メシアの生涯(75)—悪霊につかれたゲラサ人の癒し—

  • 2013.09.02
  • マルコ5章:1〜20、マタイ8章:28〜34、ルカ8章:26〜39
  • スピーカー 中川健一
  • ハーベスト定例会
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悪霊につかれたゲラサ人の癒しから教訓を学ぶ

「悪霊につかれたゲラサ人の癒し」

§066 マコ5:1~20

1.はじめに

  (1)文脈の確認

    ①イエスの奇跡は、弟子訓練を目的としたものとなった。

    ②この箇所の奇跡も、弟子訓練という文脈の中で読まねばならない。

    ③イエスの行い(奇跡)が、イエスのことば(教え)の真実性を証明する。

  (2)連続して起こる奇跡

    ①自然界の支配

    ②悪霊の追い出し

    ③不治の病の癒し

    ④死者の蘇生

  (3)聖地旅行の体験

    ①タプハからエン・ゲブへ。

    ②その途中のクルシという場所の地形は、福音書に記された通りのものである。

(4)A.T.ロバートソンの調和表

      「湖の向こう岸でイエスは悪霊につかれたゲラサ人を癒す」(§66)

  マコ5:1~20、マタ8:28~34、ルカ8:26~39

2.アウトライン

  (1)奇跡が起こった場所(1節)

  (2)悪霊につかれた人の悲惨な状態(2~5節)

  (3)悪霊の追い出し(6~13節)

  (4)住民たちの反応(14~17節)

  (5)解放された人の反応(18~20節)

  3.結論:弟子訓練の内容

悪霊につかれたゲラサ人の癒しから教訓を学ぶ

Ⅰ.奇跡が起こった場所(1節)

  1.1節

  「こうして彼らは湖の向こう岸、ゲラサ人の地に着いた」

     (1)地名について

      ①マルコとルカには、「ゲラサ人の地」とある。

      ②マタイには、「ガダラ人の地」とある。

      ③矛盾ではなく、①は町の名前、②は地域の名前である。

    (2)ガリラヤの東岸は、異邦人の地である。

      ①イエスは、弟子訓練のためにユダヤ人の地を離れて異邦人の地に行かれた。

      ②デカポリス(10の町)は、1つの例外を除いてすべて東岸にあった。

      ③例外は、スキトポリス(ベテ・シャン)であった。

Ⅱ.悪霊につかれた人の悲惨な状態(2~5節)

  1.2節

  「イエスが舟から上がられると、すぐに、汚れた霊につかれた人が墓場から出て来て、イ

エスを迎えた」

(1)「すぐに」という言葉は、マルコの福音書の特徴でもある。

(2)悪霊につかれた人の人数

  ①マタイでは、「ふたり」である。

②マルコとルカでは、「ひとり」である。

③マルコとルカは、より深刻な状態の人に焦点を合わせている。

(例話)フロイスの『日本史』 悪霊の例多出。

  2.3~5節

「この人は墓場に住みついており、もはやだれも、鎖をもってしても、彼をつないでおく

ことができなかった。彼はたびたび足かせや鎖でつながれたが、鎖を引きちぎり、足かせ

も砕いてしまったからで、だれにも彼を押さえるだけの力がなかったのである。それで彼

は、夜昼となく、墓場や山で叫び続け、石で自分のからだを傷つけていた」

   (1)墓場が住居

    ①人びとは、岩に出来た横穴を墓場としていた(人工的に掘ることもあった)。

    ②穴の奥には遺体を葬る個別の部屋があり、そこは閉じられていた。

    ③しかし、穴そのものには扉がないので、自由に出入りすることができた。

    ④墓場は、町から離れた場所に位置していた。

    ⑤つまりこの人は、共同体から隔離された場所で生きていたということである。

  (2)悲惨な状態

     ①超自然の力が彼を暴れさせていた。

      *鎖や足かせを使っても、彼を静めることはできなかった。

    ②内面の平安が奪われていた。

      *夜昼となく、墓場や山で叫び続けていた。

    ③石で自分の体を傷つけていた。

      *悪魔礼拝の一形態であろう。

Ⅲ.悪霊の追い出し(6~13節)

