メシアの生涯(135)—3つのたとえ話(2)—

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3つのたとえ話の意味について学ぶ。

「3つのたとえ話(2)」

ルカ15:11~32

1.はじめに

  (1)文脈の確認

    ①十字架の時が迫っている。

    ②「誰が神の国に入れるのか」というテーマが展開された。

    ③「後の者が先になり、先の者が後になる」という教えがあった。

    ④3つのたとえ話は、恐らく最も有名なたとえ話であろう。

⑤「後の者が先になり、先の者が後になる」というテーマの延長線にある。

⑥今回は、最後のたとえ話を取り上げる。

  (2)A.T.ロバートソンの調和表

    §116 イエスは、3つのたとえ話によってパリサイ人と律法学者に反論する。

  2.アウトライン

    (1)起:父親とふたりの息子(11節)

    (2)承:弟の物語(12~20節a)

    (3)転:父の物語(20b~24節)

    (4)結:兄の物語(25~32節)

  3.結論

    (1)2種類の人々

    (2)3つの祝福

3つのたとえ話の意味について学ぶ。

Ⅰ.起:父親とふたりの息子(11節)

   1.11節

Luk 15:11 またこう話された。/「ある人に息子がふたりあった。

    (1)3つのたとえ話に共通した動詞は、エコウ(持つ)である。

    「あなたがたのうちに羊を百匹持っている人がいて、」(4節)

    「また、女の人が銀貨を十枚持っていて、」(8節)

    「ある人に息子がふたりあった」(11節)

    「A certain man had two sons.」(KJV)

      ①日本語訳よりも英語訳の方が、原文の意味がよく表現されている。

    (2)3つのたとえ話では、すべて主人公がなにか大切なものを持っている。

      ①所有者は、自己犠牲の精神でそれを守る。

    (3)このたとえ話の中心テーマ

      ①放蕩息子の立ち帰りではない。それは感動的な話ではある。

      ②父なる神の愛でもない。それもまた感動的な話ではある。

      ③ふたりの息子の対比が、中心テーマである。

Ⅱ.承:弟の物語(12~20節a)

   1.12~13節

Luk 15:12 弟が父に、『お父さん。私に財産の分け前を下さい』と言った。それで父は、身代をふたりに分けてやった。

Luk 15:13 それから、幾日もたたぬうちに、弟は、何もかもまとめて遠い国に旅立った。そして、そこで放蕩して湯水のように財産を使ってしまった。

     (1)通常の遺産相続

      ①父が年老いて、財産の管理運用ができなくなった時点で、遺産を分割する。

      ②兄は、弟の2倍の分を相続した。

    (2)弟の要求は、通常考えられないものである。

      ①親を敬うことが賞賛されたユダヤ人社会では、なおさら異常なことである。

      ②「お父さん。早く死んでくれ」と言っているのと同じである。

    (3)このような場合、父は息子を厳しく処罰することができた。

    「かたくなで、逆らう子がおり、父の言うことも、母の言うことも聞かず、父母に懲らしめられても、父母に従わないときは、その父と母は、彼を捕らえ、町の門にいる町の長老たちのところへその子を連れて行き、町の長老たちに、『私たちのこの息子は、かたくなで、逆らいます。私たちの言うことを聞きません。放蕩して、大酒飲みです』と言いなさい。町の人はみな、彼を石で打ちなさい。彼は死ななければならない。あなたがたのうちから悪を除き去りなさい。イスラエルがみな、聞いて恐れるために」(申21:21)

