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メシアの生涯(190)—宗教裁判—
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イエスの裁判から霊的教訓を学ぶ。
「宗教裁判」
ヨハ18:12~14、19~23
マタ26:57、59~68
1.はじめに
(1)文脈の確認
①イエスの裁判が始まる。
②ユダヤ的背景を考慮しないと、この裁判の進み方を理解することはできない。
*イエスは、口伝律法を破ったという理由で有罪にされた。
*しかし、ユダヤ人の指導者自身が22回口伝律法に違反する。
*ミシュナの中の「the Sanhedrin Tractate」に記された口伝律法である。
③宗教裁判の3段階
*アンナスの前で(予備審問)
*カヤパの前で(夜明け前の私的な裁判)
*サンヘドリンの前で(夜明け後の公式な裁判)
④政治裁判の3段階
*ピラトの前で
*ヘロデの前で
*ピラトの前で
⑤今回は、宗教裁判の1と2の段階を見る。
(2)A.T.ロバートソンの調和表
§154 アンナスの審問を受けるイエス
ヨハ18:12~14、19~23
§155 カヤパとサンヘドリンによって有罪宣言を受けるイエス
マタ26:57、59~68
2.アウトライン
(1)アンナスの審問を受けるイエス
(2)カヤパとサンヘドリンによって有罪宣言を受けるイエス
3.結論
(1)現代のユダヤ教のメシア観
(2)イエスに対する2つの道の可能性
イエスの裁判から霊的教訓を学ぶ。
Ⅰ.アンナスの審問を受けるイエス(ヨハ18:12~14、19~23)
1.12~13節
Joh 18:12 そこで、一隊の兵士と千人隊長、それにユダヤ人から送られた役人たちは、イエスを捕らえて縛り、
Joh 18:13 まずアンナスのところに連れて行った。彼がその年の大祭司カヤパのしゅうとだったからである。
(1)ここからアンナスによる予備審問が始まる(ヨハネにのみある情報)。
①アンナスはその年の大祭司カヤパのしゅうとである。
*「その年」とあるのは、ローマが大祭司を任命していたことを示す。
*大祭司職は終身職であるが、ローマは権力の集中を嫌った。
②アンナスは元大祭司である(およそ紀元7年~14年)。
*そして、今も権勢を誇っていた。
*ユダヤ人たちは、今もアンナスを大祭司と認めていた。
③アンナスが神殿の管理運営を独占していた。
*5人の息子と義理の息子を通して祭司職を支配していた。
④パリサイ人は、神殿の中庭を「アンナスの息子たちのバザール」と呼んでいた。
(2)4番目の違反
①朝のいけにえを捧げる前に裁判を行ってはならない。
②彼らは相当急いでおり、夜明け前に予備審問を開始した。
2.14節
Joh 18:14 カヤパは、ひとりの人が民に代わって死ぬことが得策である、とユダヤ人に助言した人である。
(1)この予備審問は単なる形式である。
①イエスが有罪であることは、すでに決まっていた。
(2)ヨハ11:49~50
Joh 11:49 しかし、彼らのうちのひとりで、その年の大祭司であったカヤパが、彼らに言った。「あなたがたは全然何もわかっていない。
Joh 11:50 ひとりの人が民の代わりに死んで、国民全体が滅びないほうが、あなたがたにとって得策だということも、考えに入れていない。」
①イエスがラザロを復活させたときに、この判決が出された。
(3)5番目の違反
①裁判は非公開ではなく、すべて公開にしなければならない。
3.19節
Joh 18:19 そこで、大祭司はイエスに、弟子たちのこと、また、教えのことについて尋問した。
(1)アンナスの意図は、イエスと弟子たちを有罪にすること。
①イエスは、質問に答えていない。
②証人を準備することは裁く側の責任である。
③イエスは、弟子たちを守ろうとしている。
4.20~21節
Joh 18:20 イエスは彼に答えられた。「わたしは世に向かって公然と話しました。わたしはユダヤ人がみな集まって来る会堂や宮で、いつも教えたのです。隠れて話したことは何もありません。
Joh 18:21 なぜ、あなたはわたしに尋ねるのですか。わたしが人々に何を話したかは、わたしから聞いた人たちに尋ねなさい。彼らならわたしが話した事がらを知っています。」
(1)イエスは、自分は公然と話してきたと答える。
①これは、非公開の裁判に対する皮肉である。
②キリスト教には、カルト宗教のような秘儀はない。
③イエスは、アンナスの術中に陥らず、逆に攻撃した。
5.22~23節
Joh 18:22 イエスがこう言われたとき、そばに立っていた役人のひとりが、「大祭司にそのような答え方をするのか」と言って、平手でイエスを打った。
