使徒の働き(85)―パウロの弁明(2)―

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第三次伝道旅行について学ぶ。

「パウロの弁明(2)」

使徒22:17~29

1.はじめに

(1)文脈の確認

①パウロを神殿で見かけたユダヤ人たちは、騒動を起こした。

*アジア(エペソ)から来たユダヤ人たちが煽動者であった。

*彼らは、パウロが異邦人を神殿に連れ込んだと思い込んだ。

②殺される寸前で、千人隊長の介入があった。

③パウロは、千人隊長の許可を得て、群衆に語りかけた。

④パウロの危機管理

*彼は、礼儀正しい態度で千人隊長に接した。

*彼は、終始冷静さを保った。

 

 

(2)パウロの弁明の4つのポイント

①かつての自分(1~5節)

②回心(6~11節)

③洗礼(12~16節)

④神殿での幻(17~21節)

 

 

(3)アウトライン

①神殿での幻(17~21節)

②ユダヤ人たちの反応(22~23節)

③千人隊長との対話(24~29節)

 

 

結論:

1.召命と苦難

2.ユダヤ人と律法

パウロのスピーチから霊的教訓を学ぶ

 

 

Ⅰ.神殿での幻 (17~21節)

1.17~18節

Act 22:17 こうして私がエルサレムに帰り、宮で祈っていますと、夢ごこちになり、

Act 22:18 主を見たのです。主は言われました。『急いで、早くエルサレムを離れなさい。人々がわたしについてのあなたのあかしを受け入れないからです。』

(1)この幻の記録は、ここにしか出て来ない。

①ダマスコ体験から、エルサレムに上るまでに約3年経過(#32参照)。

②9:20~22

Act 9:20 そしてただちに、諸会堂で、イエスは神の子であると宣べ伝え始めた。

Act 9:21 これを聞いた人々はみな、驚いてこう言った。「この人はエルサレムで、この御名を呼ぶ者たちを滅ぼした者ではありませんか。ここへやって来たのも、彼らを縛って、祭司長たちのところへ引いて行くためではないのですか。」

Act 9:22 しかしサウロはますます力を増し、イエスがキリストであることを証明して、ダマスコに住むユダヤ人たちをうろたえさせた。

③使9:21と22の間に、アラビヤ滞在の期間が入る。

④ガラ1:17

Gal 1:17 先輩の使徒たちに会うためにエルサレムにも上らず、アラビヤに出て行き、またダマスコに戻りました。

 

 

(2)3年間のパウロの地理的移動

①回心直後のダマスコ会堂での伝道

②アラビヤ滞在(現在のヨルダン)

③ダマスコへの帰還と迫害からの逃避

④エルサレム訪問と迫害からの逃避

⑤タルソへの帰還

 

 

(3)パウロは、エルサレムの神殿で祈っていた。

①この説明は、ユダヤ人たちに好印象を与えたと思われる。

②主は再び、パウロに語りかけた。

「急いで、早くエルサレムを離れなさい」

*使徒たちにとっては、エルサレムは安全な場所ではなかった。

*パウロを殺したいと思っている者がたくさんいた。

「人々がわたしについてのあなたのあかしを受け入れないからです」

*主は、ユダヤ人たちの心を見抜いておられた。

 

 

2.19~20節

Act 22:19 そこで私は答えました。『主よ。私がどの会堂ででも、あなたの信者を牢に入れたり、むち打ったりしていたことを、彼らはよく知っています。

Act 22:20 また、あなたの証人ステパノの血が流されたとき、私もその場にいて、それに賛成し、彼を殺した者たちの着物の番をしていたのです。』

(1)パウロは、主の判断に同意しなかった。

①ユダヤ人たちは、パウロが信者を容赦なく迫害してきたことを知っていた。

②ステパノの殉教の際にも、パウロは重要な役割を果たしていた。

 

 

(2)主よりも自分の方がよく分かっていると思ってしまうのは、人間の弱さである。

①ペテロの例(マタ16:21~23)

②12使徒たちの例(マタ26:31~35)

 

 

