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メシアの生涯(87)—清めに関する論争—
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清めに関する論争を通して、真の信仰とは何かを確認する。
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「清めに関する論争」
§077 マコ7:1~23、マタ15:1~20、ヨハ7:1
1.はじめに
(1)文脈の確認
①イエスはガリラヤに留まっていた(ヨハ7:1)
「その後、イエスはガリラヤを巡っておられた。それは、ユダヤ人たちがイエス
を殺そうとしていたので、ユダヤを巡りたいとは思われなかったからである」
②口伝律法を巡る論争
③すでにいくつかの口伝律法がイエスによって否定されていた。
*安息日の癒し
*度重なる断食
(2)A.T.ロバートソンの調和表
「エルサレムから下って来たパリサイ人たちがイエスを非難する」(§76)
マコ7:1~23、マタ15:1~20、ヨハ7:1
*マタイはユダヤ人に向かって書いているので、簡潔である。
*マルコはローマ人(異邦人)に向かって書いているので、詳細に解説している。
2.アウトライン
(1)パリサイ人たちの質問(1~5節)
(2)イエスの回答(6~15節)
(3)弟子たちの質問(17節)
(4)イエスの回答(18~23節)
3.結論:
(1)ペテロの体験
(2)口伝律法が誕生する理由
清めに関する論争を通して、真の信仰とは何かを確認する。
Ⅰ.パリサイ人たちの質問(1~5節)
1.1~2節
「さて、パリサイ人たちと幾人かの律法学者がエルサレムから来ていて、イエスの回りに
集まった。イエスの弟子のうちに、汚れた手で、すなわち洗わない手でパンを食べている
者があるのを見て、」
(1)パリサイ人たちと律法学者
①エルサレムから3日の旅をして、イエスのもとに来た。
②恐らくカペナウムであろう。
③目的は、イエスを問い詰め、罠にかけるため。
(2)彼らが見たもの
①イエスの弟子のうちに、汚れた手でパンを食べている者がいた。
②これは、清めの儀式のことである。
③彼らの目は、批判的な目である。
(例話)80点取った子に、20点足りないと言うか、80点も取ったというか。
2.3~4節
「──パリサイ人をはじめユダヤ人はみな、昔の人たちの言い伝えを堅く守って、手をよ
く洗わないでは食事をせず、また、市場から帰ったときには、からだをきよめてからでな
いと食事をしない。まだこのほかにも、杯、水差し、銅器を洗うことなど、堅く守るよう
に伝えられた、しきたりがたくさんある──」
(1)「昔の人たちの言い伝え」とは、口伝律法のことである。
①彼らは、モーセの律法を破っているという理由でイエスを批判したことはない。
②論争のテーマは、常に口伝律法である。
③「昔の人たちの言い伝え」=口伝律法=ミシュナ
(2)パリサイ人たちは、新しい規則を民に課すことに喜びを覚えていた。
①民は、それに従順に従っていた。
②紀元1世紀、口伝律法はモーセの律法以上のものと見なされるようになった。
「わが子よ、モーセの律法よりも、ラビたちの言葉により注意を払いなさい」
「聖書のことばを学ぶことは、よくも悪くもない。しかし、ミシュナを学ぶこと
はよい習慣であり、神からの報酬をもたらす」
③紀元3世紀、ミシュナは成文法となる。
④タルムード=ミシュナ+ゲマラ
(3)マルコは、口伝律法の中にある清めの儀式に言及している。
①清めの儀式は、前1世紀に、シャマイ学派とヒレル学派によって体系化された。
②手を洗う場合は、指先から肘まで洗う。
③一粒の種を食べる場合でも、これを行う。
③そうでない場合は、汚れた食物を食べたのと同じことになる。
④また、殺人や遊女と交わったことと同じになる。
⑤もし近くに水がないなら、最大4マイルまで歩け。
3.5節
「パリサイ人と律法学者たちは、イエスに尋ねた。『なぜ、あなたの弟子たちは、昔の人
たちの言い伝えに従って歩まないで、汚れた手でパンを食べるのですか』」
(1)弟子たちの罪は、先生の罪である。
①口伝律法を破っているという理由で、イエスと弟子たちは非難されている。
②旧約聖書の中には、食前に手を洗えという律法はどれくらいの数あるか。
Ⅱ.イエスの回答(6~15節)
1.6~8節
「イエスは彼らに言われた。『イザヤはあなたがた偽善者について預言をして、こう書い
ているが、まさにそのとおりです。「この民は、口先ではわたしを敬うが、その心は、わ
たしから遠く離れている。彼らが、わたしを拝んでも、むだなことである。人間の教えを、
教えとして教えるだけだから。」あなたがたは、神の戒めを捨てて、人間の言い伝えを堅
く守っている』」
(1)イエスは、口伝律法は偽善の教えであるとした。
①イザ29:13の引用
②口先では神を敬う。
③心は、神から遠く離れている。
(2)人間の言い伝えを、神の教えの上に置いている。
①神の戒めを捨てている。
②人間の教えを教えている。
2.9~13節
「また言われた。『あなたがたは、自分たちの言い伝えを守るために、よくも神の戒めを
ないがしろにしたものです。モーセは、「あなたの父と母を敬え」、また「父や母をののし
る者は死刑に処せられる」と言っています。それなのに、あなたがたは、もし人が父や母
に向かって、私からあなたのために上げられる物は、コルバン(すなわち、ささげ物)にな
りました、と言えば、その人には、父や母のために、もはや何もさせないようにしていま
す。こうしてあなたがたは、自分たちが受け継いだ言い伝えによって、神のことばを空文
