私たちはプロテスタントのキリスト教福音団体です。『1. 聖書のことばを字義どおりに解釈する 2. 文脈を重視する 3. 当時の人たちが理解した方法で聖書を読む 4. イスラエルと教会を区別する』この4点を大切に、ヘブル的聖書解釈を重視しています。詳しくは私たちの理念をご確認ください。
メシアの生涯(107)—姦淫の場で捕えられた女—
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イエスのことばに関する誤解を正す。
「姦淫の場で捕えられた女」
§097 ヨハ7:53~8:11
1.はじめに
(1)文脈の確認
①十字架にかかる前の年の仮庵の祭り(半年前)
②イエスは、祭りの終わりの大いなる日に、立って大声で人々を招かれた。
③そして、祭りが終わった。
(2)A.T.ロバートソンの調和表
「姦淫の女がイエスの前に連れてこられた話」(§97)
ヨハ7:53~8:11
2.この箇所は聖書の一部なのか。
(1)初期の写本群には、この箇所は含まれていない。
(2)ほとんどの学者が、この箇所はヨハネの福音書の原典の一部ではないと考える。
①プロテスタントの福音派は、これを聖典の一部とは認めない。
②カトリックは、ブルガタ訳に入っているので、聖典の一部と認める。
(3)後になって、ギリシア語のヨハネの福音書に付加された(4種類の箇所がある)。
①ヨハ7:36の後
②ヨハ7:44の後
③ヨハ7:52の後
④ルカ21:38の後
(4)ヨハ20:30
「この書には書かれていないが、まだほかの多くのしるしをも、イエスは弟子たちの
前で行われた」
①聖書に書かれていないが、歴史的事実であることが多くある。
②ほとんどの学者が、これを歴史的事実と認める。
③信頼できる初期の伝承が、写本製作をする書記によって付加されたのであろう。
3.アウトライン
(1)状況説明(7:53~8:2)
(2)指導者たちが仕掛けた罠(3~6節a)
(3)イエスの応答(6b~8節)
(4)結末(9~12節)
4.結論:3つの誤解
(1)罪に関する誤解
(2)イエスのことばに関する誤解
(3)イエスに関する誤解
イエスのことばに関する誤解を正す。
Ⅰ.状況説明(7:53~8:2)
1.7:53~8:1
「そして人々はそれぞれ家に帰った。イエスはオリーブ山に行かれた」
(1)祭りが終わったので、人々はそれぞれの家に帰った。
①イエスを顔と顔を合わせて見て、信じる人たちが起こった。
②しかし、大半の人たちがイエスを拒否した。
③指導者たちの危機感はさらに深くなった。早くイエスを逮捕せねばならない。
(2)訳語の問題
①1節の冒頭にあるギリシア語の「de」が訳されていない。
②「but」を入れるべきである。
③「そして人々はそれぞれ家に帰った。しかし、イエスはオリーブ山に行かれた」
④イエスには、枕するところもないのである。
⑤ベタニヤに宿泊することもあったが、オリーブ山が主な宿泊地であった。
2.2節
「そして、朝早く、イエスはもう一度宮に入られた。民衆はみな、みもとに寄って来た。イエスはすわって、彼らに教え始められた」
(1)文脈上、この日は祭りの8日目である。
①仮庵の祭りは、7日間続いた。
②8日目は、聖なる会合の日、安息の日である。
③イエスは、オリーブ山から神殿に向かわれた。徒歩で約30分弱。
(2)ルカ21:37~38
「さてイエスは、昼は宮で教え、夜はいつも外に出てオリーブという山で過ごされた。民衆はみな朝早く起きて、教えを聞こうとして、宮におられるイエスのもとに集まって来た」
①民衆は、いつものパターンで行動している。
②指導者たちは、イエスが神殿のどこに姿を現すかを予想できた。
Ⅱ.指導者たちが仕掛けた罠(3~6節a)
1.3~5節
