ヘブル人への手紙(1)—ヘブル人への手紙のテーマ—

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「ヘブル人への手紙のテーマ」

ヘブル1:1~3

1.はじめに

  (1)著者

①いくつかの名が上げられてきた。

      *パウロ

*ルカ(パウロがヘブル語で書いたものを、ルカがギリシア語に翻訳した)

*バルナバ

*アポロ

*ピリポ

*ヨハネ

*マルコ

      ②著者は、ユダヤ人である。

        *ロマ3:2によれば、ユダヤ人には神のことばが委ねられている。

        *ユダヤ人でなければ、旧約聖書やユダヤ的習慣をここまで知り得ない。

      ③著者は、第2世代のメシアニック・ジューである。

Heb 2:3 私たちがこんなにすばらしい救いをないがしろにした場合、どうしてのがれることができましょう。この救いは最初主によって語られ、それを聞いた人たちが、確かなものとしてこれを私たちに示し、

Heb 2:4 そのうえ神も、しるしと不思議とさまざまの力あるわざにより、また、みこころに従って聖霊が分け与えてくださる賜物によってあかしされました。

        *これは、パウロの著作説を否定するものではない。

    (2)受取人

①著者と同様に、第2世代のユダヤ人信者たちである。

  *旧約聖書からの引用が多いのは、そのためである。

②彼らは、迫害と誤った教理に直面し、ユダヤ教に回帰しようとしていた。

③異邦人信者なら、ユダヤ教に回帰する心配はないが、ユダヤ人はそうではない。

④著者と受取人との間には、交流があった。

  *つまり、ある特定のグループのユダヤ人信者である。

Heb 13:19 また、もっと祈ってくださるよう特にお願いします。それだけ、私があなたがたのところに早く帰れるようになるからです。

Heb 13:23 私たちの兄弟テモテが釈放されたことをお知らせします。もし彼が早く来れば、私は彼といっしょにあなたがたに会えるでしょう。

(3)執筆時期

①紀元70年に神殿が滅びる前に書かれたと思われる。

  *神殿崩壊への言及がない。

  *神殿で祭儀が行われていたことが前提となっている。

②テモテはまだ生きていた(ヘブ13:23)。

  (4)ヘブル人への手紙の重要テーマ

    ①新約と旧約の関係

    ②キリストの受肉

    ③キリストの贖罪死

    ④キリストの祭司職

    ⑤信仰の本質

⑥信仰者の生活

2.アウトライン

  (1)むかし神が語られた方法(1節)

  (2)終わりの時に神が語られた方法(2節a)

  (3)御子の至高性(2b~3節)

  3.結論:この書簡の目的

    (1)信仰の後戻りをしようとする人への励まし

御子の至高性について学ぶ。

Ⅰ.むかし神が語られた方法(1節)

Heb 1:1 神は、むかし父祖たちに、預言者たちを通して、多くの部分に分け、また、いろいろな方法で語られましたが、

  1.挨拶なしに、すぐに本論に入る。

    (1)1~3節は、この書簡のテーマの紹介である。

      ①御子の至高性がテーマである。

      ②著者は、御子の素晴らしさを語らずにはおれない。

    (2)神は語られた。

      ①啓示の源は神である。

②それゆえ、神のことばに耳を傾けるのが私たちの責務である。

  2.神は、どのように語られたのか。

    (1)啓示のタイミング:「むかし」

      ①「かつて」(新共同訳)

      ②「終わりの時」との対比で語られている言葉である。

    (2)啓示の対象:「父祖たち」

       ①「父たち」

      ②神のことばは、ユダヤ人たちに委ねられた。

    (3)啓示の仲介者:「預言者たち」

      ①彼らは、神のことばを委ねられ、それを民に伝えた人たちである。

      ②彼らは聖霊に動かされて神のことばを語った(2ペテ1:19~21)。

    (4)方法:「多くの部分に分け、いろいろな方法で」

      ①「多くの部分に分け」とは、量的な要素への言及である。

        *神は、一時にすべての真理を啓示されたわけではない。

        *それぞれの預言者に、ある部分が委ねられた。

*時とともに、啓示が進展した。

        *これを漸進的啓示という。

      ②「いろいろな方法で」とは、質的な要素への言及である。

        *夢、幻、天使、直接の語りかけなどを通して神の啓示が届けられた。

      ③神は語られたが、それは完結した啓示ではなかった。

Ⅱ.終わりの時に神が語られた方法(2節a)

Heb 1:2a この終わりの時には、御子によって、私たちに語られました。

  1.神は、どのように語られたのか。

    (1)啓示のタイミング:「この終わりの時」

      ①これは、旧約聖書の用語である。

      ②御子の到来とともに「終わりの時」が始まった。

      ③ユダヤ教のラビたちは、メシア時代のことを「終わりの時」と表現していた。

      ④旧約聖書の啓示は漸進的啓示であるが、新約聖書の啓示はその完成版である。

      ⑤旧約聖書の預言が指し示していた御子が、ついに現れた。

    (2)啓示の対象:「私たち」

      ①著者とこの手紙の受取手

      ②メシア時代に生きる私たちは、最高に恵まれた時代に生かされている。

    (3)啓示の仲介者と方法:「御子」

       ①預言者でも天使でもなく、御子が啓示の仲介者となられた。

      ②終わりの時の啓示が信頼できる理由は、御子の至高性にある。

      ③次に、御子の至高性を証明する7つの要素が語られる。

Ⅲ.御子の至高性(2b~3節)