3.21節

Act 22:21 すると、主は私に、『行きなさい。わたしはあなたを遠く、異邦人に遣わす』と言われました。」

(1)主は、エルサレムがステパノ同様パウロを拒否することを知っておられた。

「行きなさい。わたしはあなたを遠く、異邦人に遣わす」

②使9:15~16

Act 9:15 しかし、主はこう言われた。「行きなさい。あの人はわたしの名を、異邦人、王たち、イスラエルの子孫の前に運ぶ、わたしの選びの器です。

Act 9:16 彼がわたしの名のために、どんなに苦しまなければならないかを、わたしは彼に示すつもりです。」

③「王たち、イスラエルの子孫」が意図的に省略され、異邦人が強調されている。

 

 

(2)異邦人は、「以前は遠く離れていた」と言われている(エペ2:13)。

①パウロは、主によって異邦人伝道に派遣された使徒である。

 

 

Ⅱ.ユダヤ人たちの反応 (22~23節)

1.22節

Act 22:22 人々は、彼の話をここまで聞いていたが、このとき声を張り上げて、「こんな男は、地上から除いてしまえ。生かしておくべきではない」と言った。

(1)ここまで人々はパウロの話を静かに聞いて来た。

①パウロが見た2つの幻の話が、効果を発揮し始めたかに見えた。

 

 

(2)ところが、人々は突然怒りの感情を表わした。

「異邦人」という言葉を聞いたからである。

②彼らは、異邦人伝道そのものに反対しているのではない。

*預言者ヨナの例がある。

*パリサイ人たちも、異邦人をユダヤ教に改宗させようとしていた。

*マタ23:15

Mat 23:15 わざわいだ。偽善の律法学者、パリサイ人。おまえたちは改宗者をひとりつくるのに、海と陸とを飛び回り、改宗者ができると、彼を自分より倍も悪いゲヘナの子にするのです。

③ユダヤ教を経由しないで、異邦人に直接メシアを伝えることが問題なのである。

④これは、異邦人をユダヤ人と同じ位置に置くことに等しい。

⑤伝統的なユダヤ人の考え方では、これは究極的な背教である。

 

 

2.23節

Act 22:23 そして、人々がわめき立て、着物を放り投げ、ちりを空中にまき散らすので、

(1)人々は怒りを表現した。

①着物を放り投げる(着物を裂くのは、深い落胆の表現である)。

②ちりを空中にまき散らすのは、嘆きの表現である。

③ここでは、投げるものがないので、着物とちりを投げているのであろう。

 

 

Ⅲ.千人隊長との対話 (24~29節)

1.24節

Act 22:24 千人隊長はパウロを兵営の中に引き入れるように命じ、人々がなぜこのようにパウロに向かって叫ぶのかを知ろうとして、彼をむち打って取り調べるようにと言った。

(1)アラム語が分からない千人隊長は、当惑した。

①暴動がこれ以上広がることは容認できない。

②パウロを保護し、その後取り調べを行うしかない。

③千人隊長は、群衆が怒っている理由をなんとしても知りたいと思った。

 

 

(2)そこで、パウロをむちで打って自白させようとした(拷問による自白強要)。

①ローマのむち打ちは、非常に残酷なものであった。

②死に至ることや、後遺症が残ることがあった。

③パウロはユダヤ人から5度、ローマ人から3度、むちを受けた(2コリ11:25)。

 

 

2.25節

Act 22:25 彼らがむちを当てるためにパウロを縛ったとき、パウロはそばに立っている百人隊長に言った。「ローマ市民である者を、裁判にもかけずに、むち打ってよいのですか。」

(1)パウロは、立ったまま両手両足を2本の柱にくくり付けられた。

①むち打ちが始まる直前に、パウロは百人隊長に言った。

②ここにも、パウロが敬意を払いながら行動しているという証拠がある。

 

 

(2)「ローマ市民である者を、裁判にもかけずに、むち打ってよいのですか」

①ローマ市民を裁判にかけないで犯罪人扱いするのは、違法であった。

②さらに、ローマ市民は有罪であっても、むち打ちを免れた。

③これらの規定に違反するなら、その者は死刑になる。

④パウロは、間接的に自分がローマ市民であることを伝えたのである。

⑤百人隊長は、死刑に値する罪を犯す寸前に、その情報を得た。

 

 

