メシアの生涯(92)—ペテロの信仰告白—

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イエスの公生涯の分水嶺について学ぶ。

「ペテロの信仰告白」

§082 マコ8:27~30、マタ16:13~20、ルカ9:18~21

1.はじめに

  (1)文脈の確認

    ①弟子たちの霊の目が徐々に開かれつつある。

②イエスは、3つのパン種に注意するように警告を発した。

  *福音書では、パン種は「偽りの教え」である。

③3つのパン種

  *パリサイ人のパン種

  *サドカイ人のパン種

  *ヘロデのパン種

④イエスは、弟子たちが正しく理解したかどうかを試す。

⑤この箇所は、福音書の中の分岐点、分水嶺である。

  *イエスが民衆から歓迎される時期は終わった。

  *イエスは弟子たちの信仰を確認する。

  *その上で、イエスは十字架に顔を向ける。

  (2)A.T.ロバートソンの調和表

    「ピリポ・カイザリヤの近郊で、イエスは弟子たちの信仰を試す」(§82)

マコ8:27~30、マタ16:13~20、ルカ9:18~21

2.アウトライン

  (1)2つの質問(13~16節)

  (2)教会設立の約束(17~18節)

  (3)使徒としての特権の付与(19~20節)

  3.結論:3つの誤解

    (1)人間の役割の誤解

    (2)ラビ用語の誤解

    (3)教会の本質の誤解

イエスの公生涯の分水嶺について学ぶ。

Ⅰ.2つの質問(13~16節)

  1.状況説明

「さて、ピリポ・カイザリヤの地方に行かれたとき、」 (13節a)

  (1)名称

    ①「ピリポのカイザリヤ」という意味

    ②現在は、バニアスと呼ばれている。

  (2)地形と歴史

    ①ヨルダン川の4水源の一つバニアス川が発するヘルモン山南麓の高台。

    ②水源の一つである「泉の洞穴」には、パネイオン(パン神)の聖所があった。

    ③町の名はパニアス(アラビヤ語でバニアス)であった。

    ④前20年、ヘロデ大王は皇帝アウグストからこの町を与えられた。

    ⑤その子ヘロデ・ピリポが町を拡張美化し、皇帝テベリオに敬意を表してカイザ

     リヤと改名。地中海のカイザリヤと区別するため、ピリポ・カイザリヤとした。

    ⑥ここは、自然神パンの偶像礼拝や皇帝崇拝が長い間行われていた場所である。

  (3)イエスは、依然として異邦人の地を巡っておられる。

2.最初の質問

「イエスは弟子たちに尋ねて言われた。『人々は人の子をだれだと言っていますか。』彼ら

は言った。『バプテスマのヨハネだと言う人もあり、エリヤだと言う人もあります。また

ほかの人たちはエレミヤだとか、また預言者のひとりだとも言っています』」 (13b~14節)

  (1)自分に関する人々の評価を聞く質問

    ①客観的な内容なので、弟子たちには答えやすい。

  (2)広い範囲の可能性が示唆されている。

    ①バプテスマのヨハネ

    ②エリヤ

    ③エレミヤ

    ④預言者のひとり

  (3)すべて不十分な回答である。

    ①イエスは、普通以上の人物であるが、唯一のお方ではないという回答である。

    ②しかし、イエスはメシアであり、神である。

3.2つ目の質問

「イエスは彼らに言われた。『あなたがたは、わたしをだれだと言いますか。』シモン・ペ

テロが答えて言った。『あなたは、生ける神の御子キリストです』」 (15~16節)

  (1)なぜこの質問を弟子たちにするのか。

    ①ヨハネの弟子であった彼らは、イエスをメシアと信じたので従って来た。

②しかし、イエスは当時一般的であったメシア像に合致する歩みはしなかった。

③弟子たちの信仰は試されたが、それでも彼らは、イエスには神からの使命が与

えられているとの確信を保っていた。

    (2)「あなたがたは、わたしをだれだと言いますか」

       ①「あなたがた」という言葉に強調がある。

    “But you, who do you say that I am?”

    ②この質問の重要性を見逃してはならない。

  (3)「あなたは、生ける神の御子キリストです」

    ①ギリシア語では、4つの定冠詞によって内容が強調された文である。

      *The Messiah

      *The Son

      *of The God

      *The Living One

    ②イエスは、旧約聖書が預言する油注がれたお方である。

    ③イエスにあって、イスラエルの民の希望はすべて成就した。

    ④イエスは、人間以上のお方、神ご自身である。

    ⑤ペテロの回答は、弟子集団を代表したものである。

Ⅱ.教会設立の約束(17~18節)

   1.17節

「するとイエスは、彼に答えて言われた。『バルヨナ・シモン。あなたは幸いです。この

ことをあなたに明らかに示したのは人間ではなく、天にいますわたしの父です』」 (17節)

     (1)ペテロはイエスから祝福のことばを受けた。

      ①イエスがどういうお方であるかを、ついに理解したからである。

    (2)しかし、この結論は人間的な思索や知恵によって到達したものではない。

      ①彼は、パン種に関する警告に耳を傾けた。

②父なる神の啓明があったので、ペテロの目はイエスに対して開かれた。

  2.18節

  「ではわたしもあなたに言います。あなたはペテロです。わたしはこの岩の上にわたしの

教会を建てます。ハデスの門もそれには打ち勝てません」 (18節)