Joh 18:23 イエスは彼に答えられた。「もしわたしの言ったことが悪いなら、その悪い証拠を示しなさい。しかし、もし正しいなら、なぜ、わたしを打つのか。」
(1)この夜、イエスが打たれるのはこれが最初である。
(2)イエスは、裁判の進め方が違法であると反論した。
①予備審問では、イエスを有罪にする証拠を見つけることができなかった。
Ⅱ.カヤパとサンヘドリンによって有罪宣言を受けるイエス(マタ26:57、59~68)
1.57節
Mat 26:57 イエスをつかまえた人たちは、イエスを大祭司カヤパのところへ連れて行った。そこには、律法学者、長老たちが集まっていた。
(1)大祭司カヤパ
①紀元25~36年に大祭司であった(イエスを裁いたのは、その中間の年)。
②彼は、サンヘドリンを導き、イエスを有罪にするために積極的に動いた。
③夜明け前に、カヤパの官邸にサンヘドリンが招集された。
(2)6番目の違反
①サンヘドリンによる裁判は、神殿の中の「the Hall of Judgment」で行う。
(3)サンヘドリンの構成員
*24人が祭司長(サドカイ派)
*24人が長老(パリサイ派)
*22人が律法学者(パリサイ派)
*1人が大祭司(サドカイ派)
①裁判を行うためには、最低23人の議員の出席が必要。
*無罪判決のためには、11人の賛成があればよい。
*有罪判決のためには、13人の賛成があればよい。
②ニコデモとアリマタヤのヨセフは召集されていない。
*最大69人の出席の可能性があるが、それ以下の人数かもしれない。
2.59~61節
Mat 26:59 さて、祭司長たちと全議会は、イエスを死刑にするために、イエスを訴える偽証を求めていた。
Mat 26:60 偽証者がたくさん出て来たが、証拠はつかめなかった。しかし、最後にふたりの者が進み出て、
Mat 26:61 言った。「この人は、『わたしは神の神殿をこわして、それを三日のうちに建て直せる』と言いました。」
(1)サンヘドリンは、イエスを死刑にするために、偽証を求めていた。
①最初から、有罪が決まっていた。
②ユダが姿を隠したので、混乱が始まった。
(2)7番目の違反
①ユダヤの裁判では、先ず弁護があり、次に告訴が始まる。
(3)8番目の違反
①無罪判決は全会一致でもよいが、有罪判決は全会一致では無効である。
②マコ14:55
Mar 14:55 さて、祭司長たちと全議会は、イエスを死刑にするために、イエスを訴える証拠をつかもうと努めたが、何も見つからなかった。
(4)彼らは、この時点では裁判の準備ができていない。
①証言が一致する2人の証人が出てこない。
②最後にふたりの者が証言したが、両者の証言内容は微妙に食い違っている。
③マコ14:58
Mar 14:58 「私たちは、この人が『わたしは手で造られたこの神殿をこわして、三日のうちに、手で造られない別の神殿を造ってみせる』と言うのを聞きました。」
④マタ26:61
Mat 26:61 「この人は、『わたしは神の神殿をこわして、それを三日のうちに建て直せる』と言いました。」
(5)9番目の違反
①2人ないし3人の証人の証言は、細部に至るまで一致していなければならない
(申19:15の規定)
(6)神殿破壊を取り上げている理由
①ローマ法によれば、神殿に危害を与える罪は死刑に当たる。
②サンヘドリンは、ローマ法廷での裁きを見越している。
3.62~63節
Mat 26:62 そこで、大祭司は立ち上がってイエスに言った。「何も答えないのですか。この人たちが、あなたに不利な証言をしていますが、これはどうなのですか。」
Mat 26:63 しかし、イエスは黙っておられた。それで、大祭司はイエスに言った。「私は、生ける神によって、あなたに命じます。あなたは神の子キリストなのか、どうか。その答えを言いなさい。」
(1)10番目の違反
①被告に、自らに不利な証言を迫ってはならない。
4.64~66節
Mat 26:64 イエスは彼に言われた。「あなたの言うとおりです。なお、あなたがたに言っておきますが、今からのち、人の子が、力ある方の右の座に着き、天の雲に乗って来るのを、あなたがたは見ることになります。」
Mat 26:65 すると、大祭司は、自分の衣を引き裂いて言った。「神への冒涜だ。これでもまだ、証人が必要でしょうか。あなたがたは、今、神をけがすことばを聞いたのです。
Mat 26:66 どう考えますか。」彼らは答えて、「彼は死刑に当たる」と言った。
(1)マコ14:62
Mar 14:62 そこでイエスは言われた。「わたしは、それです。人の子が、力ある方の右の座に着き、天の雲に乗って来るのを、あなたがたは見るはずです。」
