ルカの福音書(3)イエス誕生の告知1:26~38

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イエス誕生の告知について学ぶ。

ルカの福音書 03回

イエス誕生の告知

ルカ1:26~38

1.はじめに

  (1)前回は、「ヨハネ誕生の告知」について学んだ。

    ①冒頭部分(ルカ1:5~56)の構成は、慎重に計算されたものである。

      ②ルカ1~2章は、七十人訳聖書の文体に似ている(ヘブル的リズムがある)。

    (2)「ヨハネの誕生」と「イエスの誕生」の対比

      ①両親の紹介(ルカ1:5~7、ルカ1:26~27)

      ②天使の御告げ(ルカ1:8~23、ルカ1:28~30)

      ③しるし(ルカ1:18~20、ルカ1:34~38)

      ④妊娠(ルカ1:24~25、ルカ1:42)

    (3)乙女マリアの単純な信仰と、年老いた祭司ザカリヤの慎重な信仰の対比

      ①恐らくルカは、マリアかその家族にインタビューしたのであろう。

      ②今で言うところの「個人情報」を引き出したのであろう。

  2.アウトライン

(1)イエスの両親の紹介(26~27節)

(2)マリアに対する天使の御告げ(28~33節)

(3)しるし(34~37節)

(4)マリアの妊娠(38節)

  3.結論

    (1)マリアの信仰

    (2)マリアの限界

イエス誕生の告知について学ぶ。

Ⅰ.イエスの両親の紹介(26~27節)

  
1.26節

Luk 1:26 さて、その六か月目に、御使いガブリエルが神から遣わされて、ガリラヤのナザレという町の一人の処女のところに来た。

(1)エリサベツが妊娠6ヶ月に入った時

  ①これもまた、2つの告知物語を関連させる言葉である。

  ②再びガブリエルが登場する。

  ③神が主導権を握っておられる。

    (2)ガリラヤのナザレという町

      ①ルカは、イスラエルの地の外に住む人たちのために、これを書いている。

      ②ヨハネ誕生の告知の舞台は、エルサレムの神殿であり、ユダの山地であった。

      ③今回の舞台は田舎の村ナザレである。

*ナザレは、旧約聖書にもタルムードにも登場しない。

④ヨハネの物語は、神殿から始まり、外に広がって行く。

⑤イエスの物語は、辺境の地から始まり、神殿に向って行く。

⑥当時のナザレの人口は、1,600~2,000人程度であった。

⑦これは村であるが、ルカは評価を高めるために町(ポリス)と呼んでいる。

  2.27節

Luk 1:27 この処女は、ダビデの家系のヨセフという人のいいなずけで、名をマリアといった。

    (1)処女のマリアは、年老いたザカリヤとエリサベツ夫婦と対比されている。

      ①マリアはヘブル語でミリアム。

*「高く上げられた者」という意味である。

        *モーセの姉はミリアムであった。

      ②処女は「パーセノス」。若い未婚の女性。処女性を含意している。

      ③当時の女性の婚約年齢はおよそ13歳(12歳の可能性もある)。

    (2)当時のユダヤ人の結婚の習慣

      ①花婿の父親が嫁を探すところから始まる(息子の意見は、多少反映される)。

      ②良い娘がいたら、その父親に申し込みをする(娘の意見は無視される)。

      ③正式な合意があれば、父親が花嫁の父親に花嫁料を払う。

      ④花婿が同意書を出し、正式な「いいなずけ」関係が成立する。

      ⑤結婚生活は1年ほど先のことになるが、法的には結婚関係とみなされる。

      ⑥もし花嫁が他の男と関係を持てば、姦淫の罪を犯したことになる。

      ⑦婚約関係の破棄は、離婚によってのみ可能になる。

    (3)ダビデの家系のヨセフという人が、いいなずけであった。

      ①「いいなずけ」の関係は、今日の婚約関係以上に法的拘束力があった。

②マタイの福音書の系図では、ヨセフはダビデの家系であるとされている。

      ③ルカの福音書の系図(3章)によれば、マリアもダビデの家系である。

      ④メシアは、ダビデの子孫として誕生する。

      ⑤義父との法的関係のゆえに、イエスにはダビデの王位を継承する資格あり。

Ⅱ.マリアに対する天使の御告げ(28~33節)

  
1.28節

Luk 1:28 御使いは入って来ると、マリアに言った。「おめでとう、恵まれた方。主があなたとともにおられます。」

    (1)天使ガブリエルが再び登場する。

      ①ザカリヤの場合よりも、記述が単純である。

    (2)「おめでとう、恵まれた方。主があなたとともにおられます」

      ①天使はマリアを礼拝しているのではなく、彼女に挨拶しただけである。

②「おめでとう」は、シャロームであろう。普通の挨拶の言葉である。

      ③次に続く言葉は尋常ではない(仮にマリアに社会的地位があったとしても)。

        *「恵まれた方」という呼びかけ(英語で「highly favored one」)

