネ人が、いなかから出て来て通りかかったので、彼らはイエスの十字架を、むりやりに彼に背負わせた。

      ①マルコだけが、「アレキサンデルとルポスとの父」と書いている。

      ②マルコの福音書は、ローマ世界の異邦人のために書かれた。

③この福音書の読者には、アレキサンデルとルポスはよく知られた信者であった。

    (4)ロマ16:13

Rom 16:13 主にあって選ばれた人ルポスによろしく。また彼と私との母によろしく。

      ①ルポスとその母の名が登場する。

      ②「選ばれた人」とは、重責を担っている人、よく知られた人の意味。

      ③その母は、パウロにとっても母のような人。

      ④シモンの一家は、信者になり、クレネからローマに移住した。

      ⑤ローマの教会は使徒たちによって設立されたのではない。

      ⑥シモン一家のようなユダヤ人信者たちによって、設立された。

      ⑦この事実は、私たちにとっても励ましとなる。

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