にしています。そして、これと同じようなことを、たくさんしているのです』」
(1)偽善の例として、十戒の第5戒が破られていることを指摘する。
①両親を敬うこと
②「コルバン」とは、ヘブル語のラビ用語である。
③「コルバン」と言えば、神に捧げられたものとなる。
*神殿に捧げる。
*自分のために用いる。
*しかし、他の人の私的必要のために用いてはならない(両親も含めて)。
(2)これと同じようなことを、たくさんしている。
①安息日の規定に関して
②「安息日の道のりほどの距離」(使1:12)とは、約900メートル。
③僕を荷物と共に先に遣わし、いくつかの地点に配置しておく。
④この方法で、いくらでも移動できた。
(3)マタ15:13~14で、パリサイ主義の本質が語られている。
「わたしの天の父がお植えにならなかった木は、みな根こそぎにされます。彼らのこ
とは放っておきなさい。彼らは盲人を手引きする盲人です。もし、盲人が盲人を手引
きするなら、ふたりとも穴に落ち込むのです」
①父が植えなかった木であるので、根こそぎにされる。
②盲人を手引きする盲人である。
③ふたりとも穴に落ち込む。
*紀元70年のエルサレム崩壊
3.14~15節
「イエスは再び群衆を呼び寄せて言われた。『みな、わたしの言うことを聞いて、悟るよ
うになりなさい。外側から人に入って、人を汚すことのできる物は何もありません。人か
ら出て来るものが、人を汚すものなのです』」
(1)汚れは、「アウトサイド・イン」ではなく、「インサイド・アウト」である。
①16節はない。写本の問題。
Ⅲ.弟子たちの質問(17節)
1.17節
「イエスが群衆を離れて、家に入られると、弟子たちは、このたとえについて尋ねた」
(1)弟子たちは、イエスの教えを理解しなかった。
(2)マタ15:15
「そこで、ペテロは、イエスに答えて言った。『私たちに、そのたとえを説明してくだ
さい』」
①ペテロも理解しなかった。
Ⅳ.イエスの回答(18~23節)
1.18~19節
「イエスは言われた。『あなたがたまで、そんなにわからないのですか。外側から人に入
って来る物は人を汚すことができない、ということがわからないのですか。そのような物
は、人の心には、入らないで、腹に入り、そして、かわやに出されてしまうのです。』イ
エスは、このように、すべての食物をきよいとされた」
(1)外から入った物は、腹に入り、外に出される。
①人の心には入らない。
②食事の前に手を清めることは、無意味な儀式である。
(2)「イエスは、このように、すべての食物をきよいとされた」
①これは、将来すべての食物がコシェル(清浄食物)とされることの予告である。
②これは、最後の晩餐の席でイエスが紹介される新しい契約の予告である。
③イエスを信じた者は、旧約聖書の食物規定から自由にされている。
2.20~23節
「また言われた。『人から出るもの、これが、人を汚すのです。内側から、すなわち、人
の心から出て来るものは、悪い考え、不品行、盗み、殺人、姦淫、貪欲、よこしま、欺き、
好色、ねたみ、そしり、高ぶり、愚かさであり、これらの悪はみな、内側から出て、人を
汚すのです』」
(1)新共同訳
「更に、次のように言われた。『人から出て来るものこそ、人を汚す。中から、つまり
人間の心から、悪い思いが出て来るからである。みだらな行い、盗み、殺意、姦淫、
貪欲、悪意、詐欺、好色、ねたみ、悪口、傲慢、無分別など、これらの悪はみな中か
ら出て来て、人を汚すのである』」
(2)内側にある「悪い思い」が、言葉や行為となって表れてくる。
①合計12のものがリストアップされている。旧約聖書の匂いがする。
②前半の6つは、複数形の名詞である。
「みだらな行い、盗み、殺意、姦淫、貪欲、悪意」
*具体的行為
③後半の6つは、単数形の名詞である。
「詐欺、好色、ねたみ、悪口、傲慢、無分別」
*心の在り方
(3)人生のすべてに通じる真理である。
(例話)DVの傾向のある人の矯正
結論:
1.ペテロの体験
(1)イエスの答えの意味がまだ分かっていなかったようである。
(2)使10:10~16
「すると彼は非常に空腹を覚え、食事をしたくなった。ところが、食事の用意がされ
ている間に、彼はうっとりと夢ごこちになった。見ると、天が開けており、大きな敷
布のような入れ物が、四隅をつるされて地上に降りて来た。その中には、地上のあら
ゆる種類の四つ足の動物や、はうもの、また、空の鳥などがいた。そして、彼に、『ペ
テロ。さあ、ほふって食べなさい』という声が聞こえた。しかしペテロは言った。『主
よ。それはできません。私はまだ一度も、きよくない物や汚れた物を食べたことがあ
りません。』すると、再び声があって、彼にこう言った。『神がきよめた物を、きよく
ないと言ってはならない。』こんなことが三回あって後、その入れ物はすぐ天に引き
上げられた」
(3)ペテロは、モーセの律法が生活の規範である時代は終わったことを知った。
(4)新約時代は、ユダヤ人も異邦人も信仰と恵みによって救われる時代である。
2.口伝律法が誕生する理由
(1)忠実に神のことばを教えるラビが登場する。
(2)そのラビは、人々の信頼を得る。
(3)そのラビは、次第に神のことばを薄めたり、混ぜ物をしたりする。
(4)人々はなんでも言うことを聞くので、最後はやりたい放題になる。
(5)指導者に従う人たちには、責任がある。
①新しい教えが出て来たときに、それをみことばに従って吟味する。
②指導者が神のみこころに沿って奉仕するように、祈り支える。
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