(1)メシアへの信仰告白があったので、次に、メシアによる計画が啓示される。

  ①それは、教会設立の啓示である。

(2)イエスは初めてペテロに会った時、「あなたはヨハネの子シモンです。あなたを

ケパ(訳すとペテロ)と呼ぶことにします」と言われた(ヨハ1:41~42)。

      ①今やペテロは、この信仰告白によって「岩」のように強くなった。

      ②イエスは、この日が来ることを知っておられた。

    (3)「わたしはこの岩の上にわたしの教会を建てます」

       ①ここで「教会」という語が初めて聖書に登場する。

②この語は、マタイの福音書だけに出てくる。

      ③未来形なので、この時点ではまだ教会は誕生していない。

      ④「岩」という言葉遊びに注目

        *ペテロ(男性名詞ペテロス)は、小さな石である。

        *ペトラ(女性名詞)は、巨大な岩盤である。

        *この2つの言葉は、コントラストのために使用されている。

        *信仰告白をしたペテロは小さな石であるが、教会の土台は巨大な岩である。

      ⑤カトリック教会は、この岩をペテロだと解釈する。

      ⑥文脈上は、この岩とは「イエスをメシアと認める信仰」であり、イエス自身で

ある。

 *旧約聖書では、岩はメシアの象徴である。

「見よ。わたしはシオンに一つの石を礎として据える。これは、試みを経た石、

堅く据えられた礎の、尊いかしら石。これを信じる者は、あわてることがない」

(イザ28:16)

        *岩が人間の象徴として用いられている例はない。

     (4)「ハデスの門もそれには打ち勝てません」

      ①ピリポ・カイザリヤの村々は、異教世界では「地獄の門」として知られていた。

      ②イエスは、自らの死も、使徒たちの死も、教会の存続を止めることはないと教

えた。

*イエスは、自らの死を予感しておられた。

Ⅲ.使徒としての特権の付与(19~20節)

   1.19節a

「わたしは、あなたに天の御国のかぎを上げます」

   (1)鍵は権威の象徴である。

    ①鍵は、天の御国の扉を開くためのものである。

    ②ここでは、「天の御国」とは、直前に語られた教会のことである。

  (2)ペテロは、使徒行伝の中で特別な役割を演じた。

    ①人類は、ユダヤ人と異邦人に分類されてきた。

    ②エズラ記になると、ユダヤ人、サマリヤ人、異邦人の3区分が登場する。

    ③ペテロは、その3区分の人たちのために天の御国の扉を開いた。

      *ユダヤ人 使2章

      *サマリヤ人 使8章

      *異邦人 使10章

2.19節b

「何でもあなたが地上でつなぐなら、それは天においてもつながれており、あなたが地上

で解くなら、それは天においても解かれています」

   (1)「つなぐ」と「解く」は、ペアになっている語である。

    ①司法上の意味では、有罪と無罪を意味する。

    ②立法上の意味では、禁止と許可を意味する。

  (2)ペテロが自由気ままに裁定を下すという意味ではない。

    ①父なる神の御心を理解し、その実践者となるという意味である。

3.20節

「そのとき、イエスは、ご自分がキリストであることをだれにも言ってはならない、と弟

子たちを戒められた」

   (1)この段階でのイエスのポリシー通りである。

結論:3つの誤解

  1.人間の役割の誤解

    (1)カトリック教会の教理的間違い

      ①ペテロの高揚

      ②マリアの高揚

    (例話)真理を理解する意欲を失った形式宗教

    (2)プロテスタントも同じ間違いを犯している場合がある。

      ①宗教改革者や、教派教団の創始者の高揚

  2.ラビ用語の誤解

    (1)「つなぐ」と「解く」が、文脈から外れて、霊の戦いの用語として用いられる。

      ①「つなぐ」は「縛る(bind)」である。

      ②しかし、これらの言葉は、ラビ用語である。

      ③パリサイ人たちは、この権威を自らのものとして行使した。

      ④時にはモーセの律法が許可していることを禁止し、時にはモーセの律法が禁止

していることを許可した。

      ⑤神は、パリサイ人たちにそのような権威を与えたことはない。

      ⑥ペテロはこの権威をここで受け、他の使徒たちは後に受けた。

    (2)今の教会に与えられている権威

      ①立法上の権威は与えられていない。

      ②罪を犯した信者に対して懲戒処分を行うという意味では、部分的に司法上の権

威を有する。

    (3)「縛る」という言葉は、サタンや悪霊を縛ることとは無関係である。

①サタンは、メシアの再臨の時に縛られる(黙20:2)。

②私たちは、サタンに立ち向かうように命じられている(ヤコ4:7)。

  3.教会の本質の誤解

    (1)ユダヤ人を対象に書かれたマタイの福音書が、教会の誕生を預言している。

      ①ユダヤ人がイエスのメシア性を拒否した結果、奥義としての王国の時代になる。

      ②奥義としての王国の時代は、教会時代とほぼ同義である。

      ③教会のプログラムは挿入句のように入って来たもので、それ自体がゴールでは

ない。

      ④マタイの福音書は、神のユダヤ人に対する計画が再び動き始めることを前提に、

教会の誕生について言及している。

    (2)ペテロの信仰告白がイエスの公生涯の分水嶺となった。

      ①第一次世界大戦(1914年)

②1948年のイスラエル建国は、救済史の新しい分水嶺となった。

③広い視野から、日本でのクリスチャン生活を考える。

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