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メシアの生涯(194)—ヘロデによる裁判—
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ヘロデによる裁判の意味について考える。
「ヘロデによる裁判」
ルカ23:6~12
1.はじめに
(1)文脈の確認
①宗教裁判の3段階
②政治裁判の3段階
*ピラトの前で
*ヘロデの前で
*ピラトの前で
③今回は、政治裁判の第2段階を取り上げる(ルカのみが記している)。
④これまでの状況
*ピラトはイエスを裁きたくない。
*イエスは無罪である。
*しかし、ユダヤ人の指導者たちを怒らせると、ローマ本国に直訴される。
*ローマでのピラトのパトロンは失脚しつつあった。
⑤ピラトが見出した逃れの道
*ローマ法では、罪人の出身地の支配者が裁いてもよいことになっていた。
*ヘロデは、ガリラヤの国主であった。
*この時ヘロデは、エルサレムに滞在していた。
*そこでイエスをヘロデのもとに送ることにした。
(2)A.T.ロバートソンの調和表
§160 ヘロデの前での裁判
ルカ23:6~12
2.アウトライン
(1)舞台設定(6~7節)
(2)政治裁判の第2段階(8~10節)
(3)結果(11~12節)
3.結論
(1)ヘロデの悲劇
(2)悪の連帯の最後
ヘロデによる裁判の意味について考える。
Ⅰ.舞台設定(6~7節)
1.6節
Luk 23:6 それを聞いたピラトは、この人はガリラヤ人かと尋ねて、
(1)「それを聞いたピラト」
①彼は、「ガリラヤ」という言葉を聞いたのである。
(2)ルカ23:4~5
Luk 23:4 ピラトは祭司長たちや群衆に、「この人には何の罪も見つからない」と言った。
Luk 23:5 しかし彼らはあくまで言い張って、「この人は、ガリラヤからここまで、ユダヤ全土で教えながら、この民を扇動しているのです」と言った。
①政治裁判が第1段階から第2段階に移行する「きっかけ」が書かれている。
②ユダヤ人の指導者たちは、イエスの犯罪行為はガリラヤから始まったと訴えた。
(3)もしそうなら、ローマ法ではガリラヤの支配者がイエスを裁くことは許される。
①出身地の支配者
②罪を犯した地の支配者
③ピラトがイエスはガリラヤ人かと尋ねたのは、そういう理由からである。
④もしそうなら、イエスはガリラヤの国主ヘロデの支配下にあることになる。
⑤そこでピラトは、イエスを裁く権利をヘロデに譲ることにした。
*イエスの裁判から手を引きたかったのである。
2.7節
Luk 23:7 ヘロデの支配下にあるとわかると、イエスをヘロデのところに送った。ヘロデもそのころエルサレムにいたからである。
(1)ヘロデ
①ヘロデ大王の息子のヘロデ・アンティパスである。
*ヘロデ大王は、ベツレヘムの2歳以下の男の子を殺した。
②ヘロデ・アンティパスは、ガリラヤの国主(王よりも低いタイトル)であった。
③彼は、兄弟の妻ヘロデヤと結婚したことをバプテスマのヨハネから批判された。
*そこで彼は、バプテスマのヨハネを逮捕し、幽閉した。
*ヘロデヤの娘サロメとの約束を守るために、ヨハネの首をはねた。
*イエスのことを復活したヨハネかもしれないと思っていたことがある。
(2)このヘロデが、過越の祭りのためにエルサレムに滞在していた。
①神殿の西側にある王宮に滞在していた。
②ハスモン王朝時代の豪華な王宮である。
(3)ピラトとヘロデの関係
①ヘロデは、ガリラヤとペレアの支配者であった。
②ピラトは、ユダヤとサマリヤの支配者であった。
④前者の強みは、ヘロデ家の出であり、長期間支配者の地位に着いていたこと。
⑤後者の強みは、ローマ市民であり、皇帝の代理人であったこと。
⑥両者は、互いを牽制し合う仲であった。
(4)ピラトは、イエスをヘロデのところに送った。
①法廷が変更になったのである。
②当然、イエスを訴えているユダヤ人の指導者たちもそこに移動した。
Ⅱ.政治裁判の第2段階(8~10節)
1.8節
Luk 23:8 ヘロデはイエスを見ると非常に喜んだ。ずっと前からイエスのことを聞いていたので、イエスに会いたいと思っていたし、イエスの行う何かの奇蹟を見たいと考えていたからである。
(1)ヘロデはイエスを見ると非常に喜んだ。
①ずっと前からイエスの噂を聞いていた。
②イエスに会いたいと思っていた(イエスに対する恐れは消えていた)。
③その理由は、イエスが行う奇跡を見たいからである。
(2)ヘロデは、「もてなし」を受けることを好む人物である。
①サロメの踊りを見て喜んだ時と同じである。
②今回は、イエスが行う奇跡が「見世物」となることを期待している。
③私たちへの適用:今日の奇跡をどう考えるか。
2.9~10節
Luk 23:9 それで、いろいろと質問したが、イエスは彼に何もお答えにならなかった。
