ルカの福音書(2)ヨハネ誕生の告知1:5~25

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ヨハネ誕生の告知について学ぶ。

ルカの福音書 02回

ヨハネ誕生の告知

ルカ1:5~25

1.はじめに

  (1)前回は、「献呈の辞」について学んだ。

    ①ルカは、書かれた文書や流布している口伝情報などを綿密に調査した。

    ②そして、調査した結果を順序立てて書いた。

    ③私たちは、それを通してメシアの生涯について信頼できる情報を得ている。

  (2)小説家は、最初の一文をどうするかで悩むと言われている。

    ①恐らくルカは、さほど悩まなかったと思われる。

    ②ルカは、この福音書を「ヨハネ誕生の告知」から始めている。

    ③メシアの公生涯の源流は、メシアの先駆者であるヨハネの誕生である。

    ④冒頭部分(ルカ1:5~56)の構成は、慎重に計算されたものである。

    ⑤ルカ1~2章は、七十人訳聖書の文体に似ている(ヘブル的リズムがある)。

  (3)「ヨハネの誕生」と「イエスの誕生」の対比

    ①両親の紹介(ルカ1:5~7、ルカ1:26~27)

    ②天使の御告げ(ルカ1:8~23、ルカ1:28~30)

    ③しるし(ルカ1:18~20、ルカ1:34~38)

    ④妊娠(ルカ1:24~25、ルカ1:42)

 

2.アウトライン

  (1)ヨハネの両親の紹介(5~7節)

  (2)ザカリヤに対する天使の御告げ(8~17節)

  (3)しるし(18~23節)

  (4)エリサベツの妊娠(24~25節)

3.結論

  (1)不妊について

  (2)神の摂理について

ヨハネ誕生の告知について学ぶ。

Ⅰ.ヨハネの両親の紹介(5~7節)

