ヨハネの福音書(25)解放者イエス(1)ヨハ8:31~50

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イエスは、解放者である。

ヨハネの福音書(25)

解放者イエス(1)

ヨハ8:31~50

1.文脈の確認

(1)前書き(1:1~18)

(2)イエスの公生涯(1:19~12:50)

  ①公生涯への序曲(1:19~51)

  ②初期ガリラヤ伝道(2:1~12)

  ③最初のエルサレム訪問(2:13~3:36)

  ④サマリア伝道(4:1~42)

  ⑤ガリラヤ伝道の再開(4:43~54)

  ⑥2度目のエルサレム訪問(5:1~47)

  ⑦後期ガリラヤ伝道(6:1~7:9)

  ⑧3度目のエルサレム訪問(7:10~10:42)

  ⑨世の光に関する説教(8:12~59)

    *世の光イエス(8:12~20)

    *唯一の救い主イエス(8:21~30)

    *解放者イエス(8:31~59)

2.注目すべき点

(1)場面は、十字架にかかる半年前の仮庵の祭りである。

(2)「いのちの水」への招きの後、指導者たちによる迫害が激化する。

(3)「世の光」の説教は、7つの説教の中の5番目である。

3.アウトライン

(1)罪からの解放者(31~39a節)

(2)悪魔からの解放者(39b~50節)

(3)死からの解放者(51~59節)

    *私たちは、この箇所を通して解放者イエスに出会おうとしている。

    *今回は(1)と(2)を取り上げ、次回は(3)を取り上げる。

4.結論:奴隷と息子の霊的対比

イエスは、解放者である。

Ⅰ.罪からの解放者(31~39a節)

