ルカの福音書(40)悪霊を追い出すイエス8:26~39

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悪霊の領域に対するイエスの権威について学ぶ。

ルカの福音書 40回

悪霊を追い出すイエス

ルカ8:26~39

1.はじめに

(1)文脈の確認

  ①イエスは、第2回ガリラヤ伝道を行われた。

  ②イエスは、たとえを用いて教えられた(ルカ独特)。

  ③ルカは、土壌のたとえを重視した。

  ④ルカは、イエスの権威を証明する出来事を記した(4:31~6:16)。

  ⑥再び、イエスの権威を証明する出来事を紹介する(8:22~56)。

(3)ルカ8:22~56の内容(イエスの権威の証明)

  ①嵐を静めるイエス(22~25節)

  ②悪霊を追い出すイエス(26~39節)

  ③病と死に打ち勝つイエス(40~56節)

2.アウトライン

(1)悪霊につかれた人の状態(26~29節)

(2)悪霊の追い出し(30~33節)

(3)ゲラサ周辺の人々の反応(34~37節)

(4)悪霊から解放された人の反応(38~39節)

3.結論:弟子訓練の内容

 (1)悪霊を支配するイエス

(2)人間のいのちの価値

(3)教会の奉仕の予表

悪霊の領域に対するイエスの権威について学ぶ。

Ⅰ.悪霊につかれた人の状態(26~29節)

1.26節

Luk 8:26
こうして彼らは、舟で、ガリラヤの反対側にあるゲラサ人の地に着いた。

    
(1)地名について

  ①ルカとマルコには、「ゲラサ人の地」とある。

  ②マタイには、「ガダラ人の地」とある。

  ③ゲラサは町の名前、ガダラは地域の名前である。

  ④ガリラヤ湖東岸にクルシの遺跡がある(ケルサと呼ばれていた)。

(2)ガリラヤ湖の東岸は、異邦人の地である。

  ①イエスは、弟子訓練のために湖を渡って異邦人の地に来られた。

  ②嵐は悪霊の影響下で起ったものと思われる。

  ③デカポリス(10の町)は、1つの例外を除いてすべて東岸にあった。

  ④例外は、スキトポリス(ベテ・シャン)である。

 2.27節

Luk 8:27

イエスが陸に上がられると、その町の者で、悪霊につかれている男がイエスを迎えた。彼は長い間、服を身に着けず、家に住まないで墓場に住んでいた。

(1)悪霊につかれた人の数

  ①ルカとマルコでは、「ひとり」である。

  ②マタイでは、「ふたり」である。

  ③ルカとマルコは、最も深刻な状態の人に焦点を合わせている。

(2)悪霊につかれた人の状態

  ①長い間、服を身に着けなかった。自尊心の喪失。

  ②墓場に住んでいた。共同体からの隔離。汚れた場所での生活。

3.28節

Luk 8:28

彼はイエスを見ると叫び声をあげ、御前にひれ伏して大声で言った。「いと高き神の子イエスよ、私とあなたに何の関係があるのですか。お願いです。私を苦しめないでください。」

(1)彼は、イエスを見ると叫び声を上げた。

  ①彼の内側にいる悪霊が反応した。

  ②御前にひれ伏した。単なるジェスチャーである。

  ③大声で言った。これが本心である。

(2)「いと高き神の子イエスよ、私とあなたに何の関係があるのですか」

  ①弟子たちよりも悪霊の方が、イエスが誰かを認識している。

  ②イエスの名を呼ぶのは、イエスの上に支配権を確立するためである。

(3)「お願いです。私を苦しめないでください」

  ①悪霊は、自分の運命が終わりに近づいていることを予感した。

3.29節

Luk 8:29

それは、イエスが汚れた霊に、この人から出て行くように命じられたからであった。汚れた霊はこの人を何回も捕らえていた。それで彼は鎖と足かせでつながれて監視されていたが、それらを断ち切っては、悪霊によって荒野に駆り立てられていた。

    
(1)悪霊が叫んだ理由は、イエスがこの人から出て行くように命じたからである。

  ①この人は、悪霊の暴力的な支配下に置かれていた。

  ②この人は、鎖と足かせでつながれていたが、それらを何度も断ち切っていた。

  ③この人は、悪霊によって荒野に駆り立てられていた。

Ⅱ.悪霊の追い出し(30~33節)

