使徒の働き(3)―イエスの証人となる―

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イエスによる任命と、イエスの昇天について学ぶ。

「イエスの証人となる」

使徒1:6~8

1.はじめに

(1)この書が書かれた目的は何か。

①歴史的目的

②神学的目的

③弁証論的目的

 

(2)前回の内容の確認

①献呈の辞(1~2節)

②復活後のイエスの奉仕(3節)

*「神の国」がテーマであった。

*これは、「奥義としての王国」である。

③使徒たちへの命令(4~5節)

*エルサレムを離れないで待て。

*父の約束(聖霊)

 

2.アウトライン

(1)使徒たちの質問(6節)

(2)イエスの答え(7節)

(2)イエスによる任命(8節)

 

結論:

(1)伝道の地理的拡大

(2)旧約聖書における証人という概念

 

イエスによる任命と、イエスの昇天について学ぶ。

Ⅰ.使徒たちの質問(6節)

1.6節

Act 1:6 そこで、彼らは、いっしょに集まったとき、イエスにこう尋ねた。「主よ。今こそ、イスラエルのために国を再興してくださるのですか。」

(1)この場面は、オリーブ山(ベタニヤに近い場所)での出来事であろう。

①6節と7節の内容の重要性に着目しよう。

*この質問に対するイエスの回答が、使徒の働きを理解する鍵となる。

②「そこで」(メンウーン)(therefore)は、その前の節を受けた言葉である。

③イエスは、聖霊のバプテスマの約束をされた。

④そこで彼らは、「イスラエル復興」に関する質問をした。

 

(2)「主よ。今こそ、イスラエルのために国を再興してくださるのですか」

①日本語訳聖書では、「イスラエルのために国を再興してくださるのですか」とな

っている。

②「国」は「バシレイア」である。

③「restore the kingdom to Israel?」(ASV)

④この質問の内容は、ユダヤ的に読み解く必要がある。

⑤使徒たちの質問は、「メシア的王国」(千年王国)に関するものである。

 

(3)使徒たちは、旧約聖書にある約束を知っていた。

①イザ32:15〜20

Isa 32:15 しかし、ついには、/上から霊が私たちに注がれ、/荒野が果樹園となり、/果樹園が森とみなされるようになる。

Isa 32:16 公正は荒野に宿り、義は果樹園に住む。

Isa 32:17 義は平和をつくり出し、/義はとこしえの平穏と信頼をもたらす。

Isa 32:18 わたしの民は、平和な住まい、/安全な家、安らかないこいの場に住む。

Isa 32:19 ──雹が降ってあの森を倒し、/あの町は全く卑しめられる。──

Isa 32:20 ああ、幸いなことよ。/すべての水のほとりに種を蒔き、/牛とろばとを放し飼いするあなたがたは。

②ヨエ2:28

Joe 2:28 その後、わたしは、/わたしの霊をすべての人に注ぐ。/あなたがたの息子や娘は預言し、/年寄りは夢を見、若い男は幻を見る。

③その他の箇所(イザ44:3〜5、エゼ39:28〜29、ゼカ12:10〜13:1)

④これらの聖句が預言していること

*終わりの時になると、イスラエルの民の上に聖霊が注がれる。

*その結果、イスラエルは民族的救いを経験するようになる。

*その救いが成就すると異邦人の時代は終わり、ダビデ王国が復興する。

*これがメシア的王国(千年王国)である。

*この王国は、地上に文字通り成就する王国である。

*メシアはダビデの王座に着いてエルサレムから世界を統治する。

*使徒たちは12の座に着いてイスラエル12部族をさばくようになる。

・マタ19:28、ルカ22:30にあるイエスの約束

 

(4)使徒たちの質問は、必ずしも的外れなものではない。

①聖霊の傾注とイスラエルの救いは、連動している。

②ただし、彼らにはメシア的王国が出現する時期に関する誤解があった。

 

Ⅱ.イエスの答え(7節)

1.7節

Act 1:7 イエスは言われた。「いつとか、どんなときとかいうことは、あなたがたは知らなくてもよいのです。それは、父がご自分の権威をもってお定めになっています。

(1)イエスは、メシア的王国の出現に関しては否定していない。

①つまり、ご自分が王として地上の王国を統治することは否定していない。

②ただし、それがいつ実現するのかを詮索することを戒めた。

 

(2)「いつとか、どんなときとかいうことは、あなたがたは知らなくてもよいのです」

「いつ」は、「クロノス」(時)である。

「どんなとき」は、「カイロス」(時期)である。

③「どれくらい先か、どういう状況でそれが成就するか、知らなくてもよい」

「いつとか、どんなときとか」は、ユダヤ的には再臨の前に起こる重要な出来

事を指す。

 

(3)「それは、父がご自分の権威をもってお定めになっています」

 

①父なる神は、それを啓示しないことを選ばれた。

②それゆえ、父なる神以外には、受肉したイエスも天使も知らないことである。

 

(4)使徒たちは、イスラエルの救いはまだ先のことであることを理解するようになる。

①使3:19~21

Act 3:19 だから、自分の罪が消し去られるように、悔い改めて立ち帰りなさい。

Act 3:20 こうして、主のもとから慰めの時が訪れ、主はあなたがたのために前もって決めておられた、メシアであるイエスを遣わしてくださるのです。

Act 3:21 このイエスは、神が聖なる預言者たちの口を通して昔から語られた、万物が新しくなるその時まで、必ず天にとどまることになっています。

②ロマ11:25~27

Rom 11:25 兄弟たち。私はあなたがたに、ぜひこの奥義を知っていていただきたい。それは、あなたがたが自分で自分を賢いと思うことがないようにするためです。その奥義とは、イスラエル人の一部がかたくなになったのは異邦人の完成のなる時までであり、