1.31~32節

Joh 8:31

イエスは、ご自分を信じたユダヤ人たちに言われた。「あなたがたは、わたしのことばにとどまるなら、本当にわたしの弟子です。

Joh 8:32あなたがたは真理を知り、真理はあなたがたを自由にします。」

(1)前回の箇所で、多くの者がイエスを信じた。

  ①イエスは、父と自分は常に一つであることを主張された(神性宣言)。

  ②その後の展開を見ると、彼らの信仰は表面的なものであることが分かる。

    *彼らはイエスに反発し、最終的には、イエスを殺そうとするようになる。

  ③イエスは、信じた者を2分された。

    *見せかけの弟子(学ぶ者):一時的で感情的な信仰を持つ者

    *本当の弟子(イエスに信頼する者):継続的に従う信仰を持つ者

  ④イエスは、信じた者たちに、神にしか言えないことを語る。

(2)本当の弟子の特徴

  ① 「わたしのことばにとどまる」

    *「とどまる(μένω)」とは、「住む」「とまる」「継続する」。

  ②「とどまる」の実例

    *イエスの教えを信じ、従い続けること

    *イエスの教えの中に生きること

    *イエスのことばに信頼し、実践すること

    *イエスと全人的につながっていること

    *単なる行為の積み重ねではなく、神の恵みにとどまること

(3)本当の弟子が受ける祝福

  ①イエスのことばにとどまる人は、真理を知る。

  ②真理はその人を自由にする。

  ③この「真理」とは、イエス・キリストご自身である(14:6)。

  ④「真理」は、罪の束縛からの自由をもたらす(8:34~36)。

2.33節

Joh 8:33

彼らはイエスに答えた。「私たちはアブラハムの子孫であって、今までだれの奴隷になったこともありません。どうして、『あなたがたは自由になる』と言われるのですか。」

(1)ユダヤ人たちの反発

  ①「真理はあなたがたを自由にします」と聞いて、反発した。

  ②「今までだれの奴隷になったこともありません」

    *これは明らかに歴史的事実と矛盾している。

    *エジプト、バビロン、ペルシア、ギリシア、ローマの支配下に置かれた。

  ③彼らには、霊的な誇りがあった。

(2)ユダヤ人たちの霊的誇り

  ①アブラハムの子孫としての特権意識を強く持っていた(ロマ9:4~5)。

  ②政治的に支配されても、霊的には自由な神の民であると考えていた。

  ③「奴隷」とは、霊的・道徳的に堕落した異邦人の状態を意味した。

  ④彼らは、自分たちが罪と悪魔の奴隷であることに気付いていなかった。

  ⑤今も、霊的誇りを持っている人は福音に反発する。

3.34~36節

Joh 8:34

イエスは彼らに答えられた。「まことに、まことに、あなたがたに言います。罪を行っている者はみな、罪の奴隷です。

Joh 8:35

奴隷はいつまでも家にいるわけではありませんが、息子はいつまでもいます。

Joh 8:36

ですから、子があなたがたを自由にするなら、あなたがたは本当に自由になるのです。

(1)イエスは、奴隷と息子を対比された。

  ①奴隷とは、罪の奴隷のことである。

  ②罪が擬人法で語られている。

  ③ロマ6:23

Rom 6:23 罪の報酬は死です。しかし神の賜物は、私たちの主キリスト・イエスにある永遠のいのちです。

(2)奴隷と息子の身分の違い

  ①奴隷(デューロス)は、一時的な存在である。

    *主人の家に仕えるが、永続的な地位を持たない。

    *いつでも売られたり、追放されたりする可能性がある。

    *「罪の奴隷」は神の家から追放され、滅びに至る(8:24、ロマ6:23)。

  ②息子(ヒュイオス)は、永遠に家にとどまる。

    *家の正当な相続人であり、永遠にその家にいる権利を持っている。

    *イエスは、ご自身を「子」(ヒュイオス)として示している。

    *「子によって自由にされた者だけが神の家にとどまる」と教える。

    *「アブラハムの子孫である」との誇りだけでは、自由にはならない。

4.37~38節

Joh 8:37

わたしは、あなたがたがアブラハムの子孫であることを知っています。しかし、あなたがたはわたしを殺そうとしています。わたしのことばが、あなたがたのうちに入っていないからです。

Joh 8:38

わたしは父のもとで見たことを話しています。あなたがたは、あなたがたの父から聞いたことを行っています。」

(1)イエスは、彼らがアブラハムの肉体的子孫であることを認めている。

  ①しかし、彼らはアブラハムの信仰を持っていない。

  ②なぜなら、彼らはイエスを殺そうとしている。

  ③その理由は、イエスのことばが心に入っていないからである。

(2)イエスの父(神)とユダヤ人たちの父(サタン)の対比

  ①イエスは父のもとで見たことを話している。

    *イエスと父は、一つである(イエスの神性宣言)

  ②ユダヤ人たちは、彼らの父から示されたことを行っている。

    *彼らの父が誰かは、まだ示されていないが、予測はつく。

5.39節a

Joh 8:39 彼らはイエスに答えて言った。「私たちの父はアブラハムです。」

(1)彼らは再度、アブラハムと自分たちの肉体的つながりを主張した。

  ①これは、霊的アイデンティティの主張でもある。

  ②彼らは、「血統」によるアブラハムの子孫であることを誇りにした。

  ③そのことを救いの保証と考えていた。

Ⅱ.悪魔からの解放者(39b~50節)

1.39b~41節a

Joh 8:39b

イエスは彼らに言われた。「あなたがたがアブラハムの子どもなら、アブラハムのわざを行うはずです。

Joh 8:40

ところが今あなたがたは、神から聞いた真理をあなたがたに語った者であるわたしを、殺そうとしています。アブラハムはそのようなことをしませんでした。

Joh 8:41a あなたがたは、あなたがたの父がすることを行っているのです。」

(1)ユダヤ的家族観に基づく議論

  ①「子ども」は、父親のように考え、父親のように行動するものである。

  ②しかし、ユダヤ人たちはアブラハムのようには行動していない。

  ③彼らは、神から聞いた真理を話しているイエスを殺そうとしている。

  ④アブラハムは、神を信じ、義とされた。

  ⑤ユダヤ人たちは、アブラハムではない別の「父」のわざを行っている。

  ⑥その父とは悪魔であることが、暗示されている。

2.41節b

Joh 8:41b

 すると、彼らは言った。「私たちは淫らな行いによって生まれた者ではありません。私たちにはひとりの父、神がいます。」

(1)ユダヤ人たちは、自分たちは不品行によって生まれた者ではないと言う。

  ①これは、偶像礼拝をしたことがないという主張である。

    *異邦人のような偶像礼拝の民ではないという主張である。

  ②さらに、イエスが不品行から生まれたことを示唆している可能性もある。

(2) 「私たちにはひとりの父、神がいます」

  ①自分たちこそ神の選ばれた民であり、霊的に正しい立場にある。

  ②自分たちは、いつも神だけを礼拝してきた。

3.42~43節

Joh 8:42

イエスは言われた。「神があなたがたの父であるなら、あなたがたはわたしを愛するはずです。わたしは神のもとから来てここにいるからです。わたしは自分で来たのではなく、神がわたしを遣わされたのです。

