メシアの生涯(1)—ルカによる献呈の辞—

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このメッセージでは...

ルカによる献呈の辞について学ぶ。

「ルカによる献呈の辞」

ルカ1:1~4

1.はじめに

   (例話)トーマス・ジェファーソン(アメリカ合衆国第3代大統領)の本の宣伝文

「国立スミソニアン博物館 (Smithsonian Museum)」で売られている復刻版

「トーマス・ジェファーソンは、77歳の時に、新しい本を編み出した。『ナザレのイエスの生涯と倫理』という本である。彼は、新約聖書の4福音書からの抜粋を時間順に並べ、イエスの生涯、たとえ話、道徳的教えなどの再構築を試みた。彼は、英語、フランス語、ラテン語、ギリシア語の4種類の聖書から切り取り、それを並べて比較した。イエスの教えを抽出し、より明確に理解するためである。ジェファーソンは、『イエスの教えは、人類に提示された最も崇高で情け深い道徳律である』と信じていた。もちろん、イエスの神性や奇跡的力を感じさせるような箇所は、すべて省かれている」

    (1)4つの福音書を並べ、時間順にメシアの生涯を追って行く。

(例話)裾野市の広報に掲載された富士山の写真(5箇所から)

  ①A.T.Robertsonの「A Harmony of the Gospels」をガイドラインとして使用。

  ②マルコ、マタイ、ルカ、ヨハネの順に4つのコラムに並べられている。

    (3)4つの福音書の関係

  ①マタイ、マルコ、ルカを共観福音書と言う。

  ②ヨハネを第4福音書と言う。

  ③マルコの福音書の優位性

  ④マタイとルカは、マルコの福音書の資料を使っている。

  ⑤マタイとルカだけに共通した資料もある(Q資料)。

  ⑥さらに、マタイだけの資料(M資料)、ルカだけの資料(L資料)もある。

    ⑦ルカは、時間の流れに最もこだわっている。

  (4)4つの福音書の特徴(前書きにヒントがある)