①「I am.」は、イエスの神性宣言である。
②その上に、預言の言葉が加わった。
*父なる神の右の座に着く。
*シャカイナグローリーとともに戻って来る。
(2)11番目の違反
①レビ21:10に基づき、大祭司は衣を引き裂くことを禁じられる。
(3)12番目の違反
①裁判官は訴えがあった事件に関して審議するだけで、自ら訴えを起こしてはな
らない。
②カヤパは、新しい訴因を導入している。冒涜罪がそれである。
(4)13番目の違反
①冒涜罪は、神の御名(ヤハウェ)を口にした時にのみ成立する。
②この裁判では、イエスは神の御名を口にしていない。
(5)14番目の違反
①被告は、自白証拠だけで有罪とされることはない。
(6)15番目の違反
①有罪宣言を夜間に出してはならない。それをするのは、昼間だけである。
(7)16番目の違反
①死刑判決の場合、裁判と有罪判決の間に24時間以上の隔たりを設ける必要が
ある。
(8)17番目の違反
①死刑の場合、若い者から順に投票し、年長者の意見に左右されないようにする。
②ここでは、発声投票になっている。
(9)18番目の違反
①全会一致の有罪宣言は無効である。なぜなら、23~71人の議員が、事前謀議な
しに全会一致に至ることは不可能だからである。
(10)19番目の違反
①有罪判決は、有罪が決まってから3日経たないと行うことができない。
5.67~68節
Mat 26:67 そうして、彼らはイエスの顔につばきをかけ、こぶしでなぐりつけ、また、他の者たちは、イエスを平手で打って、
Mat 26:68 こう言った。「当ててみろ。キリスト。あなたを打ったのはだれか。」
(1)これは、イエスがこの夜に受けた2番目の侮辱である。
(2)20番目の違反
①裁判官は、人道的で親切でなければならない。
(3)21番目の違反
①死刑判決を受けた者を、刑の執行前に、鞭で打ったり叩いたりしてはならない。
②叩くと、4デナリの罰金
③平手打ちは、200デナリの罰金。
④顔につばきすることは、400デナリの罰金。
(4)22番目の違反
①安息日の夜や祭りの日に、裁判を行ってはならない。
結論
1.現代のユダヤ教のメシア観
(1)現代のユダヤ教では、「メシアが神だという期待は存在していなかった」という
議論がある。
①メシアはダビデの子である。
②メシアは人である。
(2)メシアニック・ジューの中にも、イエスの神性を認めない人もいる。
①メシアニック・ジューの神学は未だに混乱状態にある。
(3)しかし、カヤパは、2つのことを明確に理解していた。
①イエスは、自らがメシアだと宣言した。
②メシアは神の子である。
(4)イエス時代の大祭司は、聖書的メシア理解を持っていた。
2.イエスに対する2つの道の可能性
(1)マタ26:63
Mat 26:63 しかし、イエスは黙っておられた。それで、大祭司はイエスに言った。「私は、生ける神によって、あなたに命じます。あなたは神の子キリストなのか、どうか。その答えを言いなさい。」
①カヤパは、神の御名によってイエスに証言を迫っている。
②ユダヤ的には、これは相手を宣誓の下に置くことである。
③ユダヤ法では、宣誓の下に置かれた者は真実に答えなければならない。
(2)マタ26:64
Mat 26:64 イエスは彼に言われた。「あなたの言うとおりです。なお、あなたがたに言っておきますが、今からのち、人の子が、力ある方の右の座に着き、天の雲に乗って来るのを、あなたがたは見ることになります。」
(3)2つの道の可能性
①イエスをメシア、神の子として信じる道
②イエスは神を冒涜している者として拒否する道
(4)サンヘドリンは、後者を選んだ。
(5)マタ26:67~68
Mat 26:67 そうして、彼らはイエスの顔につばきをかけ、こぶしでなぐりつけ、また、他の者たちは、イエスを平手で打って、
Mat 26:68 こう言った。「当ててみろ。キリスト。あなたを打ったのはだれか。」
(6)1ペテ2:23~25
1Pe 2:23 ののしられても、ののしり返さず、苦しめられても、おどすことをせず、正しくさばかれる方にお任せになりました。
1Pe 2:24 そして自分から十字架の上で、私たちの罪をその身に負われました。それは、私たちが罪を離れ、義のために生きるためです。キリストの打ち傷のゆえに、あなたがたは、いやされたのです。
1Pe 2:25 あなたがたは、羊のようにさまよっていましたが、今は、自分のたましいの牧者であり監督者である方のもとに帰ったのです。
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