Joh 8:43

あなたがたは、なぜわたしの話が分からないのですか。それは、わたしのことばに聞き従うことができないからです。

(1)ユダヤ人の家族制度からの議論

  ①家族の間には愛がある。

  ②神が父なら、彼らは父を愛するはずである。

  ③父を愛するなら、父が派遣した者を愛するはずである。

  ④イエスを拒絶することは、神を拒絶することと同じである。

(2)イエスのことばを理解できないのは、知的問題ではなく、霊的問題である。

  ①生まれながらの人間は、御霊に属することを受け入れない(1コリ2:14)。

  ②これは単なる言語の問題ではなく、霊的な拒絶の問題である。

  ③真に神の子であるなら、イエスを愛し、受け入れるはずである。

  ④これは、現在の私たちの信仰にも適用できる。

4.44節

Joh 8:44

あなたがたは、悪魔である父から出た者であって、あなたがたの父の欲望を成し遂げたいと思っています。悪魔は初めから人殺しで、真理に立っていません。彼のうちには真理がないからです。悪魔は、偽りを言うとき、自分の本性から話します。なぜなら彼は偽り者、また偽りの父だからです。

(1)ここでイエスは、彼らの父が悪魔であることを明らかにする。

  ①悪魔に見習っているという意味で、悪魔は父なのである。

  ②悪魔は、偽りの父である。

5.45~46節

Joh 8:45

しかし、このわたしは真理を話しているので、あなたがたはわたしを信じません。

Joh 8:46

あなたがたのうちのだれが、わたしに罪があると責めることができますか。わたしが真理を話しているなら、なぜわたしを信じないのですか。

(1)イエスは「罪なき人」として来られたメシア(2コリ5:21、ヘブ4:15)。

  ①イエスに罪があると責める者はいない。

  ②イエスは、モーセの律法に違反していない。

  ③もし罪を犯していたなら、彼の証言やメシアとしての資格は無効になる。

(2)イエスは、「真理を話している」と断言している。

  ①「わたしが道であり、真理であり、いのちなのです」(14:6)

  ②それでも信じないのは、「権威や伝統」を愛していたから(5:39~40)。

6.47節

Joh 8:47

神から出た者は、神のことばに聞き従います。ですから、あなたがたが聞き従わないのは、あなたがたが神から出た者でないからです。」

(1)真理に対する拒絶は、心の問題であり、霊的な問題である。

  ①神から出た者は、神のことばに聞き従う。

  ②神のことばに聞き従わないのは、神から出た者ではないからである。

7.48節

Joh 8:48

ユダヤ人たちはイエスに答えて言った。「あなたはサマリア人で悪霊につかれている、と私たちが言うのも当然ではないか。」

(1)正しく反論できないと、罵倒することばが出てくる。

  ①ラビ的悪霊論によれば、悪霊の長は「ショムロニ」である。

  ②ヘブル語では、これはサマリア人か悪霊を指すことばである。

    *ギリシア語では「サマリテース」である。

    *ここでの会話は、ヘブル語かアラム語で行われた。

  ③イエスをサマリア人と呼ぶのは、悪霊につかれているという意味である。

  ④「サマリア人=異端者=悪霊の影響を受けた者」という偏見を持っていた。

8.49~50節

Joh 8:49

イエスは答えられた。「わたしは悪霊につかれてはいません。むしろ、わたしの父を敬っているのに、あなたがたはわたしを卑しめています。

Joh 8:50

わたしは自分の栄光を求めません。それを求め、さばきをなさる方がおられます。

(1)イエスの応答

  ①彼らの非難を明確に否定した。

  ②イエスの教えや行動は、すべて父なる神に対する敬意と従順の表れである。

  ③彼らはイエスを神の御子として認めず、むしろ誹謗中傷し、攻撃している。

    *神を敬うべきはずのユダヤ人が、御子を侮辱しているという逆説。

    *「神のことばを語る者はしばしば拒絶される」(預言者たちのパターン)

  ④イエスには、自己顕示欲や承認欲求はない。

    *父の栄光だけを求めている。

  ⑤父がイエスを信じない者を裁かれる。

結論:奴隷(罪の奴隷)と息子(神の子)の霊的対比

1 .自分の努力によって正しくなろうとする vs. 恵みと信仰によって義とされる

2.罪に支配されている vs. キリストによって自由にされている

3       .罪をやめたくてもやめられない vs. 罪から解放され、光の中を歩んでいる

4       .神の家に住む権利がない vs. 神の家の相続人とされている

5       .立場が不安定である vs. 神の家族の一員とされている

6      .本当の平安と希望がない vs. 永遠のいのちの希望を持つ

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