Heb 1:2b 神は、御子を万物の相続者とし、また御子によって世界を造られました。

Heb 1:3 御子は神の栄光の輝き、また神の本質の完全な現れであり、その力あるみことばによって万物を保っておられます。また、罪のきよめを成し遂げて、すぐれて高い所の大能者の右の座に着かれました。

   1.御子は、万物の相続者である。

    (1)御子は、父なる神から与えられた権威をもって全宇宙を統治しておられる。

      ①このような統治権を実施できるのは、御子が神だからである。

      ②御子は、神が人となられたお方である。

    (2)詩2:7~8

Psa 2:7 「わたしは【主】の定めについて語ろう。/主はわたしに言われた。/『あなたは、わたしの子。/きょう、わたしがあなたを生んだ。

Psa 2:8 わたしに求めよ。/わたしは国々をあなたへのゆずりとして与え、/地をその果て果てまで、あなたの所有として与える。

      ①私たちは、御子との共同相続人とされた。

②それが、私たちが御国を相続することの根拠である。

  2.御子は、父なる神とともに世界を造られたお方である。

    (1)「世界」(アイオウン)

      ①時代という意味がある。

      ②御子は、被造世界だけでなく、歴史の展開も支配しておられる。

    (2)神は、さまざまな時代を通してご自身を啓示してこられた。

      ①さまざまな時代とは、ディスペンセーションのことである。

  3.御子は、神の栄光の輝きである。

    (1)御子は、神の栄光を輝かせるお方である。

      ①ユダヤ人たちは、目に見える神の栄光をシャカイナグローリーと呼んだ。

      ②御子は、父なる神と同じ神性を持った神である。

    (2)ヨハ1:14

Joh 1:14 ことばは人となって、私たちの間に住まわれた。私たちはこの方の栄光を見た。父のみもとから来られたひとり子としての栄光である。この方は恵みとまことに満ちておられた。

4.御子は、神の本質の完全な現われである。

    (1)訳文の比較

「神の本質の完全な現れであり、」(新改訳)

「神の本質の完全な現れであって、」(新共同訳)

「神の本質の真の姿であって、」(口語訳)

「神の本質の像(かた)にして、」(文語訳)

「the express image of his person,」(KJV)

(2)「現れ」はギリシア語で「カラクテイル」である。

  ①印を押しつけてコインを造る。その道具を「カラクテイル」という。

  ②御子は、神の本質がそのまま現れているお方である。

  ③御子を離れては神を知ることはあり得ない。

④御子を見た者は、神を見たのである。

  5.御子は、その力あるみことばによって万物を保持しておられる。

    (1)この役割は、常に御子のものであった。

      ①「万物を保っておられる」とは、単に支えていることではない。

      ②御子は、歴史をゴールに向けて導いておられる。

    (2)コロ1:15~17

Col 1:15 御子は、見えない神のかたちであり、造られたすべてのものより先に生まれた方です。

Col 1:16 なぜなら、万物は御子にあって造られたからです。天にあるもの、地にあるもの、見えるもの、また見えないもの、王座も主権も支配も権威も、すべて御子によって造られたのです。万物は、御子によって造られ、御子のために造られたのです。

Col 1:17 御子は、万物よりも先に存在し、万物は御子にあって成り立っています。

6.御子は、罪のきよめを成し遂げられた。

  (1)著者は、御子を祭司として紹介してる。

    ①このテーマは、5~7章でさらに詳細に解説される。

    ②罪のきよめを行うのは、祭司の役割である。

  (2)御子が行う罪のきよめは、過去に起こった事実である。

    ①ギリシア語のアオリストという時制

    ②過去に一度限り起こったことを表わす。

    ③これは、再度繰り返す必要のない行為である。

    ④これは、外面だけのきよめではなく、罪のきよめである。

7.御子は、父なる神の右の座に着座し、大祭司としてとりなしをしておられる。

  (1)御子は、権威ある地位に着いておられる。

    ①御子は、罪のきよめの御業を完成された。

    ②御子は、父なる神と同じ権威を持っておられる。

  (2)1ペテ3:22

1Pe 3:22 キリストは天に上り、御使いたち、および、もろもろの権威と権力を従えて、神の右の座におられます。

    (3)ロマ8:34

Rom 8:34 罪に定めようとするのはだれですか。死んでくださった方、いや、よみがえられた方であるキリスト・イエスが、神の右の座に着き、私たちのためにとりなしていてくださるのです。

結論:

1.この書簡の目的:信仰の後戻りをしようとする人への励まし

    (1)メシアニック・ジューたちは、昔も今も、迫害に会う。

      ①ユダヤ人たちが戻っていく先は、ユダヤ教である。

        *口伝律法の教え

      ②あるいは、旧約聖書である。

      

    (2)試練を乗り越えるために知るべきこと

①御子は、旧約聖書が指し示していたお方である。

②御子は、神の啓示の完成となられた。

③御子は、大祭司として取りなしておられる。

    (3)私たちへの適用

      ①試練の原因は分からなくても、御子の至高性は理解できる。

      ②古い価値観や習慣に戻る必要性は、全くない。

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