メシアの生涯(192)—夜明け後の裁判、ユダの死—

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ユダの死の意味について考える。

「夜明け後の裁判、ユダの死」

ルカ22:66~71、マタ27:3~10

1.はじめに

  (1)文脈の確認

    ①宗教裁判の3段階

      *アンナスの前で(予備審問)

      *カヤパの前で(夜明け前の私的な裁判)

      *サンヘドリンの前で(夜明け後の公式な裁判)

    ②政治裁判の3段階

      *ピラトの前で

      *ヘロデの前で

      *ピラトの前で

    ③ペテロの失敗は、宗教裁判の第2段階と並行して起こった出来事である。

    ④今回は、宗教裁判の第3段階とユダの死について学ぶ。

    (2)A.T.ロバートソンの調和表

      §157 夜明け後にイエスは公式に有罪宣言を受ける。

§158 ユダは後悔し、自殺する。

2.アウトライン

  (1)夜明け後の裁判(ルカ22:66~71)

  (2)ユダの自殺(マタ27:3~10)

  3.結論:3つの矛盾

    (1)矛盾①

    (2)矛盾②

    (3)矛盾③

    (4)ペテロとユダの違い

ユダの死の意味について考える。

Ⅰ.夜明け後の裁判(ルカ22:66~71)

   1.66~67a節

Luk 22:66 夜が明けると、民の長老会、それに祭司長、律法学者たちが、集まった。彼らはイエスを議会に連れ出し、

Luk 22:67a こう言った。「あなたがキリストなら、そうだと言いなさい。」

     (1)宗教裁判の第3段階が始まる。

      ①夜が明けてからの公式な裁判である。

      ②「民の長老会、それに祭司長、律法学者たち」とは、サンヘドリンのこと。

        *当時の最高裁判所である。

      ③マタイ、マルコ、ルカは、すべて「夜が明けた」ことを記している。

        *夜が明けてからの裁判は、形式的な正当性を与えるためのものである。

    (2)彼らは、「あなたがキリストなら、そうだと言いなさい」と迫った。

      ①信仰による質問ではなく、有罪証拠を得るための質問である。

      ②彼らは、訴因をひとつに絞っている。

   2.67b~69節

Luk 22:67b しかしイエスは言われた。「わたしが言っても、あなたがたは決して信じないでしょうし、

Luk 22:68 わたしが尋ねても、あなたがたは決して答えないでしょう。

Luk 22:69 しかし今から後、人の子は、神の大能の右の座に着きます。」

     (1)イエスの回答

      ①自分がそうだと言っても、信仰による応答は決してないだろう。

     ②自分がメシアであることを信じるかと尋ねても、答えは返ってこないだろう。

       *イエスにはそう尋ねる権威がある。神だから。

     ③彼らに信仰はなかったが、イエスはご自身を啓示された。

       *人の子は、全能の神の右に座る。

       *これは、十字架の死、復活、昇天後に与えられる栄光ある地位である。

   3.70~71節

Luk 22:70 彼らはみなで言った。「ではあなたは神の子ですか。」すると、イエスは彼らに「あなたがたの言うとおり、わたしはそれです」と言われた。

Luk 22:71 すると彼らは「これでもまだ証人が必要でしょうか。私たち自身が彼の口から直接それを聞いたのだから」と言った。

     (1)これは、ギリシア語のイデオム(慣用句)である。

      ①「ではあなたは神の子ですか」(Are you the Son of God, then?)

②「あなたがたの言うとおり、わたしはそれです」(Ye say that I am.)