1.5~6節

Luk 1:5 ユダヤの王ヘロデの時代に、アビヤの組の者でザカリヤという名の祭司がいた。彼の妻はアロンの子孫で、名をエリサベツといった。

Luk 1:6 二人とも神の前に正しい人で、主のすべての命令と掟を落度なく行っていた。

   (1)ルカは歴史家なので、まず時代設定をする。

    ①ヘロデ大王は、前37年~前4年の間、ユダヤの王であった。

     *彼は、ローマによって任命を受けた傀儡王であった。

     *イドマヤ人(エサウの子孫)で、悪名高い王であった。

     *「ユダヤ」は、広義の意味でユダヤ人の土地。

     *ローマの行政区としては、ユダヤ、サマリヤ、ガリラヤ。

    ②ヨハネの誕生は、一般の歴史の中に組み込まれた出来事である。

    ③神は、歴史を導かれるお方、歴史の中に介入されるお方である。

  (2)次に、祭司ザカリヤが紹介される。

    ①マタイは、「〇〇が成就するためであった」という定型句を多用した。

      *マタイは、ユダヤ人向けに福音書を書いた。

     ②ルカは、定型句ではなく、旧約的雰囲気を通して同じ目的を達成した。

     *ルカは、異邦人向けに福音書を書いた。

    ③ザカリヤは、「主は覚えておられる」という意味である。

    ④ザカリヤは、レビ族の中のアロンの家系出身である。

    ⑤ダビデの時代に、祭司はくじによって24の組に分けられた。

    ⑥アビヤの組は8番目であった(1歴24:10)。

1Ch 24:10 第七はハ・コツに、第八はアビヤに、

     *アビヤは第8組のリーダーの名前である。

    ⑦各組が、安息日から安息日まで年に2回神殿で奉仕をした。

     *それ以外に、3回の巡礼祭での奉仕があった。

    ⑧捕囚から帰還したのは、4組だけであったが、それが24組に細分化された。

  (3)さらに、妻のエリサベツが紹介される。

     ①エリサベツは、「神の約束」「神の契約」という意味である。

     ②両者の名前を合体すると「神は約束を覚えておられる」という意味になる。

     ③彼女もアロンの家系出身である。

     ④ユダヤ教の伝承では、祭司は祭司の娘と結婚するのがよいとされた。

  (4)二人とも神の前に正しい人であった。

    ①律法によって義とされていたという意味ではない。

    ②彼らは信仰によって救われていた。

    ③旧約時代の信仰表現は、モーセの律法を守ることであった。

     ④罪を犯したなら、律法が命じるいけにえを献げていた。

  2.7節

Luk 1:7 しかし、彼らには子がいなかった。エリサベツが不妊だったからである。また、二人ともすでに年をとっていた。

  (1)ユダヤ人は、子がいないのは悲劇的なことだと考えていた。

    ①医者のルカは、その原因はエリサベツの不妊にあるとしている。

    ②当時は、子が与えられないのは女性の責任であるとされていた。

  (2)彼らは、年をとっていたので、子を得る希望はとうの昔になくしていた。

    ①エリサベツは、この状況を恥としていた(ルカ1:24~25)。

Luk 1:24 しばらくして、妻エリサベツは身ごもった。そして、「主は今このようにして私に目を留め、人々の間から私の恥を取り除いてくださいました」と言い、五か月の間、安静にしていた。

Luk 1:25 [前節と合節]

Ⅱ.ザカリヤに対する天使の御告げ(8~17節)

1.8~9節

Luk 1:8 さてザカリヤは、自分の組が当番で、神の前で祭司の務めをしていたとき、

Luk 1:9 祭司職の慣習によってくじを引いたところ、主の神殿に入って香をたくことになった。

    (1)アビヤの組の祭司たちが当番で、神殿で奉仕をしていた。

      ①祭司の人数が多かったので、神殿で香をたく役割はくじで決められた。

      ②当時、約18,000人の祭司がいたと言われている。

        *ヨセフスによれば、2万人近い祭司がいた。

      ③各組に750人の祭司がいたことになる。

      ④くじに当たるのは生涯に一度で、当たらないで奉仕を終える者もいた。

      ⑤この日、そのくじがザカリヤに当たった。

  ⑥ザカリヤにとっては、生涯で最良の日となった。

  ⑦大祭司でない一般の祭司が、至聖所に最も近づける機会が来た。

    *至聖所にはシャカイナグローリーはなかった。

  3.10~12節

Luk 1:10 彼が香をたく間、外では大勢の民がみな祈っていた。

Luk 1:11 すると、主の使いが彼に現れて、香の祭壇の右に立った。

Luk 1:12 これを見たザカリヤは取り乱し、恐怖に襲われた。

(1)聖所の中でたく香は、イスラエルの民全体の祈りの象徴である。

  ①これは、午後3時にたく香であろう。

②この瞬間、ザカリヤはイスラエル全体の注目の的となった。

  ③ザカリヤは、イスラエルの民の祈りを神に届ける器となった。

  ④外で祈っているのは、そのほとんどがエルサレムの住民である。

  ⑤男子はイスラエルの庭で、女子は婦人の庭で祈っていた。

    (2)香の祭壇は、聖所の中央に置かれ、至聖所に向かっていた。

      ①天使が香の祭壇の右に立った。

②ユダヤ教の伝承の中で、裁きの天使は香壇の右に立つと言われていた。

      ③旧約聖書では、天使を見た者が恐れを感じるのはよくあることである。

      ④ザカリヤも天使を見て恐れた。

4.13~14節

Luk 1:13 御使いは彼に言った。「恐れることはありません、ザカリヤ。あなたの願いが聞き入れられたのです。あなたの妻エリサベツは、あなたに男の子を産みます。その名をヨハネとつけなさい。

Luk 1:14 その子はあなたにとって、あふれるばかりの喜びとなり、多くの人もその誕生を喜びます。

(1)天使の御告げの内容

      ①恐れることはない。

      ②ザカリヤの祈りは聞き入れられた。

*ザカリヤは祈っていた。

*息子が与えられるように、あるいは、メシアが到来するように。

        *息子の誕生は、その祈りに対する答えである。

      ③老年の妻エリサベツが、男の子を産む。

  ④その名をヨハネとつけなさい。

    *ヨハネとは、「ヤハウェの恵み」という意味である。

*主の主権を表わしている。

      ⑤その子は、両親に喜びをもたらすだけでなく、多くの人に喜びをもたらす。

  5.15~17節

Luk 1:15 その子は主の御前に大いなる者となるからです。彼はぶどう酒や強い酒を決して飲まず、まだ母の胎にいるときから聖霊に満たされ、

Luk 1:16 イスラエルの子らの多くを、彼らの神である主に立ち返らせます。

Luk 1:17 彼はエリヤの霊と力で、主に先立って歩みます。父たちの心を子どもたちに向けさせ、不従順な者たちを義人の思いに立ち返らせて、主のために、整えられた民を用意します。」