Luk 23:10 祭司長たちと律法学者たちは立って、イエスを激しく訴えていた。
(1)ヘロデはいろいろ質問した。質問し続けた。
①文語訳
Luk 23:9 かくて多くの言をもて問ひたれど、イエス何をも答へ給はず。
(2)イエスの応答は、沈黙であった。
①イエスはすでにピラトの前で証言していた。
②イエスは、ヘロデ・アンティパスを救う努力はしなかった。
*イエスは彼を「あの狐」と呼んでいた(ルカ13:32)。
*ヘロデは狡猾な老狐であり、悪名高いヘロデ一家の一員である。
*ヘロデの動機が間違っている。イエスを「見世物」としか考えていない。
(3)イエスとは対照的に、ユダヤ人の指導者たちはイエスを激しく訴え続けた。
①彼らは、暴言を吐き、大騒ぎしていた。
②ヘロデは、このままでは何も起こらないと判断した。
Ⅲ.結果(11~12節)
1.11節
Luk 23:11 ヘロデは、自分の兵士たちといっしょにイエスを侮辱したり嘲弄したりしたあげく、はでな衣を着せて、ピラトに送り返した。
(1)ヘロデはイエスを文字通り「見世物」扱いした。
①兵士たちだけでなく、ヘロデも参加した。
②イエスを侮辱し、あざけった。
③「はでな衣」とは、ユダヤ人の王が着る白い王服であろう。
*自分は王だというイエスの主張をあざけったのである。
(2)ヘロデは、イエスを無罪だと認めて、ピラトのもとに送り返した。
2.12節
Luk 23:12 この日、ヘロデとピラトは仲よくなった。それまでは互いに敵対していたのである。
(1)敵対していた者同士が、仲よくなったのである。
結論
1.ヘロデの悲劇
(1)ルカ23:8
Luk 23:8 ヘロデはイエスを見ると非常に喜んだ。ずっと前からイエスのことを聞いていたので、イエスに会いたいと思っていたし、イエスの行う何かの奇蹟を見たいと考えていたからである。
①「喜んだ」は、「カイロウ」という動詞である。
②ヘロデは非常に喜んだが、それは的外れの喜びであった。
③彼は、本当の喜びを体験したことがなかった。
④ルカの福音書の中に出てくる「カイロウ」という動詞を調べてみよう。
(2)羊飼いの喜び(ルカ15:5~6)
Luk 15:5 見つけたら、大喜びでその羊をかついで、
Luk 15:6 帰って来て、友だちや近所の人たちを呼び集め、『いなくなった羊を見つけましたから、いっしょに喜んでください』と言うでしょう。
①カイロウ
②スンカイロウ
(3)婦人の喜び(ルカ15:8~9)
Luk 15:8 また、女の人が銀貨を十枚持っていて、もしその一枚をなくしたら、あかりをつけ、家を掃いて、見つけるまで念入りに捜さないでしょうか。
Luk 15:9 見つけたら、友だちや近所の女たちを呼び集めて、『なくした銀貨を見つけましたから、いっしょに喜んでください』と言うでしょう。
①スンカイロウ
(4)父の喜び(ルカ15:32)
Luk 15:32 だがおまえの弟は、死んでいたのが生き返って来たのだ。いなくなっていたのが見つかったのだから、楽しんで喜ぶのは当然ではないか。』」
①カイロウ
(5)ザアカイの喜び(ルカ19:6)
Luk 19:6 ザアカイは、急いで降りて来て、そして大喜びでイエスを迎えた。
①カイロウ
(6)ユダヤ人の指導者たちの喜び(ルカ22:4~5)
Luk 22:4 ユダは出かけて行って、祭司長たちや宮の守衛長たちと、どのようにしてイエスを彼らに引き渡そうかと相談した。
Luk 22:5 彼らは喜んで、ユダに金をやる約束をした。
①カイロウ
2.悪の連帯の最後
(1)敵対関係にあったピラトとヘロデ
①ピラトは神殿域の壁にローマの盾を飾ろうとした。
②ヘロデはローマ本国に訴えたために、ピラトは強制的に盾を撤去させられた。
③イエスの裁判までは、両者は互いの権威を認め合うのが難しかった。
④しかし、ピラトはガリラヤとペレアに関するヘロデの統治権を認めた。
②また、ともに容易ではないイエスの裁判経験したことで、連帯意識が芽生えた。
(2)ヘロデのその後
①妻のヘロデヤが野心を抱いた。
②夫婦でローマ皇帝カリギュラに近づき、王と女王のタイトルを願い出た。
*父であるヘロデ大王はそのタイトルを与えられていた。
③結果的に、彼らは今のフランスのリオンに追放され、極貧の中で死を迎えた。
(3)ピラトのその後
①彼は、イエスが無罪であることを知りながら、十字架刑を宣言した。
②紀元36年、シリア総督がローマ本国に対してピラトを激しく訴えた。
③ピラトは皇帝の前で釈明するために帰国したが、成功しなかった。
④ある伝承では、彼はフランスに追放されたとされる。
⑤別の伝承では、ルツェルン湖(スイス中央部)の近くにある山(ピラトゥス山)
に追放されたという。
⑥歴史家エウセビオスは、ピラトは自殺したと伝えている。
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