      ③相手の質問内容をすべて受け入れるときの、ギリシア語のイデオムである。

      ④そこには強調の意味がある。「全くその通り。わたしが神の子だ」

    (2)判決が出た。

      ①直接証言を聞いたので、証人は不要である。

      ②自らと神と等しいと主張したのは、冒涜罪である。

      ③これで、宗教裁判における有罪宣言が下った。

    (3)まだ問題があった。

      ①死刑の執行権が、ローマによって剥奪されていた。これは神の計画である。

        *ユダヤ人が死刑を執行する場合は、石打の刑である。

        *ローマが死刑を執行する場合は、十字架刑である。

        *旧約聖書の預言とイエスのことばに基づけば、十字架刑以外にない。

      ②次のステップは、ローマによる政治裁判で有罪を勝ち取ること。

        *しかし、冒涜罪はローマの裁判では死刑にならない。

        *今度は、イエスがローマにとって危険であることを証明する必要がある。

*神殿を破壊すると言ったことが、その証拠となる。

      ③しかし、ローマの法廷で証人となる予定のユダが消えた。

        *ユダは、イエスを逮捕するための先導役を果たした。

        *ユダは、ポンテオ・ピラトの前で証言し、一隊の兵士の派遣が許可された。

        *しかしユダは、ローマによる裁判の証人にはならなかった。

Ⅱ.ユダの自殺(マタ27:3~10)

  1.3~4節

Mat 27:3 そのとき、イエスを売ったユダは、イエスが罪に定められたのを知って後悔し、銀貨三十枚を、祭司長、長老たちに返して、

Mat 27:4 「私は罪を犯した。罪のない人の血を売ったりして」と言った。しかし、彼らは、「私たちの知ったことか。自分で始末することだ」と言った。

     (1)「そのとき」

      ①宗教裁判で有罪が決まり、イエスがピラトのもとに連行されるときである。

      ②サンヘドリンの議員の多くが、神殿に戻って政治裁判の結果を待っている。

      ③ユダは、ユダヤ人たちがそこまで過激にことを進めるとは思っていなかった。

      ④ユダは、自分の行為を後悔した。

    (2)「銀貨三十枚を、祭司長、長老たちに返して、」

      ①良心の痛みを覚えたことだけで救われるわけではない。

      ②良心の痛みは、ユダを銀貨30枚の返却へと導いただけである。

    (3)「私たちの知ったことか。自分で始末することだ」

      ①自分の罪責感は、自分で始末せよということ。

        *「What is that to us?」

        *彼らは、祭司としての使命を放棄した。

      ②悪の連帯は真の連帯ではない。次の瞬間に崩壊する。

      ③自分の行為は取り返しがつかない。よく考えて行動すること。

   2.5~6節

Mat 27:5 それで、彼は銀貨を神殿に投げ込んで立ち去った。そして、外に出て行って、首をつった。

Mat 27:6 祭司長たちは銀貨を取って、「これを神殿の金庫に入れるのはよくない。血の代価だから」と言った。

     (1)ユダの行動

      ①銀貨を神殿(ナオス)に投げ込んだ。

        *祭司しか入れない聖所の中に投げ込んだ。

        *銀貨30枚を持ち続けることは、罪責感を思い出させる。

      ②外に出て行って、首をつって死んだ。

      ③マタ27:5(口語訳)

