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メシアの生涯(193)—ピラトによる裁判—
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ピラトによる裁判の意味について考える
「ピラトによる裁判」
ヨハ18:28~38
1.はじめに
(1)文脈の確認
①宗教裁判の3段階
②政治裁判の3段階
*ピラトの前で
*ヘロデの前で
*ピラトの前で
③ローマ法による裁判
*すべての裁判は公開で行われる。
*証人の訴えがあって初めて裁判が始まる。
・イスカリオテのユダがその役割を果たす予定であった。
・彼は姿を消したので、裁判が大混乱に陥る。
(2)A.T.ロバートソンの調和表
§159 ピラトの前での裁判
ヨハ18:28~38
マコ15:1~5、マタ27:2、11~14、ルカ23:1~5
2.アウトライン
(1)舞台設定(28節)
(2)ピラトとユダヤ人の指導者たち(29~32節)
(3)ピラトとイエス(33~37節)
(4)ピラトが出した結論(38節)
3.結論
(1)イエスのことばの成就
(2)ピラトの悲劇
ピラトによる裁判の意味について考える。
Ⅰ.舞台設定(28節)
1.28節
Joh 18:28 さて、彼らはイエスを、カヤパのところから総督官邸に連れて行った。時は明け方であった。彼らは、過越の食事が食べられなくなることのないように、汚れを受けまいとして、官邸に入らなかった。
(1)政治裁判が必要だった理由
①ユダヤ人が死刑を執行する権利は、数か月前に取り去られていた。
②彼らは、イエスに対して冒とく罪で死刑判決を下していた。
③しかし、ローマによる死刑判決がなければイエスを殺すことはできない。
④そこで、訴因を冒涜罪から反逆罪に変えて、イエスをローマ法廷に訴えている。
(2)ポンテオ・ピラトについて
①ローマ市民(スペインかイタリア生まれ)
②紀元26~36年にユダヤ総督であった(procurator:ローマ帝国の代官)。
③この裁判は紀元30年に行われた。総督としての経歴のちょうど中間時点。
④残忍な人物として知られていたが、ローマ法の忠実な執行者でもあった。
⑤前夜、イエスを逮捕するために一隊の兵士(400~600人)を派遣していた。
⑥早朝ではあるが、早く起きて衣服を整え、裁判の準備をしていた。
*祭司たち(貴族階級)がローマのために実質的にユダヤを管理していた。
*ピラトは、彼らの要請を無視することができない。
(3)総督官邸
①アントニア要塞の中にある。
②ユダヤ総督は、通常カイザリヤに駐在している。
③祭りの期間は、エルサレムに駐在し、万が一の暴動に備えていた。
④過越の祭りの期間、ユダヤ人たちは特に興奮状態に陥りやすかった。
*この祭りは、エジプトでの奴隷状態からの解放を祝うものである。
(4)ピラトのもとに来たのは、祭司長たちが中心である。
①前夜、過越の食事は終わっていた。
②祭司長たちが食する過越の食事は、朝になってから用意される。
③午前9時に、過越の子羊がほふられる。
④実際は、種なしパンの祭り(7日間。レビ23:5)の初日が始まっている。
⑤イエス時代には、過越の祭りと種なしパンの祭りの合計8日間を、過越の祭り
と呼んだ。
⑥異邦人の家に入ることは、儀式的汚れを意味する。
⑦祭司長たちは、この裁判が終わってから過越の食事をしようとしていた。
*イエスを殺そうとしている点については、良心の呵責を覚えていない。
*しかし、儀式的な汚れに関しては細心の注意を払っている。
Ⅱ.ピラトとユダヤ人の指導者たち(29~32節)
1.29~30節
Joh 18:29 そこで、ピラトは彼らのところに出て来て言った。「あなたがたは、この人に対して何を告発するのですか。」
Joh 18:30 彼らはピラトに答えた。「もしこの人が悪いことをしていなかったら、私たちはこの人をあなたに引き渡しはしなかったでしょう。」
(1)ピラトが彼らのところに出て来た。
①ユダヤ人の指導者たちは、建物の中(法廷)には入らなかった。
②中庭には入ったので、ピラトがそこに出て来て、彼らと対面した。