(1)その子は主の御前で大いなる者となる。

①いろいろな種類の大いなる者がいる。

    *人間の評価による大いなる者

    *自己評価による大いなる者

  ②実際のところ、主の目に大いなる者であれば、他のことはどうでもよい。

    (2)その子の偉大さが、4種類列挙される。

①彼は、主のために選び分けられたナジル人である。

    *ぶどうの実から取ったものを飲まない。

  ②彼は、胎内にいるときから、メシアの先駆者として聖霊に満たされている。

  ③彼は、イスラエル人の多くを神である主に立ち返らせる。

  ④彼は、預言者エリヤが行った奉仕を行うようになる。

    *人々を、悔い改めを通して主に立ち返るようにする。

    *ここでは、イエスの神性が啓示されている。

Ⅲ.しるし(18~23節)

  1.18節

Luk 1:18 ザカリヤは御使いに言った。「私はそのようなことを、何によって知ることができるでしょうか。この私は年寄りですし、妻ももう年をとっています。」

(1)ザカリヤは、アブラハムと同じ反応を示した。

      ①創15:8(土地の約束)

Gen 15:8 アブラムは言った。「【神】、主よ。私がそれを所有することが、何によって分かるでしょうか。」

    (2)ザカリヤは、「何によって知ることができるでしょうか」と言った。

      ①彼は、しるしを求めたのである。

      ②その結果、9ヶ月にわたり不便な生活を送ることになる。

      ③天使は、ザカリヤを叱責する。

  2.19~20節

Luk 1:19 御使いは彼に答えた。 「この私は神の前に立つガブリエルです。あなたに話をし、この良い知らせを伝えるために遣わされたのです。

Luk 1:20 見なさい。これらのことが起こる日まで、あなたは口がきけなくなり、話せなくなります。その時が来れば実現する私のことばを、あなたが信じなかったからです。」

(1)天使は自己紹介をした。

  ①自分は、神の前に立つガブリエルである。

    *一般の天使の中で、ガブリエルとミカエルのみ名前が知られている。

②この良い知らせは、神からのものである。

③ガブリエルは、2度ダニエルに現れた(ダニ8:16、9:21)。

    *2回とも、ダニエルの理解を助けるためであった。

  *同じ目的を持って、ザカリヤにも現れた。

  *しかし、ザカリヤは信じようとしなかった。

(2)ザカリヤは不信仰に対する罰を受けた。

  ①口がきけなくなるのは、不信仰に対する裁きである。

    *耳が聞こえなくなった可能性もある。

  ②と同時に、これは「しるし」でもある。

    *この時から9ヶ月間、ガブリエルの言葉が効力を発揮した。

    *信仰が戻るまでは、証しも賛美も彼の口からは出て来なくなった。

  3.21~22節

Luk 1:21 民はザカリヤを待っていたが、神殿で手間取っているので、不思議に思っていた。

Luk 1:22 やがて彼は出て来たが、彼らに話をすることができなかった。それで、彼が神殿で幻を見たことが分かった。ザカリヤは彼らに合図をするだけで、口がきけないままであった。

    (1)外でザカリヤを待つ民は、時間がかかっているので不思議に思っていた。

       ① 香をたくのにさほどの時間はかからないので、祭司はすぐに出て来る。

      ③人々は、ザカリヤは冒涜の罪で打たれたのではないかと考えた。

      ④もしそうなら、彼らの祈りは神に届かないことになる。

    (2)ようやく出て来たが、ザカリヤは話をすることができなかった。

  ①通常は、祭司はアロンの祝福の祈り(民6:24~26)を献げる。

②しかしザカリヤは、合図をするだけで口がきけないままであった。

  ③人々は、ザカリヤが神殿で幻を見たことを理解した。

4.23節

Luk 1:23 やがて務めの期間が終わり、彼は自分の家に帰った。

(1)当番の務めが終わったので、自分の家に帰った。

①彼の家は、ユダの山地にあった。

  *現在のエン・カレムという町

  *本来は人々のささげ物で生活が支えられるべきである。

  *困窮する人が多かったので、貧しい祭司は自らも労働した。

②彼は、口がきけないままであった。これは、「しるし」である。

Ⅳ.エリサベツの妊娠(24~25節)