「すると、律法学者とパリサイ人が、姦淫の場で捕らえられたひとりの女を連れて来て、真ん中に置いてから、イエスに言った。『先生。この女は姦淫の現場でつかまえられたのです。モーセは律法の中で、こういう女を石打ちにするように命じています。ところで、あなたは何と言われますか』」
(1)律法学者は、律法の研究をし、写本を作る法律の専門家である。
①パリサイ人は、律法学者よりも広い概念である。
(2)申19:15
「どんな咎でも、どんな罪でも、すべて人が犯した罪は、ひとりの証人によっては立証されない。ふたりの証人の証言、または三人の証人の証言によって、そのことは立証されなければならない」
①姦淫の場で捕えられたひとりの女が真ん中に置かれた(恐らく既婚の女性)。
②証人が複数いる。
③有罪のケースである。
(3)レビ20:10
「人がもし、他人の妻と姦通するなら、すなわちその隣人の妻と姦通するなら、姦通した男も女も必ず殺されなければならない」
(4)申22:22
「夫のある女と寝ている男が見つかった場合は、その女と寝ていた男もその女も、ふたりとも死ななければならない。あなたはイスラエルのうちから悪を除き去りなさい」
(5)モーセの律法によれば、男女ともに裁かれなければならない。
①男は逃げている。
②これは仕組まれた罠である。
③指導者たちが訴えている方法自体が、すでに律法違反である。
(6)モーセの律法によれば、この罪は石打ちに当たる。
①「あなた」に強調がある。
②イエスが、モーセの律法をどう解釈し、どう適用するかを問うたのである。
2.6節a
「彼らはイエスをためしてこう言ったのである。それは、イエスを告発する理由を得るためであった」
(1)彼らは、真剣にイエスを告発する理由を得ようとした。
①告発する理由が見当たらないので、自分たちでそれを作り出した。
②これまでは、口伝律法を巡る議論が行われてきた。
③ここでは、モーセの律法がテーマになっている。
(2)イエスが石打ちの刑を命じた場合
①その可能性は、大いにある。
②イエスは恵みに欠けると判断され、大衆の支持を失う。
③イエスをローマの裁判に引き渡すことができる。
④ヨハ18:31
「そこでピラトは彼らに言った。『あなたがたがこの人を引き取り、自分たちの律法に従ってさばきなさい。』ユダヤ人たちは彼に言った。「私たちには、だれを死刑にすることも許されてはいません」
(3)イエスが赦しを宣言した場合
①イエスはモーセの律法に反することばを語った。
②それゆえ、イエスはメシアではないと言える。
Ⅲ.イエスの応答(6b~8節)
1.6b節
「しかし、イエスは身をかがめて、指で地面に書いておられた」
(1)イエスは地面になにを書かれたのか。
①この動詞では、文字でも、絵でも、何かのしるしでも、すべて可能性あり。
②ある人たちは、イエスが告発する人たちの罪を書いていたと推測する。
③イエスが書いたものは残っていないが、文字を書けたことは確かである。
(2)強調点は、「指で」にある。
①モーセの律法は、613の規定から成っている。
②その内、603は人間が手で書いたものである。
③十戒だけが、神の手によって書かれた。
④姦淫の禁止は、その中に出て来る。
(3)出31:18
「こうして主は、シナイ山でモーセと語り終えられたとき、あかしの板二枚、すなわち、神の指で書かれた石の板をモーセに授けられた」
(4)出32:15~16
「モーセは向き直り、二枚のあかしの板を手にして山から降りた。板は両面から書いてあった。すなわち、表と裏に書いてあった。板はそれ自体神の作であった。その字は神の字であって、その板に刻まれていた」
(5)イエスは、モーセの律法の作者である。
①告発する者たちは、罪を正すための正当な手続きを踏んでいない。
②イエスは、彼らの動機が間違っていることを知っておられた。
2.7~8節
「けれども、彼らが問い続けてやめなかったので、イエスは身を起こして言われた。『あなたがたのうちで罪のない者が、最初に彼女に石を投げなさい。』そしてイエスは、もう一度身をかがめて、地面に書かれた」