③ピラトは、ユダヤ人たちの宗教感情に妥協した。
(2)ピラトの質問
①ピラトは、ローマ法に従って、先ず告発の理由を尋ねる。
②この段階で、ユダが前に出て証言する予定であった。
③しかし、彼はすでに死んでいた。
(3)祭司長たちの回答
①ごまかしの訴えがなされる。
②自分たちの裁判は終わっている。
③後は、あなたがそれを承認してくれればいいのだ、という態度。
④ユダヤ人たちは、残忍な性質のゆえにピラトを憎んでいた。
2.31~32節
Joh 18:31 そこでピラトは彼らに言った。「あなたがたがこの人を引き取り、自分たちの律法に従ってさばきなさい。」ユダヤ人たちは彼に言った。「私たちには、だれを死刑にすることも許されてはいません。」
Joh 18:32 これは、ご自分がどのような死に方をされるのかを示して話されたイエスのことばが成就するためであった。
(1)ピラトの応答
①ピラトはただちに、イエスが宗教的な理由で裁かれていることを見抜いた。
②彼は、イエスの勝利の入城を知っていた(見ていた)はずである。
③彼は、ユダヤ人たちが妬みのゆえにイエスを訴えていることを見抜いた。
④ユダヤ人の宗教に関することは、ユダヤ人の法廷で裁くべきである。
*これがローマ帝国内で広く行われていた習慣である。
(2)ユダヤ人たちの反論
①「私たちには、だれを死刑にすることも許されてはいません」
②ユダヤ人から死刑執行の権利が奪われていた。
③ユダヤ人たちは、イエスの死刑をピラトに要求している。
(3)イエスのことばの成就
①結論で詳細に取り上げる。
(4)ルカ23:2(3つの訴え)
Luk 23:2 そしてイエスについて訴え始めた。彼らは言った。「この人はわが国民を惑わし、カイザルに税金を納めることを禁じ、自分は王キリストだと言っていることがわかりました。」
①独特な教えによって、ユダヤの民を惑わしている。
②カイザルに税金を納めることを禁じている。
*これは偽りに訴えである。イエスはそれとは逆のことを教えていた。
③自分は王でありキリストだと言っている。
*カイザルを排除し、イスラエルを統治しようとしている。
Ⅲ.ピラトとイエス(33~37節)
1.33~35節
Joh 18:33 そこで、ピラトはもう一度官邸に入って、イエスを呼んで言った。「あなたは、ユダヤ人の王ですか。」
Joh 18:34 イエスは答えられた。「あなたは、自分でそのことを言っているのですか。それともほかの人が、あなたにわたしのことを話したのですか。」
Joh 18:35 ピラトは答えた。「私はユダヤ人ではないでしょう。あなたの同国人と祭司長たちが、あなたを私に引き渡したのです。あなたは何をしたのですか。」
(1)ピラトは建物の中に入り、イエスを個人的に尋問する。
①彼は、第3番目の訴えを採用し、イエスの尋問を開始した。
②「あなたは、ユダヤ人の王ですか」
③これは、あなたはカイザルのライバルなのかという問いかけである。
(2)イエスは、ラビ的手法で答える。質問に対して質問で答える。
①この質問は、自分で考えたものなのか。
②あるいは、ほかの人(ユダヤ人)から聞いたのか。
(3)ピラトの答え(訳文の比較)
「私はユダヤ人ではないでしょう」(新改訳)
「わたしはユダヤ人なのか」(新共同訳、口語訳)
「我(われ)はユダヤ人(びと)ならんや」(文語訳)
「なにっ! 私がユダヤ人だとでも言うつもりか」(リビングバイブル)
「Am I a Jew?」(KJV)
①皮肉と軽蔑を込めた応答である。
②自分はローマ人なので、だれがメシアかという話題には興味がない。
③もちろん、ユダヤ人から聞いたということ。
④イエスは、ご自分の民から見捨てられ、訴えられたのである。
2.36~37節
Joh 18:36 イエスは答えられた。「わたしの国はこの世のものではありません。もしこの世のものであったなら、わたしのしもべたちが、わたしをユダヤ人に渡さないように、戦ったことでしょう。しかし、事実、わたしの国はこの世のものではありません。」