    (3)しかし父は、弟の要求を吞んだ。

      ①弟は財産の3分の1、兄は財産の3分の2を得た。

②父が死ぬまでは、土地を売ることはできない。

  *父が生きている間は、土地の収穫は父のものとなった。

  *しかし弟は、それには構わず、土地を売って旅立った。

③聴衆のパリサイ人や律法学者たちは、最初からこの父親を軽蔑した。

        *羊飼い、女、そして、軟弱な父親と続く。

    (4)弟は、遠い国に旅立った。

      ①年齢は、18歳以下であろう(独身であった)。

      ②「遠い国」とは、物理的距離ではなく、宗教的、文化的距離である。

      ③デカポリスの中のひとつであろう。

    (5)放蕩して財産を使い果たした。

      ①「湯水のように」とは、意訳である。

      ②人生経験がないために、財産の管理ができない。

      ③後に兄が言うように、「遊女におぼれた」のであろう(30節)。

    (6)この段階で、聴衆はこのたとえ話のポイントを理解したはずである。

      ①イエスは、罪人と交わっているという理由で非難された。

      ②罪人とは、神から遠く離れ、堕落した生活で人生を浪費している人たちである。

      ③弟とは対照的に、兄は父のもとに留まり、堕落した生活から身を守った。

  2.14~16節

Luk 15:14 何もかも使い果たしたあとで、その国に大ききんが起こり、彼は食べるにも困り始めた。

Luk 15:15 それで、その国のある人のもとに身を寄せたところ、その人は彼を畑にやって、豚の世話をさせた。

Luk 15:16 彼は豚の食べるいなご豆で腹を満たしたいほどであったが、だれひとり彼に与えようとはしなかった。

     (1)大ききん

      ①弟は、何もかも使い果たした。

      ②大ききんが起こった。古代世界では、よくある自然現象であった。

      ③大ききんは、「a blessing in disguise」である。

        *変装して近づいてくる祝福

    (2)放蕩生活の結末

      ①彼は、生き延びるために、異邦人のもとに身を寄せた。

        *豚を飼っているので、異邦人だと分かる。

        *ガリラヤ湖の東岸の地では、豚が飼育されていた。

      ②豚飼いは、ユダヤ人にとっては最悪の職業である。

      ③彼は、豚の食べるいなご豆で腹を満たしたいと思うほどであった。

        *不当に低い賃金しかもらっていなかった。

        *豚をうらやましいと思った。

    (3)聴衆は、これでたとえ話が終わると予測したはずである。

      ①罪人は、当然の報いを受ける。

      ②弟は、ユダヤ社会から切り離され、どんな援助も受ける資格を失った。

  3.17~20節a

Luk 15:17 しかし、我に返ったとき彼は、こう言った。『父のところには、パンのあり余っている雇い人が大ぜいいるではないか。それなのに、私はここで、飢え死にしそうだ。

Luk 15:18 立って、父のところに行って、こう言おう。「お父さん。私は天に対して罪を犯し、またあなたの前に罪を犯しました。

Luk 15:19 もう私は、あなたの子と呼ばれる資格はありません。雇い人のひとりにしてください。」』

Luk 15:20 こうして彼は立ち上がって、自分の父のもとに行った。

    (1)最悪の状態で、目が覚めた。

      ①父の家と自分の状態の対比

      ②父の家には、雇い人が大ぜいいる。

        *賃借りの奴隷か、自由意志の奴隷である。

        *裕福な家を暗示している。

      ③自分は、飢え死にしそうだ。

    (2)彼は、雇い人のひとりにしてもらおうと考えた。

      ①息子として受け入れてもらうことは想定していない。

      ②父に告げる内容を、リハーサルしている。

        *「天」とは神のことである。

      ③聴衆は、弟の決断をとんでもない「思い上がり」と考えたであろう。

Ⅲ.転:父の物語(20b~24節)

  1.20節b

ところが、まだ家までは遠かったのに、父親は彼を見つけ、かわいそうに思い、走り寄って彼を抱き、口づけした。

(1)父親は、息子の帰りを待っていた。

      ①父親は、家から遠かったのに、息子を見つけた。

      ②かわいそうに思った。

    (2)走り寄って、彼を抱き、口づけした。

      ①年長者の威厳を投げ捨てた。

      ②口づけは、家族愛の表現である。

  2.21~24節

Luk 15:21 息子は言った。『お父さん。私は天に対して罪を犯し、またあなたの前に罪を犯しました。もう私は、あなたの子と呼ばれる資格はありません。』

Luk 15:22 ところが父親は、しもべたちに言った。『急いで一番良い着物を持って来て、この子に着せなさい。それから、手に指輪をはめさせ、足にくつをはかせなさい。

Luk 15:23 そして肥えた子牛を引いて来てほふりなさい。食べて祝おうではないか。

Luk 15:24 この息子は、死んでいたのが生き返り、いなくなっていたのが見つかったのだから。』/そして彼らは祝宴を始めた。

    (1)父親は、息子の言葉を途中でさえぎり、彼を息子として迎えた。

      ①着物、指輪、靴を与えた。

    (2)宴会を開いた。

①子牛1頭は、村中の人を招いても十分な量である。

        *今日でもユダヤ人たちは、大宴会を開く。

        *バール・ミツバ、結婚披露宴など。

      ②宴会のテーマが再登場している。

        *メシア的王国の象徴である。

        *聴衆は、悔い改めた罪人が御国に入っている姿を想像することができた。

        *弟は、悔い改めた罪人の象徴である。

        *では、兄はどうなったのか。

    (3)古代の作家がよく採用した文学手法がある。

      ①クライマックスを最後まで隠しておくという手法である。

      ②このたとえ話のここまでの展開は、前の2つのたとえ話と同じである。

      ③最後に、クライマックスが来る。

Ⅳ.結:兄の物語(25~32節)