1.30節

Luk 8:30
イエスが「おまえの名は何か」とお尋ねになると、彼は「レギオンです」と答えた。悪霊が大勢彼に入っていたからである。

(1)イエスは、伝統的なユダヤ的悪霊追い出し法を採用された。

  ①悪霊の名を聞き出し、その名を呼んで追い出す。

(2)彼は、「レギオンです」と答えた。

  ①彼の内側にいる悪霊どもが答えた。

  ②レギオンとは、3,000~6,000人の兵士を持つローマの軍団の名称である。

  ③このことばは、力と圧制の象徴でもある。

  ④つまり、この人の内に最低3,000の悪霊が住みついていたということである。

2.31節

Luk 8:31
悪霊どもはイエスに、底知れぬ所に行けと自分たちにお命じにならないようにと懇願した。

(1)主語が「彼」から「悪霊ども」に変っている。

  ①「底知れぬ所」とは、ギリシア語の「アブソス」である。

  ②そこは、悪霊どもが行く場所である。

  ③悪霊どもは、最後の運命を迎える前に、しばらくの猶予を求めたのである。

  ④神だけが悪霊どもを「アブソス」に送ることができる。

  ⑤悪霊どもは、イエスが神であることを認めている。

3.32~33節

Luk 8:32

ちょうど、そのあたりの山に、たくさんの豚の群れが飼われていたので、悪霊どもは、その豚に入ることを許してくださいと懇願した。イエスはそれを許された。

Luk 8:33
悪霊どもはその人から出て、豚に入った。すると豚の群れは崖を下って湖へなだれ込み、おぼれて死んだ。

(1)そのあたりの山に、たくさんの豚の群れが飼われていた。

  ①この地は、異邦人の地である。

  ②デカポリスで食用の肉として販売するために、飼育していたのであろう。

  ③偶像礼拝のためのいけにえである可能性もある。

(2)悪霊どもは、豚に入ることを求めた。

  ①人間がだめなら、豚でもよい、ということだろう。

  ②イエスはそれを許可された。

(3)豚は、悪霊どもを内に宿すことに耐えられなかった。

  ①豚の群れは崖から湖になだれ込み、おぼれて死んだ。

  ②この描写は、周辺の地形をよく表現している。

  ③結局、悪霊どもは底知れぬ所に送られた。

  ④これは、安全に悪霊どもを追い出す方法である。

Ⅲ.ゲラサ周辺の人々の反応(34~37節)

1.34~35節

Luk 8:34
飼っていた人たちは、この出来事を見て逃げ出し、町や里でこのことを伝えた。

Luk 8:35

人々は、起こったことを見ようと出て来た。そしてイエスのところに来て、イエスの足もとに、悪霊の去った男が服を着て、正気に返って座っているのを見た。それで恐ろしくなった。

    
(1)豚飼いの牧童たちは、このことを所有者に知らせた。

  ①自分たちの過ちではなく、不可抗力であったと説明するためである。

  ②所有者たちは、自分の目で確かめるためにやって来た(野次馬もいた)。

  ③彼らは、湖に浮かぶ無数の豚の死骸を見た。

  ④さらに、正気に返った人を見た。

    *彼は、服を着ていた。

    *正気に返って座っていた。

  ⑤彼らは、「恐ろしくなった」。

    *ギリシア語で「フォベオウ」。畏怖の念。

3.36~37節

Luk 8:36
見ていた人たちは、悪霊につかれていた人がどのように救われたか、人々に知らせた。

Luk 8:37

ゲラサ周辺の人々はみな、イエスに、自分たちのところから出て行ってほしいと願った。非常な恐れに取りつかれていたからであった。それで、イエスが舟に乗って帰ろうとされると、

(1)「見ていた人たち」とは、牧童たちと弟子たちである。

  ①彼らは、目撃した内容を詳細に所有者たちに話して聞かせた。

  ②ルカは、豚よりも解放された人に焦点を合わせている。

  ③「救われた」ということばは、彼がイエスを信じたことを示している。

(2)彼らはイエスに、自分たちのところから出て行ってほしいと願った。

  ①イエスがそばにいると、もっと大きな損失を被る可能性がある。

  ②ユダヤ人であるイエスが、異邦人である自分たちを裁くかもしれない。

(3)イエスは、舟に乗ってそこを去られた。

  ①イエスがその場所に戻ったという記録はない。

Ⅳ.悪霊から解放された人の反応(38~39節)

1.38~39節

Luk 8:38
悪霊が去ったその人は、お供をしたいとしきりに願った。しかし、イエスはこう言って彼を帰された。

Luk 8:39

「あなたの家に帰って、神があなたにしてくださったことをすべて、話して聞かせなさい。」それで彼は立ち去って、イエスが自分にしてくださったことをすべて、町中に言い広めた。

    
(1)「お供をしたい」とは、弟子になりたいという意味である。

  ①彼は初めて、自分の人生をかけてもいいと思えるものを発見した。

(2)イエスはそれを断った。

  ①この段階では、イエスは異邦人の弟子を受け入れてはいなかった。

  ②イエスは、自分の家に帰って証しをするように命じた。

  ③彼は、イエスの御業を町中に言い広めた。

  ④彼の奉仕が有効であったことは、4000人のパンの奇跡の箇所で明らかになる。

  ⑤「神があなたにしてくださったこと」=「イエスが自分にしてくださったこと」

    *イエスの神性が確認された。

結論:弟子訓練の内容

1.悪霊を支配するイエス

(1)ユダヤ人読者に対する教訓

  ①パリサイ人たちは、イエスが悪霊の頭の力を利用していると主張した。

  ②悪霊につかれた男の解放は、悪霊に対するイエスの権威を証明した。

(2)異邦人読者に対する教訓

  ①ギリシア・ローマ世界では、悪霊の活動は顕著に見られた。

  ②異邦人の地で行われた悪霊追い出しは、異邦人読者に強烈な印象を与えた。

2.人間のいのちの価値

(1)ゲラサ人たちの視点は、癒された人ではなく、失った豚にある。

(2)イエスの視点は、一人の人は数千匹の豚よりも尊いという点にある。

(3)ルカは、その視点でこの奇跡物語を記録している。

(4)悪霊は、「神のかたち」を破壊しようとしている。

(5)神は、それを回復しようとしておられる。

3.教会の奉仕の予表

(1)ユダヤ人たちは、イエスを拒否するようになる。

(2)異邦人が救われる時代が来ようとしている。

(3)この奇跡物語は、使徒の働きの時代に教会が行う奉仕の予表である。

  ①使26:17~18

Act 26:17
わたしは、あなたをこの民と異邦人の中から救い出し、彼らのところに遣わす。

Act 26:18

それは彼らの目を開いて、闇から光に、サタンの支配から神に立ち返らせ、こうしてわたしを信じる信仰によって、彼らが罪の赦しを得て、聖なるものとされた人々とともに相続にあずかるためである。』

  ②教会時代の伝道

    *サタンの支配から神に立ち返らせる。

    *信仰によって罪の赦しを得させる。

    *キリストとともに相続人とならせる(ロマ8:17)。

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