  1.6~7節

「彼はイエスを遠くから見つけ、駆け寄って来てイエスを拝し、大声で叫んで言った。『い

と高き神の子、イエスさま。いったい私に何をしようというのですか。神の御名によって

お願いします。どうか私を苦しめないでください』」

  (1)これ以降、この人と悪霊の「ゆらぎ現象」が見られる。

    ①「駆け寄って来てイエスを拝し、」

       *礼拝ではなく、単に敬意を表する態度を取っているだけ。

    ②「大声で叫んで言った。」

      *態度の急変が見られる。

  (2)「いと高き神の子、イエスさま。いったい私に何をしようというのですか」

     ①弟子たちよりも、悪霊の方がイエスを認識している。

    ②イエスの名を呼ぶのは、自らの支配を確立するためである。

    ③マコ1:24

    「ナザレの人イエス。いったい私たちに何をしようというのです。あなたは私た

ちを滅ぼしに来たのでしょう。私はあなたがどなたか知っています。神の聖者で

す」

    (3)「いと高き神」

       ①旧約聖書では、異邦人がよく使う御名。偶像に勝るイスラエルの神。

      ②ダニ3:26

      「それから、ネブカデネザルは火の燃える炉の口に近づいて言った。『シャデラク、

メシャク、アベデ・ネゴ。いと高き神のしもべたち。すぐ出て来なさい。』そこで、

シャデラク、メシャク、アベデ・ネゴは火の中から出て来た」

  (4)「神の御名によってお願いします。どうか私を苦しめないでください」

     ①悪霊は、自分の運命が終わりに近づいていることを感じた。

    ②「神の御名によって」というのは、悪霊を追い出す際の祈りの言葉である。

    ③悪霊は、その言葉を悪用している。

2.8節

「それは、イエスが、『汚れた霊よ。この人から出て行け』と言われたからである」

   (1)この聖句は、イエスと悪霊の対話の中に挟まれた挿入句である。

    ①悪霊がうろたえている理由を説明している。

3.9節

「それで、『おまえの名は何か』とお尋ねになると、『私の名はレギオンです。私たちは大

ぜいですから』と言った」

   (1)イエスは、伝統的なユダヤ的悪霊追い出し法を採用している。

  (2)「私の名はレギオンです。私たちは大ぜいですから」

     ①レギオンとは、ローマ軍において、3,000~6,000人の兵士を持つ軍団の名称。

    ②この言葉は、力と圧制の象徴でもある。

    ③つまり、この人の内に最低3,000の悪霊が住みついていたということ。

    ④主語が、「私」から「私たちに」に変化している。

    ⑤「私」とは、悪霊の群れの中心的存在であろう。

4.10節

「そして、自分たちをこの地方から追い出さないでくださいと懇願した」

   (1)ルカ8:31

  「悪霊どもはイエスに、底知れぬ所に行け、とはお命じになりませんようにと願った」

    ①ギリシア語では、「アブソス」である。

    ②悪霊どもが行く場所

    ③最後の運命を迎える前に、しばらくの猶予をくださいという意味。

  (2)マコ5:10

「自分たちをこの地方から追い出さないでくださいと懇願した」

    ①辺鄙な場所に追いやられると、取りつく人がいなくなる。

5.11~12節

「ところで、そこの山腹に、豚の大群が飼ってあった。彼らはイエスに願って言った。『私

たちを豚の中に送って、彼らに乗り移らせてください』」

   (1)ずっと離れた所(山腹)に豚の大群が飼ってあった(マタ8:30)。

    ①この地は、異邦人の地である。

    ②デカポリスで食用の肉として販売するために、飼育していたのであろう。

  (2)悪霊どもは、豚の中に乗り移ることを願った。

    ①豚を殺し、豚の所有者がイエスに反感を抱くように仕向けたという人もいる。

    ②人間がだめなら、豚でもよい、ということだろう。

    ③その場合でも、キリストの許可がいる。

6.13節

「イエスがそれを許されたので、汚れた霊どもは出て行って、豚に乗り移った。すると、

二千匹ほどの豚の群れが、険しいがけを駆け降り、湖へなだれ落ちて、湖におぼれてしま

った」

  (1)豚は、悪霊どもを内に宿すことに耐えられなかった。

    ①2千匹ほどの豚の群れが死んだ。

    ②この地の地形をよく表現している。

  (2)イエスが所有者の権利を妨害したと批判する人がいる。

    ①神が悪魔を取り扱う方法は、人間には理解不可能である。

    ②エデンの園、ヨブの体験

    ③イエスには何らかの目的があったはずである。

      *偶像に捧げるための豚だったか。

      *物質のむなしさを教えるためだったか。

Ⅳ.住民たちの反応(14~17節)