3.26~28節

Act 22:26 これを聞いた百人隊長は、千人隊長のところに行って報告し、「どうなさいますか。あの人はローマ人です」と言った。

Act 22:27 千人隊長はパウロのところに来て、「あなたはローマ市民なのか、私に言ってくれ」と言った。パウロは「そうです」と言った。

Act 22:28 すると、千人隊長は、「私はたくさんの金を出して、この市民権を買ったのだ」と言った。そこでパウロは、「私は生まれながらの市民です」と言った。

(1)百人隊長は、むち打ちを中止し、千人隊長にこのことを報告した。

①百人隊長は、ことばだけでパウロがローマ市民であることを信じた。

②当時は、市民権の証明書は安全な場所に保管されていた。

③偽りの自己申告をすると、死刑に処せられた。

 

 

(2)千人隊長はすぐにパウロのところに来た。

①パウロから直接、ローマ市民であるという証言を聞いた。

②彼もまた、パウロの証言をそのまま信じた。

 

 

(3)「私はたくさんの金を出して、この市民権を買ったのだ」

①あなたの場合は、もっと金がかかった(賄賂)でしょうという意味である。

②クラウデオの治世(41~54年)、市民権を買うことが可能であった(高額)。

③千人隊長の名前は「クラウデオ・ルシア」であった。

 

 

(4)「私は生まれながらの市民です」

①パウロの祖父か父が市民権を得た。

②ローマの高官によく仕えた者には、報奨として市民権が付与されていた。

③生まれながらの市民は、市民権を買った者よりも尊敬されていた。

 

 

4.29節

Act 22:29 このため、パウロを取り調べようとしていた者たちは、すぐにパウロから身を引いた。また千人隊長も、パウロがローマ市民だとわかると、彼を鎖につないでいたので、恐れた。

(1)ローマ市民を裁判にかけないで鎖につなぐのは、違法である。

①百人隊長も千人隊長も、自分たちは違法行為を働いたのではないかと恐れた。

 

 

結論

1.召命と苦難

(1)使9:15~16

Act 9:15 しかし、主はこう言われた。「行きなさい。あの人はわたしの名を、異邦人、王たち、イスラエルの子孫の前に運ぶ、わたしの選びの器です。

Act 9:16 彼がわたしの名のために、どんなに苦しまなければならないかを、わたしは彼に示すつもりです。」

①アナニヤがパウロに伝えた主のことば

②パウロの召命には、イエスの御名のために苦しむことも含まれていた。

③イエスの裁判とパウロの裁判には、共通点があった。

*ユダヤ議会(サンヘドリン)の前で

*ローマ人の総督の前で

*ユダヤ人の王の前で

④ともに無罪を宣言されたが、釈放はされなかった。

(2)ユダヤ人の不信仰

①イエスを拒否した。

②ペテロとヨハネを迫害した。

③ステパノを殺した。

④パウロを殺そうとした。

*使徒の働きの中では、このことが最終的な福音の拒否となっている。

*紀元70年にエルサレムが滅びることが決定的となった。

*そして、福音は異邦人世界に広がって行く。

2.ユダヤ人と律法

(1)現在、MJ神学には大きく分けて2つの流れがある。

①「Torah Observance」グループ(トーラー遵守派)

②「New Covenant Freedom」グループ(新約による自由派)

③数の上で言えば、①の方が主流である。

 

 

(2)新約聖書は、モーセの律法がメシアの死とともに無効になったと教えている。

①メシアを信じる者はモーセの律法から解放されている。

*ロマ7:5~6、10:4

*2コリ3:2~11

*ガラ3:19、3:23~4:7

*エペ2:14~15

*へブ7:11~18、8:8~13

 

 

(3)新約時代の信者(MJも異邦人も)に適用されるのは、「モーセの律法は無効にな

り、信者は今や新しい律法の下にいる」という原則である。

①ガラテヤ6:2では「キリストの律法」

②ロマ8:2では「いのちの御霊の原理」

③これは、モーセの律法とは完全に別個の新しい律法である。

④ここには、キリストおよび使徒たちから与えられた命令がすべて含まれている。

 

 

(4)MJには、モーセの律法を守る自由も、守らない自由もある。

①もし守る場合、それが自らの救いや聖化に役立つと考えるなら、間違いである。

 

 

(5)異邦人信者には、モーセの律法は最初から無関係のものである。

 

 

(6)MJも異邦人信者も、今はキリストの律法の下にある。

①一言で表現すると、「聖霊に導かれ、愛の人生を歩みなさい」ということ。

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