          ・これは、「恵みに満ちた方」という意味ではない。

        *「主があなたとともにおられます」という約束

          ・マリアが選ばれたのは、100パーセント神の恵みによる。

  2.29~30節

Luk 1:29 しかし、マリアはこのことばにひどく戸惑って、これはいったい何のあいさつかと考え込んだ。

Luk 1:30 すると、御使いは彼女に言った。「恐れることはありません、マリア。あなたは神から恵みを受けたのです。

    (1)マリアの反応

      ①ザカリヤの場合は、「取り乱し、恐怖に襲われた」(12節)とあった。

      ②マリアの場合は、「ひどく戸惑って、・・・考え込んだ」とある。

      ③ユダヤのユダヤ人たちは、ガリラヤ人を軽蔑していた。

        *ガリラヤ訛りが強くて、無学である。

      ④「恵まれた方」とは、神から恵みを与えられた方という意味である。

    (2)ザカリヤへの告知とマリアへの告知の違い

      ①ともに、「恐れることはありません」で始まる。

      ②ザカリヤの場合は、願いが聞かれたという言葉が続く。

      ③マリアの場合は、「あなたは神から恵みを受けたのです」となる。

      ④彼女は、ユダヤ人たちが長く待ち望んでいたメシアの母となる特権を得た。

  3.31~33節

Luk 1:31 見なさい。あなたは身ごもって、男の子を産みます。その名をイエスとつけなさい。

Luk 1:32 その子は大いなる者となり、いと高き方の子と呼ばれます。また神である主は、彼にその父ダビデの王位をお与えになります。

Luk 1:33 彼はとこしえにヤコブの家を治め、その支配に終わりはありません。」

(1)メシアは、人間性を持って誕生する。

①ガブリエルは、イザ7:14をほぼそのまま引用している。

Isa 7:14
それゆえ、主は自ら、あなたがたに一つのしるしを与えられる。見よ、処女が身ごもっている。そして男の子を産み、その名をインマヌエルと呼ぶ。

    (2)メシアは、人類を救う神である。

      ①マリアにはイエスという名が示された。

      ②イエスは、「イェシュア」(主は救い)である。

      ③ユダヤ人伝道では「イエス(Jesus)」より「イェシュア(Yeshua)」使用。

    (3)「大いなる者となり」

      ①ヨハネの場合は、「主の御前に大いなる者となる」(15節)であった。

      ②ここでは、イエスの優位性が示されている。

    (4)「いと高き方の子と呼ばれます」

      ①ヘブル語で「いと高き方」は、「ハ・エルヨン」(神の御名)である。

      ②ヘブル的には、子とは父と同等である(子は父のコピーである)。

      ③この称号は、イエスの神性を示している。

    (5)「彼にその父ダビデの王位をお与えになります」

      ①これは、2サム7:12~17にあるダビデ契約の成就の約束である。

      ②これは、イエスがユダヤ人のメシアとして来られたことを示している。

    (6)「彼はとこしえにヤコブの家を治め、その支配に終わりはありません」

      ①ヤコブの家とは、イスラエルの民である。

      ②これもまた、イエスがユダヤ人のメシアであることを示している。

      ③この約束は、イエスの再臨と千年王国の出現によって成就する。

Ⅲ.しるし(34~37節)

  
1.34節

Luk 1:34 マリアは御使いに言った。「どうしてそのようなことが起こるのでしょう。私は男の人を知りませんのに。」

(1)ザカリヤとマリアの違い

①ザカリヤの場合は、不信仰の言葉を語った。

  *自分は年寄りだし、妻もそうだ。

      ②マリアの場合は、どうしたらそれが実現するのかを尋ねている。

        *「男の人を知りませんのに」

        *知るとは、体験すること。婉曲語である。

        *マリアは、ヨセフと実質的な結婚生活に入っていない。

        *ヨハネの誕生は奇跡的なことであるが、イエスの誕生はそれ以上。

③ザカリヤへの告知とマリアへの告知は、ここで大きく道が分かれる。

  2.35節

Luk 1:35
御使いは彼女に答えた。「聖霊があなたの上に臨み、いと高き方の力があなたをおおいます。それゆえ、生まれる子は聖なる者、神の子と呼ばれます。

(1)ヘブル的対句法がある。

  ①「聖霊があなたの上に臨み、いと高き方の力があなたをおおいます」

    *ユダヤの伝統では、神の臨在を「おおう」という動詞で表現する。

    *異教の神話にあるような、神と人との結婚ではない。

    *医者のルカは、これ以上詳しくは論じていない。

 ②「生まれる子は聖なる者、神の子と呼ばれます」

*ここに受肉の神秘が表現されている。

    *イエスは、神性をなくすことなく、人間として誕生する。

(2)「おおう」という動詞は、「エピスキアゾウ」である。

  ①変貌山でシャカイナグローリーがそこにいた弟子たちをおおった。

②マタ17:5、マコ9:7、ルカ9:34

Mat 17:5
彼がまだ話している間に、見よ、光り輝く雲が彼らをおおった。すると見よ、雲の中から「これはわたしの愛する子。わたしはこれを喜ぶ。彼の言うことを聞け」という声がした。