(1)イエスのことばの背景には、モーセの律法のラビ的解釈がある。
(2)申17:6~7
「ふたりの証人または三人の証人の証言によって、死刑に処さなければならない。ひとりの証言で死刑にしてはならない。死刑に処するには、まず証人たちが手を下し、ついで、民がみな、手を下さなければならない。こうしてあなたがたのうちから悪を除き去りなさい」
①最初に石を投げる証人は、同じ罪を犯していない人でなければならない。
②イエスは、証人たちが同じ罪を心に宿していることを知っていた。
(3)ここでイエスは、罪の裁きを否定しているわけではない。
①イエスは、モーセの律法に違反していない。
②イエスは、モーセの律法の正しい運用を指示された。
③イエスは、罪を大目に見ているのではなく、指導者たちの罪を糾弾している。
Ⅳ.結末(9~12節)
1.9節
「彼らはそれを聞くと、年長者たちから始めて、ひとりひとり出て行き、イエスがひとり残された。女はそのままそこにいた」
(1)証人たちは、全員が去って行った。
①年長者は先に良心の呵責を覚えたのであろう。
②彼らは、同じ罪を心に宿したのである。
③告訴する者と証人がいなくなったので、告訴は取り下げられる。
(2)イエスと女だけがその場に残された。
①人の罪を裁くことができるのは、イエスだけである。
2.10~11節
「イエスは身を起こして、その女に言われた。『婦人よ。あの人たちは今どこにいますか。あなたを罪に定める者はなかったのですか。』彼女は言った。『だれもいません。』そこで、イエスは言われた。『わたしもあなたを罪に定めない。行きなさい。今からは決して罪を犯してはなりません』」
(1)イエスは、罪を赦す権威をお持ちである。
①罪を大目に見たのではない。
②イエスは、神の小羊として罪の贖いの代価を支払おうとしておられる。
(2)パリサイ人たちは、謙遜にさせられた。
①これ以降、イエスに罠を仕掛けることはなくなった。
結論:3つの誤解
1.罪に関する誤解
(1)律法学者とパリサイ人は、なぜこの女を告訴できたのか。
①罪人は、自分よりも重大な罪を犯している人を見ると、糾弾したくなる。
②相対的に自分が善人であるかのように思えてくる。
③罪の現実は変わらないのに、喜びを覚えるようになる。
(2)すべての人は、神の前に罪人である。
①イエスは、罪を容認していない。
②そのために、十字架にかかるのである。
③罪の解決法は、他者との比較によって与えられるものではない。
④イエスの十字架上での死を受け取る信仰が必要である。
2.イエスのことばに関する誤解
「あなたがたのうちで罪のない者が、最初に彼女に石を投げなさい」(7節)
(1)このことばは、私たちは他者を裁くべきではないという意味に誤解される。
①しかし、このことばは、他者を裁く者は罪のない者でなければならないという
一般論を論じているのではない。
(2)マタ18章にあった手順
①傷つけられた人が、罪を犯した人と対面する。
②ひとりかふたりの証人を連れて行って悔い改めを迫る。
③それでもだめなら、地域教会に事実を告げる。
④それさえも拒否したなら、教会の交わりから追放する。
3.イエスに関する誤解
ヨハ1:14
「ことばは人となって、私たちの間に住まわれた。私たちはこの方の栄光を見た。父のみもとから来られたひとり子としての栄光である。この方は恵みとまことに満ちておられた」
(1)まことを強調することも、恵みを強調することも、アンバランスにつながる。
(2)まこと(真理)
①罪に対して厳しく対応する。
②今後、決して罪を犯してはならないと言われた。
(3)恵み
①罪の女を赦された。
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