  1.25~28節a

Luk 15:25 ところで、兄息子は畑にいたが、帰って来て家に近づくと、音楽や踊りの音が聞こえて来た。

Luk 15:26 それで、しもべのひとりを呼んで、これはいったい何事かと尋ねると、

Luk 15:27 しもべは言った。『弟さんがお帰りになったのです。無事な姿をお迎えしたというので、お父さんが、肥えた子牛をほふらせなさったのです。』

Luk 15:28 すると、兄はおこって、家に入ろうともしなかった。

     (1)兄は、パリサイ人や律法学者たちの象徴である。

      ①兄は、弟が宴会の席にいることを好まなかった。

      ②パリサイ人や律法学者たちは、罪人たちが御国に入るというメッセージを喜ば

なかった。

③兄は、宴会の席に入ることを拒否した。

④パリサイ人や律法学者たちは、イエスが提示した御国に入ることを拒否した。

2.28b~30節

それで、父が出て来て、いろいろなだめてみた。

Luk 15:29 しかし兄は父にこう言った。『ご覧なさい。長年の間、私はお父さんに仕え、戒めを破ったことは一度もありません。その私には、友だちと楽しめと言って、子山羊一匹下さったことがありません。

Luk 15:30 それなのに、遊女におぼれてあなたの身代を食いつぶして帰って来たこのあなたの息子のためには、肥えた子牛をほふらせなさったのですか。』

     (1)父親は家から出てきて、侮辱的な態度を取る兄をなだめた。

      ①イエスは、パリサイ人や律法学者たちとも食事をともにした。

      ②イエスは、すべての人を御国に招かれた。

    (2)兄の態度と自己認識

      ①「父よ」と呼びかけないのは、軽蔑のしるしである。

      ②自分は、長年奴隷のように働き、戒めを守った。

      ③なのに、宴会を開いてもらったことはない。

      ④兄は、弟の帰還によって何か失ったわけではない。

    (3)兄の誤解

      ①兄は、業によって父との関係を保てると思った。

      ②兄は、愛のゆえに父に仕えたのではない。

      ③兄は、自分のことを奴隷のように考えていた。

   3.31~32節

Luk 15:31 父は彼に言った。『子よ。おまえはいつも私といっしょにいる。私のものは、全部おまえのものだ。

Luk 15:32 だがおまえの弟は、死んでいたのが生き返って来たのだ。いなくなっていたのが見つかったのだから、楽しんで喜ぶのは当然ではないか。』」

     (1)兄には、家にいる喜びと、父の財産の所有権が与えられていた。

      ①宗教的指導者たちは、選びの民として特権的地位を有していた。

      ②彼らには、神の啓示のことばが委ねられていた。

    (2)兄は、弟の帰還を喜ぶべきである。

      ①「あなたの息子」

      ②「おまえの弟」

結論:

  1.2種類の人々

    (1)父親は、2人の息子を持っていた。

      ①全人類は、すべて神の子である。

    (2)2人の息子は、異なった地位を得た。

      ①兄は血のつながりによる息子である。

      ②弟は、悔い改めと回復による息子である。

    (3)全人類は、2種類に分割される。

      ①神による創造のゆえに、神の子である人たちがいる。

      ②信仰と恵みによる贖いのゆえに、神の子である人たちがいる。

      ③どうすれば、後者の意味での神の子になれるのか。

    (4)訳文の比較(17節)

    「しかし、我に返ったとき彼は、こう言った」(新改訳)

    「そこで、彼は我に返って言った」(新共同訳)

    「そこで彼は本心に立ちかえって言った、」(口語訳)

    「こんな毎日を送るうち、彼もやっと目が覚めました」(リビングバイブル)

      ①彼は、遠い国にいた。

      ②彼は、神から遠く離れていた。

      ③彼は、本来の自分の姿に気づいた。

    (5)救いとは、本来の自分の姿に立ち返ることである。

      ①私は、神の「かたち」に創造されている。

      ②今の私は、本来の私の姿ではないと気づくことが救いの第一歩である。

      ③兄の反応は記されていない。

  2.3つの祝福(22節)

Luk 15:22 ところが父親は、しもべたちに言った。『急いで一番良い着物を持って来て、この子に着せなさい。それから、手に指輪をはめさせ、足にくつをはかせなさい。

    (1)一番よい着物

      ①一番よい着物は、父親の所有物である。

      ②長子の権利を意味する。

      ③ヨナタンは、ダビデが王位を継承すると認めた。

    「ヨナタンは、着ていた上着を脱いで、それをダビデに与え、自分のよろいかぶと、

さらに剣、弓、帯までも彼に与えた」(1サム18:4)

    

    (2)指輪

      ①権威の象徴

      ②パロはヨセフに権威を委譲した。

    「そこで、パロは自分の指輪を手からはずして、それをヨセフの手にはめ、亜麻布の

衣服を着せ、その首に金の首飾りを掛けた」(創41:42)

    (3)くつ(サンダル)

      ①息子であることの象徴。奴隷はくつをはかない。

      ②亡くなった兄弟の家を興さない者への罰

    「その兄弟のやもめになった妻は、長老たちの目の前で、彼に近寄り、彼の足からく

つを脱がせ、彼の顔につばきして、彼に答えて言わなければならない。『兄弟の家を

立てない男は、このようにされる』」(申25:9)

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