Rom 11:26 こうして、イスラエルはみな救われる、ということです。こう書かれているとおりです。/「救う者がシオンから出て、/ヤコブから不敬虔を取り払う。

Rom 11:27 これこそ、彼らに与えたわたしの契約である。/それは、わたしが彼らの罪を取り除く時である。」

 

(5)置換神学は間違っている。

①置換神学は、イスラエルに与えられていた約束は教会が継承したと教える。

②しかし、神がイスラエルに与えた約束は、終わりの日に必ず成就する。

*ユダヤ人のすべてがメシアを拒否したわけではない。

*もしそうなら、使徒の働きは存在しないことになる。

*教会史の最初の約7年間は、異邦人信者がひとりも出て来ない。

*使10章のコルネリオ

③置換神学は、教会が犯した最大の罪である。

*反ユダヤ主義を生み出した。

*終末論を混乱させた。

 

Ⅲ.イエスによる任命(8節)

Act 1:8 しかし、聖霊があなたがたの上に臨まれるとき、あなたがたは力を受けます。そして、エルサレム、ユダヤとサマリヤの全土、および地の果てにまで、わたしの証人となります。」

 

1.8節

(1)「しかし」(アッラ)(But)

①テーマを「イスラエルの将来の王国」から「今為すべき使命」に切り替える。

②イエスは、4~5節で語った「聖霊によるバプテスマ」を取り上げる。

③彼らは、聖霊によって力を受ける。

 

(2)「聖霊があなたがたの上に臨まれるとき、あなたがたは力を受けます」

①イエスは、どこで聖霊を受けるかを明確にしておられる。

*エルサレムである。

②しかし、いつ聖霊を受けるかについては、あいまいである。

*「もう間もなく」(使1:5)

③聖霊を受けるための準備に関しては、何も語られていない。

*聖霊によるバプテスマは、神の一方的な恵みによって与えられる。

*人間の側の努力や行いによるのではない。

 

(3)「そして、エルサレム、ユダヤとサマリヤの全土、および地の果てにまで、わた

しの証人となります」

①使徒たちが「キリストの証人」となって活動することが本書のテーマである。

②「証人」(マルタス)(英語でmartyr)

③この使命は、教会全体で行うべきものである。

⑤「聖霊の力」とは、その使命を果たすために必要かつ十分な力である。

⑥使1:8は、使徒の働きの区分にもなっている。

 

結論:

1.伝道の地理的拡大

Act 1:8 しかし、聖霊があなたがたの上に臨まれるとき、あなたがたは力を受けます。そして、エルサレム、ユダヤとサマリヤの全土、および地の果てにまで、わたしの証人となります。」

(1)エルサレムでの伝道(2:1〜8:4)

①エルサレムは、メシアが十字架に付いて死に、葬られ、復活し、昇天した町。

②ガリラヤ出身の弟子たちは、エルサレムを住まいとした。

③ここは、初代のユダヤ人信者たちの教会が誕生した町でもある。

④また、イエスを拒否した祭司や律法学者たちが権威をふるっていた町でもある。

 

(2)サマリヤでの伝道(8:5〜25)

①サマリヤ人たちは、ユダヤ人の遠い親戚に当たる人々である。

*アッシリヤ捕囚以降、雑婚の民となった。

②独自の礼拝形式を持ち、ゲリジム山こそ神を礼拝する場所だと考えていた。

 

(3)ユダヤでの伝道(8:26〜12:25)

①これは広義のユダヤで、ガリラヤも含む概念である。

②ガリラヤ地方は、当時のパリサイ主義の拠点となっていた場所である。

*エルサレムは、サドカイ派の勢力が強かった。

 

(4)地の果て(13:1〜20:38)

①「地の果て」とは、当時の用語で「異邦人の世界」を指す言葉である。

②初期のユダヤ人信者たちは、ディアスポラのユダヤ人を考えていたはずである。

③時の経過とともに、彼らは、福音はすべての民のものだということを理解した。

④21〜28章までは、投獄されたパウロの活動を扱っている。

 

2.旧約聖書における証人という概念

(1)イスラエルは、神の証人として召された。

①イザ43:12

Isa 43:12 このわたしが、告げ、救い、聞かせたのだ。/あなたがたのうちに、異なる神はなかった。/だから、あなたがたはわたしの証人。/──【主】の御告げ──わたしは神だ。

*イスラエルは、共同体としての「神のしもべ」であり「神の証人」である。

②イザ44:8

Isa 44:8 恐れるな、おののくな。/わたしが、もう古くからあなたに聞かせ、/告げてきたではないか。/あなたがたはわたしの証人。/わたしのほかに神があろうか。/ほかに岩はない。わたしは知らない。

*イスラエルは、偶像礼拝の民に対して唯一の神を証しする証人である。

 

(2)教会は、共同体として、キリストの証人である。

①教会が証言すべき内容は、ルカ24:46~48にある。

Luk 24:46 こう言われた。「次のように書いてあります。キリストは苦しみを受け、三日目に死人の中からよみがえり、

Luk 24:47 その名によって、罪の赦しを得させる悔い改めが、エルサレムから始まってあらゆる国の人々に宣べ伝えられる。

Luk 24:48 あなたがたは、これらのことの証人です。

②教会に与えられている職務規程を再確認しよう。

*任命の内容は、「キリストの証人」となることである。

*任命の領域は、「地の果てまでも」である。

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