  3.36~37節

Luk 1:36
見なさい。あなたの親類のエリサベツ、あの人もあの年になって男の子を宿しています。不妊と言われていた人なのに、今はもう六か月です。

Luk 1:37 神にとって不可能なことは何もありません。」

(1)マリアに「しるし」が与えられた。

      ①彼女は「しるし」を求めたわけではない。

      ②この「しるし」には、叱責の意味はない。

      ③親戚のエリサベツの妊娠が、「しるし」である。

      ④ザカリヤとエリサベツの「個人情報」が開示された。

    (2)マリアに最高の保障が与えられた。

①「神にとって不可能なことは何もありません」

②エリサベツの妊娠以外にも、先例がある。

③創18:14

Gen 18:14
【主】にとって不可能なことがあるだろうか。わたしは来年の今ごろ、定めた時に、あなたのところに戻って来る。そのとき、サラには男の子が生まれている。」

      ④ルカ1:37は、試練の中にいる人を励ましてきた。

      ⑤さらに、処女降誕が信じられない人に勇気を与えてきた。

Ⅳ.マリアの妊娠(38節)

  
1.38節

Luk 1:38
マリアは言った。「ご覧ください。私は主のはしためです。どうぞ、あなたのおことばどおり、この身になりますように。」すると、御使いは彼女から去って行った。

    (1)「ご覧ください。私は主のはしためです。どうぞ、あなたのおことばどおり、

この身になりますように」

      ①マリアは、旧約聖書でよく使用されていた用語を用いて応答した。

      ②1サム1:18(サムエルの母ハンナ)

1Sa 1:18
彼女は、「はしためが、あなたのご好意を受けられますように」と言った。それから彼女は帰って食事をした。その顔は、もはや以前のようではなかった。

      ③少女マリアの信仰は、信者の模範である。

      ④天使の御告げは、グッドニュースであると同時に、バッドニュースであった。

⑤彼女は、払うべき犠牲の大きさを知りながら、単純に従った。

    (2)天使は、その使命を終えた。

      ①次にマリアが登場するときには、彼女は妊娠している。

      ②ルカ1:42(エリサベツの言葉)

Luk 1:42 そして大声で叫んだ。「あなたは女の中で最も祝福された方。あなたの胎の実も祝福されています。

結論

  1.マリアの信仰

    (1)ルターの解説

      ①イエスの誕生物語には、3つの奇跡が含まれている。

        *神が人となられたこと

*処女が妊娠したこと

*マリアが信じたこと

      ②この中で最も偉大なのは、3番目である。

    (2)マリアは、イエスの母になるという召命に応答したのである。

    (3)ここには普遍的適用がある。

      ①私は、説教者として召命を受けた。

      ②職業は、神からの召命である。これが職業倫理の土台である。

      ③私たちは、男性として、女性として召されている。

      ④父、母、夫、妻、子どもとして召されている。

      ⑤神に不可能はないと信じるなら、神は人間の限界を超えて用いてくださる。

  2.マリアの限界

    (1)マリア崇拝は、聖書の教えから逸脱している。

    (2)アヴェ・マリアの祈り(©日本カトリック司教協議会)

  アヴェ、マリア、恵みに満ちた方、

主はあなたとともにおられます。

あなたは女のうちで祝福され、

ご胎内の御子イエスも祝福されています。

神の母聖マリア、

わたしたち罪びとのために、

今も、死を迎える時も、お祈りください。

アーメン。

(2011年6月14日 定例司教総会にて承認)

    (3)ヨハ2:3~5

Joh 2:3 ぶどう酒がなくなると、母はイエスに向かって「ぶどう酒がありません」と言った。

Joh 2:4 すると、イエスは母に言われた。「女の方、あなたはわたしと何の関係がありますか。わたしの時はまだ来ていません。」

Joh 2:5 母は給仕の者たちに言った。「あの方が言われることは、何でもしてください。」

    (4)使1:14

Act 1:14 彼らはみな、女たちとイエスの母マリア、およびイエスの兄弟たちとともに、いつも心を一つにして祈っていた。

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