1.24~25節

Luk 1:24 しばらくして、妻エリサベツは身ごもった。そして、「主は今このようにして私に目を留め、人々の間から私の恥を取り除いてくださいました」と言い、五か月の間、安静にしていた。

Luk 1:25 [前節と合節]

(1)エリサベツは、天使の御告げの通りに妊娠した。

      ①彼女の喜びの叫びは、ラケルの叫びに似ている(創30:23)。

Gen 30:23 彼女は身ごもって男の子を産み、「神は私の汚名を取り去ってくださった」と言った。

    (2)彼女は、五か月の間、自発的に安静にしていた。

  ① 高齢出産のため

  ②大騒ぎする人々を避けるため

  ③天使の御告げは、夫婦の秘密にしたと思われる。

  ④天使の御告げについて最初に聞かされたのは、マリアであろう。

⑤ルカ1:36

Luk 1:36 見なさい。あなたの親類のエリサベツ、あの人もあの年になって男の子を宿しています。不妊と言われていた人なのに、今はもう六か月です。

結論

  1.不妊について

    (1)不妊は、2つの意味で不幸なことであった。

①経済的理由:子どもがいないと、経済的に困窮する。

②社会的理由:聖書では、不妊が神の裁きとして語られることがある。

      ③しかし、このことがすべての不妊に当てはまるわけではない。

    (2)ルカ1:6

Luk 1:6 二人とも神の前に正しい人で、主のすべての命令と掟を落度なく行っていた。

      ①エリサベツの不妊の理由は、彼女の罪ではない。

②ユダヤ人の読者は、直ちにアブラハムとサラを思い出したはずである。

    (3)「落ち度なく行っていた」は、ギリシア語で「アメンプトス」である。

      ①ヘブル語では「タム」である。

      ②創6:9

Gen 6:9 これはノアの歴史である。/ノアは正しい人で、彼の世代の中にあって全き人であった。ノアは神とともに歩んだ。

      ③ヨブ1:8

Job 1:8 【主】はサタンに言われた。「おまえは、わたしのしもべヨブに心を留めたか。彼のように、誠実で直ぐな心を持ち、神を恐れて悪から遠ざかっている者は、地上には一人もいない。」

    (4)神は不妊の女を通して栄光を表された。

      ①アブラハムとサラ

      ②イサクとリベカ

③ヤコブとラケル

      ④サムソンの両親(マノアと無名の妻)

      ⑤サムエルの両親(エルカナとハンナ)

      ⑥ザカリヤとエリサベツ

    (5)神は、より大きな祝福を与えるために、何かを取り去られることがある。

      ①忍耐して待てば、素晴らしいものが与えられる。

  2.神の摂理について

    (1)エス3:7

Est 3:7 クセルクセス王の第十二年の第一の月、すなわちニサンの月に、日と月を決めるためにハマンの前で、プル、すなわちくじが投げられた。くじは第十二の月、すなわちアダルの月に当たった。

      ①ハマンは、ユダヤ人抹殺の日時を決定するためにくじを引いた。

        *くじは、「プル」(複数形はプリム)である。

        *ハマンの悪意が表現されている。

      ②くじは、第12の月(アダルの月)に当たった。

      ③ユダヤ人たちに、約1年間の準備期間が与えられた。

    (2)箴16:33

Pro 16:33 くじは膝に投げられるが、/そのすべての決定は【主】から来る。

    (3)ルカ1:9

Luk 1:9 祭司職の慣習によってくじを引いたところ、主の神殿に入って香をたくことになった。

      ①ヨハネの誕生も、イエスの誕生も、神の御手の中に置かれている。

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