Mat 27:5 そこで、彼は銀貨を聖所に投げ込んで出て行き、首をつって死んだ。

    (2)祭司長たちの行動

      ①彼らは、その銀貨30枚を神殿の金庫に入れることを躊躇した。

      ②それは「血の代価」である。人の死をもたらすために支払った金である。

      ③最初に神殿の金庫からそれを払った時には、なんの疑問も感じなかった。

      ④彼らは、「外側は清めるが、内側は汚れで一杯」である。

   3.7~10節

Mat 27:7 彼らは相談して、その金で陶器師の畑を買い、旅人たちの墓地にした。

Mat 27:8 それで、その畑は、今でも血の畑と呼ばれている。

Mat 27:9 そのとき、預言者エレミヤを通して言われた事が成就した。「彼らは銀貨三十枚を取った。イスラエルの人々に値積もりされた人の値段である。

Mat 27:10 彼らは、主が私にお命じになったように、その金を払って、陶器師の畑を買った。」

     (1)彼らはその金で陶器師の畑を買った。

      ①異邦人の旅人たち(無名の人たち)の墓地にするため。

      ②そこは「陶器師の畑」と呼ばれていた。粘土を採収する畑。

      ③そこは、「血の畑」(アケルダマ)と呼ばれるようになった。

    (2)そのことは、エレミヤの預言の成就である。

      ①詳細は、結論で取り上げる。

結論

  1.矛盾①:ユダの死に関する記録

    (1)ユダは首をつって死んだ。

    (2)使徒の働き1:18

Act 1:18 ところがこの男は、不正なことをして得た報酬で地所を手に入れたが、まっさかさまに落ち、からだは真っ二つに裂け、はらわたが全部飛び出してしまった。

    (3)解決法

      ①ユダは首をつって死んだ。

      ②過越の祭りの間、死体が城壁の内側にあってはならない。町が汚れる。

      ③前夜に過越の食事は終わっている。

      ④午前9時に過越の小羊がほふられ、24人の祭司長と大祭司がそれを食する。

      ⑤ユダヤ人の習慣では、埋葬の時間がない遺体は、城壁からベン・ヒノムの谷に

投げ捨てられた。

⑥激しく岩に打ち付けられるので、内臓が飛び出た。

⑦過越の祭りが終わると、埋葬人夫たちがやって来て、遺体を埋葬した。

  2.矛盾②:土地の購入に関する記録

    (1)マタ27:7

Mat 27:7 彼らは相談して、その金で陶器師の畑を買い、旅人たちの墓地にした。

    (2)使1:18

Act 1:18  ところがこの男は、不正なことをして得た報酬で地所を手に入れたが、まっさかさまに落ち、からだは真っ二つに裂け、はらわたが全部飛び出してしまった。

    (3)解決法

      ①この土地の法律上の所有者は、ユダである。

      ②ユダの名義でこの土地を購入したのは、祭司長たちである。

  3.矛盾③:エレミヤの預言が成就したという記録

    (1)マタ27:9~10

Mat 27:9 そのとき、預言者エレミヤを通して言われた事が成就した。「彼らは銀貨三十枚を取った。イスラエルの人々に値積もりされた人の値段である。

Mat 27:10 彼らは、主が私にお命じになったように、その金を払って、陶器師の畑を買った。」

    (2)しかし、マタイが引用しているのは、エレミヤ書ではなくゼカリヤ書である。

(3)ゼカ11:13

Zec 11:13 【主】は私に仰せられた。「彼らによってわたしが値積もりされた尊い価を、陶器師に投げ与えよ。」そこで、私は銀三十を取り、それを【主】の宮の陶器師に投げ与えた。

    (4)エレミヤ書19章は、「陶片の門を出たところにある、ベン・ヒノムの谷」につい

て預言している。

    (5)解決法:

①旧約時代、イスラエルの民はこの谷で息子たちを焼いてモレクの神に捧げた。

②ベン・ヒノムの谷は、新約時代には「ゲヘナ」と呼ばれるようになった。

③その罪に対する神の怒りが下った(紀元70年)。

④ヨセフスは、その様子を記録している。

⑤かくして、エレミヤ書19章の預言が成就した。

⑥マタイはエレミヤ書とゼカリヤ書を合体させ、より大きな視点を提供している。

  4.ペテロとユダの違い

    (1)「後悔し」

      ①ギリシア語では、「メタメロマイ」である。

        *罪責感に満たされ、自分の行為を後悔している状態である。

      ②似たような動詞に、「メタノエオウ」がある(名詞は「メタノイア」)。

        *悔い改め、同意などの意味がある。救いに関係した動詞はこれである。

      ③ユダは救われたとは言えない。

      ④救われるためには、イエスの死が自分の罪のためであると信頼する必要がある。

(2)ユダには、ペテロのような悔い改めと罪の赦しを信じる信仰はなかった。

  ①ペテロは、イエスと目が会ったときに、外に出て泣いた。悔い改めの涙。

  ②ユダは、イエスが有罪になり引かれて行くときに、イエスではなく、祭司長た

ちに語りかけた。

  ③もしユダがイエスに赦しを求めていたなら、彼は赦された。

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