Joh 18:37 そこでピラトはイエスに言った。「それでは、あなたは王なのですか。」イエスは答えられた。「わたしが王であることは、あなたが言うとおりです。わたしは、真理のあかしをするために生まれ、このことのために世に来たのです。真理に属する者はみな、わたしの声に聞き従います。」
(1)イエスは、ローマは自分のことを恐れる必要はないと言われた。
①イエスの国は、この世のものではない。
②もしそうなら、弟子たちが自分をユダヤ人に渡さないように戦ったであろう。
(2)ピラトは、「それでは、あなたは王なのですか」と尋ねた。
①「わたしの国」という言葉に触発された質問である。
(3)イエスは、自分が王であることを認めた。
①しかし、ローマ帝国のような国の王ではない。
②イエスは、真理の証しをするために人となられた。
*父なる神、子なる神、聖霊、人間、罪、救いなどに関する真理である。
③真理を愛する者はみな、イエスの声を聞き分ける。
(4)無千年王国説
①「わたしの国はこの世のものではありません」を根拠に、千年王国の存在を否
定する。
②「この世のもの」とは、「サタンの支配下にある国」のことである。
③地上での千年王国の成就を否定していることばではない。
Ⅳ.ピラトが出した結論(38節)
1.38節
Joh 18:38 ピラトはイエスに言った。「真理とは何ですか。」/彼はこう言ってから、またユダヤ人たちのところに出て行って、彼らに言った。「私は、あの人には罪を認めません。」
(1)「真理とは何ですか」
①さまざまな解釈が可能であるが、皮肉を込めた応答だというのは否定できない。
(2)ピラトはユダヤ人たちのところに出て行き、イエスには罪がないことを認めた。
①イエスは、過越の子羊として適格であることが、ローマによっても証明された。
結論
1.イエスのことばの成就
(1)ヨハ18:32
Joh 18:32 これは、ご自分がどのような死に方をされるのかを示して話されたイエスのことばが成就するためであった。
①異邦人に渡されて死ぬ(マタ20:19)。
②イエスは、十字架刑で死ぬ。
(2)十字架刑は、木に上げられる刑である。
①ヨハ3:14
Joh 3:14 モーセが荒野で蛇を上げたように、人の子もまた上げられなければなりません。
②ヨハ8:28
Joh 8:28 イエスは言われた。「あなたがたが人の子を上げてしまうと、その時、あなたがたは、わたしが何であるか、また、わたしがわたし自身からは何事もせず、ただ父がわたしに教えられたとおりに、これらのことを話していることを、知るようになります。
③ヨハ12:32
Joh 12:32 わたしが地上から上げられるなら、わたしはすべての人を自分のところに引き寄せます。」
(3)十字架刑が必要であった理由
①骨が砕かれないという預言が成就するため(出12:46、詩34:20参照)。
*石打ちであれば、骨が破壊される。
②ユダヤ人と異邦人がともに責めを負うため(使2:23、4:27参照)。
*ユダヤ人だけをキリスト殺しの犯人とするのは間違っている。
③イエスは、呪いの死を受けた者として木にかけられ、さらし者になった。
*呪いの死とは、罪に対する神の怒りと裁きを受けた死である。
*イエスは、荒野の青銅の蛇にように上げられた(ヨハ3:14参照)。
2.ピラトの悲劇
(1)「真理とは何か」と問いながら、イエスの答えを待たずにその前を去った。
①ピラトは、真理そのものを見ていながら、真理を認識できなかった。
②なんという悲劇であろうか。
(2)ピラトは、相対主義に支配されていた。
①ローマ人の心には相対主義が生きていた。
②相対主義がピラトを束縛し、盲目にしていた。
③今日の時代も、相対主義が人々を支配している。
④キリスト教の歴史は、相対主義との戦いの歴史である。
⑤ヨハ21:24~25
Joh 21:24 これらのことについてあかしした者、またこれらのことを書いた者は、その弟子である。そして、私たちは、彼のあかしが真実であることを、知っている。
Joh 21:25 イエスが行われたことは、ほかにもたくさんあるが、もしそれらをいちいち書きしるすなら、世界も、書かれた書物を入れることができまい、と私は思う。
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