  1.14~15節

  「豚を飼っていた者たちは逃げ出して、町や村々でこの事を告げ知らせた。人々は何事が

起こったのかと見にやって来た。そして、イエスのところに来て、悪霊につかれていた人、

すなわちレギオンを宿していた人が、着物を着て、正気に返ってすわっているのを見て、

恐ろしくなった」

   (1)町とはゲラサの町、村々とはガダラ地方の村々。

    ①豚飼いの牧童たちは、このことを所有者に知らせた。

    ②自分たちの過ちではなく、不可抗力であったと説明するため。

    ③所有者(野次馬もいた)たちは、自分の目で確かめるためにやって来た。

  (2)彼らが見たもの

    ①湖に浮かぶ無数の豚の死骸

    ②正気に返った人

      *着物を着ていた。

      *正気に返って座っていた。

  (3)「恐ろしくなった」

     ①ギリシア語で「フォベオウ」。畏怖の念。

    ②マコ4:41

    「彼らは大きな恐怖に包まれて、互いに言った。『風や湖までが言うことをきくとは、いっ

たいこの方はどういう方なのだろう』」

③湖が凪いだとき、弟子たちを恐れた。心が平安で満たされた時、異邦人たちは驚いた。

  2.16~17節

  「見ていた人たちが、悪霊につかれていた人に起こったことや、豚のことを、つぶさに彼

らに話して聞かせた。すると、彼らはイエスに、この地方から離れてくださるよう願った」

     (1)「見ていた人たち」とは、牧童たちと弟子たち。

      ①彼らは、目撃した内容を詳細に所有者たちに話して聞かせた。

      ②豚にまで言及しているのは、マルコだけである。

      ③経済的損失に光を当てるためである。

    (2)「すると、彼らはイエスに、この地方から離れてくださるよう願った」

       ①イエスがそばにいると、もっと大きな損失を被る可能性がある。

      ②ユダヤ人であるイエスが、異邦人である自分たちを裁くかもしれない。

      ③イエスが同じ場所に戻ったという記録はない。

Ⅴ.解放された人の反応(18~20節)

  1.18~19節

  「それでイエスが舟に乗ろうとされると、悪霊につかれていた人が、お供をしたいとイエ

スに願った。しかし、お許しにならないで、彼にこう言われた。『あなたの家、あなたの

家族のところに帰り、主があなたに、どんなに大きなことをしてくださったか、どんなに

あわれんでくださったかを、知らせなさい』」

     (1)「お供をしたい」とは、弟子になりたいという意味である。

      ①彼は初めて、自分の人生をかけてもいいと思えるものを発見した。

    (2)イエスはそれを断った。

      ①この段階では、イエスは異邦人の弟子を受け入れてはいなかった。

    (3)この人は、自分の家に帰って証しをするように命じられた。

      ①ユダヤ人たちには、沈黙が命じられた。

      ②異邦人である彼には、宣べ伝えるようにと命じられた。

  2.20節

  「そこで、彼は立ち去り、イエスが自分にどんなに大きなことをしてくださったかを、デ

カポリスの地方で言い広め始めた。人々はみな驚いた」

   (1)彼の奉仕が有効であったことは、4000人のパンの奇跡の箇所で明らかになる。

    ①マコ8:1~10は、デカポリス地方の異邦人に対する奇跡である。

結論:弟子訓練の内容

  1.悪霊を支配するイエスの力

    (1)ベルゼブル論争で、パリサイ人たちは、イエスが悪霊の頭の力を利用している

と言った。

(2)悪霊につかれたゲラサ人の癒しは、イエスが悪霊に対して権威を持っているこ

とを示した。

  2.人間の命の価値

    (1)豚の所有者たちの視点は、癒された人ではなく、失った豚にある。

    (2)イエスの視点は、人の命は2000匹の豚よりも尊いという点にある。

  3.異邦人伝道の重要性

    (1)ユダヤ人たちは、イエスを拒否した。

    (2)異邦人の時代が来ようとしている。

    (3)異邦人による異邦人伝道

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