    ①マルコ:前書きなし

*ローマ人向けの福音書

*教えよりも行動に重点がある。

*「すぐに」という言葉が40回以上出てくる。

*メシアを「【主】のしもべ」(イザヤ書)として描いている。

*マコ10:45

「人の子が来たのも、仕えられるためではなく、かえって仕えるためであり、

また、多くの人のための、贖いの代価として、自分のいのちを与えるためな

のです」

  ②マタイ:メシアの系図

    *ユダヤ人向けの福音書

*旧約聖書の預言の成就に強調点がある。

*メシアを「ユダヤ人の王」として描いている。

    ③ルカ:献呈の辞

*ギリシア人(知識人)向けの福音書

*メシアを「理想的な人(知的、肉体的に)」として描いている。

  ④ヨハネ: 長い前書き

*教会全体のための福音書

*共観福音書が書き漏らしたことを書いている。

*行動よりも教えに重点がある。

*メシアを「神の子」として描いている。

(5)解釈の原則

    ①ヘブル的解釈

  ②フルクテンバウム師の教えからヒントを得る。

  ③日本人への適用

2.アウトライン

(1)ルカとは誰か。

  (2)テオピロとは誰か。

  (3)ルカの資格は何か。

  (4)ルカの目的は何か。

  3.メッセージのゴール

    (1)ルカの謙遜

    (2)メシアの生涯の歴史性

    (3)世界史の中のキリスト教

このメッセージは、ルカによる献呈の辞について学ぼうとするものである。

Ⅰ.ルカとは誰か

  1.この福音書には、著者ルカの名が出てこない。

    (1)2世紀初頭から、ルカであるという伝承がある。

    (2)伝承では、ルカはシリアのアンテオケ出身の異邦人であるとされている。

    (3)ルカは、パウロと同様に、一度も公生涯の間のイエスに会ったことがない。

  2.コロ4:14

  「愛する医者ルカ、それにデマスが、あなたがたによろしくと言っています」

    (1)ルカは医者である。

  ①「医者」という言葉は、ここでは敬意を込めて使われている。

      ②当時、医学はようやく科学的営みを開始した段階であった。

  ③ルカは、信者になる前から知的な人物であった。

    (2)ルカが異邦人かどうかに関して、異論がある。

  3.パウロの同労者

(1)使徒の働きの中で、主語が「彼ら」から「私たち」に代わる箇所が3つある。

  ①使16:10

  ②使20:5

  ③使27:1

    (2)ルカは、パウロからさまざまな情報を得ることができた。

Ⅱ.テオピロとは誰か。

  1.「テオピロ」(セオフィロス)とは、「神に愛されている者」「神の友」という意味。

    (1)この言葉は、クリスチャン一般を意味するものである。

  2.「尊敬する」(クラティストス)という敬称が付いているので、実際の人物である。

    (1)聖句の例

  ①使23:26

  「クラウデオ・ルシヤ、つつしんで総督ペリクス閣下にごあいさつ申し上げます」

  ②使24:2

  「パウロが呼び出されると、テルトロが訴えを始めてこう言った。『ペリクス閣

下。閣下のおかげで、私たちはすばらしい平和を与えられ、また、閣下のご配慮

で、この国の改革が進行しておりますが、』」

③26:25

「するとパウロは次のように言った。『フェスト閣下。気は狂っておりません。私

は、まじめな真理のことばを話しています』」

    (2)以上のことから、テオピロとは、ローマ帝国の高官であったと思われる。

  3.アンテオケに住んでいた裕福で影響力のある人物

  4.大祭司(A.D37~41年)で、セオフィロス・ベン・アンナスという人物がいた。

    (1)彼は、アンナスの息子で、カヤパの義理の兄弟。

  5.大祭司(A.D65~66年)で、マタテアス・ベン・アンナスという人物がいた。

  6.ローマ人の弁護士で、パウロの裁判の弁護をした。

    (1)ルカの福音書と使徒の働きは、裁判資料として用意された。

      ①パウロの無罪を証明するための資料

②キリスト教の無害性を証明するための資料

  7.実際は、誰であるかはわからない。

(1)ローマ帝国の高官であろう。

    (2)ルカの著作活動を援助した、パトロンであろう。

Ⅲ.ルカの資格は何か

  1.ルカの前書きは、当時の文学形式に沿ったものである。

    (1)ヨセフスの『アピオーンへの反論』がその好例である。

  ①この書は、1部と2部に分かれて書かれている。

  ②ルカもまた、1部(福音書)と2部(使徒の働き)を意識して書いている。

  ③ルカは、最初から2部作を予定していたと思われる。

    (2)献呈の辞は、美しい文体で書かれたひとつの文である。

    ①1~2節と、3~4節は、対照関係にある。

  2.1~2節

「私たちの間ですでに確信されている出来事については、初めからの目撃者で、みことば

に仕える者となった人々が、私たちに伝えたそのとおりを、多くの人が記事にまとめて書

き上げようと、すでに試みておりますので、」

  (1)「多くの人」とは、何人かの人たちといった程度の意味である。

    ①当時の正式な文章では、こういう言い方をした。

  (2)最初の「私たち」は、信者全体である。

    ①訳文の比較

    *「私たちの間ですでに確信されている出来事」(新改訳)

*「わたしたちの間に成就された出来事」(口語訳)

*「わたしたちの間で実現した事柄」(新共同訳)

    (3)次の「私たち」は、より狭い範囲の信者である。

    (4)「初めからの目撃者」

      ①イエスの公生涯の始まりから、という意味。

*バプテスマのヨハネとイエスの誕生物語は、公生涯への序曲である。

      ②彼らは、「みことばに仕える人々」でもある。

    (5)目撃者が伝えた情報を、正確に記事にまとめた人たちが何人かいた。

  3.3~4節

  「私も、すべてのことを初めから綿密に調べておりますから、あなたのために、順序を立

てて書いて差し上げるのがよいと思います。尊敬するテオピロ殿。それによって、すでに

教えを受けられた事がらが正確な事実であることを、よくわかっていただきたいと存じま

す」

  (1)3つの対照がある。

①「私も」

  *「多くの人たち」に対応する。

②「順序を立てて書いて差し上げる」

  *「多くの人が記事にまとめて書き上げようと」

③「正確な事実であることを」

  *「初めからの目撃者で、みことばに仕える者となった人々が、私たちに伝

えたそのとおりを、」

    (3)ルカは、先人たちの作品を否定していない。

      ①むしろ、その権威を認めている。

      ②マルコの福音書、Q資料、L資料などが活用されている。

    (4)ルカの資格は2つある。

      ①すべてのことを初めから綿密に調べている。

      ②歴史家の目で、順序立てて書く。

Ⅳ.ルカの目的は何か。

  1.テオピロが信者であったかどうかは分からない。

    (1)彼は、メシアの生涯、福音、キリスト教の教理などについて教えを受けていた。

  2.テオピロがすでに教えられていた内容が、信頼できるものであることを証明する。

  3.この文書がローマ帝国内で流布し、信者が多く起こされるように。

結論:

  1.ルカの謙遜

    (1)ルカは自らの名前を出していない。

    (2)彼は、教会の一員であることに満足していたのであろう。

      ①みからだの中の一部分として、賜物を発揮した。

  2.メシアの生涯の歴史性

    (1)メシアの歴史性を疑う人への最高の説明が、ここにある。

    

    (2)福音伝達の5つのステップ

      ①信者の間ですでに実現した出来事(神が歴史に介入された出来事)

      ②目撃者(みことばに仕える人々)が、それを伝えた。

    *「パラディドウミ」という動詞。

    *権威ある伝承の伝達である。

  ③多くの人たちが記事にまとめた。

      ④ルカはそれらの記事を綿密に調査し、順序立てて書いた。

      ⑤今私たちが、ルカの福音書を通して、メシアの生涯について情報を得ている。

  3.世界史の中のキリスト教

    (1)ルカ以前の文書は、いわば、教会内で用いられる文書であった。

    (2)ルカは、テオピロに自らの福音書を献呈した。

      ①出版を計画したかどうかは分からないが、ローマ世界に広く流布することを意

図したことは確かである。

②ルカは、世界史の中にキリスト教を位置づけようとしたのである。

    (3)私たちへの適用

      ①包装紙が貧弱だという理由で、宝を届けることを躊躇してはならない。

      ②2コリ4:7

「私たちは、この宝を、土の器の中に入れているのです。それは、この測り知れ

ない力が神のものであって、私たちから出たものでないことが明らかにされるた

めです」

③福音は、私的なものから、公のものになる必要がある。

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